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バレンタインデー粉砕デモへの苦言 届く声で批判するという社会運動の流儀

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
私たち夫婦はチョコのやりとりを封印 一緒にスイーツを食べる日にした

バレンタインデー粉砕デモが証明したものとは

気づけば、30周年が経ってしまった。国生さゆりが、「バレンタイン・キッス」をリリースしたのは1986年2月1日のことだった。余談だが、同曲はサビでは「バレンタインデー・キッス」と歌っているが、タイトルは「バレンタイン・キッス」なのである。2007年2月14日にPerfumeが「チョコレイト・ディスコ」をリリース(シングルのカップリング曲)するまで、バレンタインデーといえばこの曲だった。「バレンタインデー」と聴くとこの2曲を思い出してしまう、40男としては。

前置きが長くなってしまったが、バレンタインデーについて考える。私たちはいつまでこのイベントを続けるのか、と。

2月12日、今年も革命的非モテ同盟による「バレンタインデー粉砕デモ」が開催された。

同サイトによると趣旨は次のようなものだ。

モテない人の明るい未来を築き上げるべく、非モテ同志の連帯を呼び掛けてきた革命的非モテ同盟が、バレンタインデー粉砕と恋愛資本主義反対を訴えるデモを開催いたします。

出典:革命的非モテ同盟 【2016年2月12日開催】バレンタインデー粉砕デモ2016 in 渋谷

やはり同サイトによると、次のようなことを主張するデモのようである。

「バレンタインデー粉砕!」

「チョコレート資本にだまされるな!」

「恋愛資本主義反対!」

「カップルは自己批判せよ!」

「リア充は爆発しろ!」

「アベノミクスなんかいくらやってもモテねーぞ!」

「SE○○Dsのデモはリア充臭いぞ!」

「街中でイチャつくのはテロ行為。テロとの戦いを貫徹するぞ!」

出典:革命的非モテ同盟 【2016年2月12日開催】バレンタインデー粉砕デモ2016 in 渋谷

見に行きたくて仕方なかったが、予定がありお邪魔することができなかった。余談だが、数年前に見学に行った際は、なぜかマイクをふられたので、しょうがないのでアジ演説をしたことがあった。即興で思ったことを主張した。

今年度のデモはキャリコネニュースがレポートしていた。BLOGOSにも転載されていた。この記事だ。

「非モテ議員選出を」バレンタイン粉砕デモ

http://blogos.com/outline/160537/

「女性の活用ばかりが注視されているが、モテない人にとっても、未だに昇進に結婚に影響するような状態では真のダイバーシティマネジメントが実現されない」

「非モテを活用できない企業に未来はない!!」

出典:革命的非モテ同盟が9回目となる「バレンタインデー粉砕デモ」を実施! 浮かれ気分の渋谷に怒りの鉄槌を下す

などと演説をした上で・・・

「バレンタインデー粉砕!」「リア充は爆発しろ!」

「恋愛至上主義反対!」

「お菓子メーカーの陰謀に踊らされるな!」「モテない人間をバカにするな!」

「もらったチョコの数で人間の価値を計るな!」「カップルは自己批判せよ」

出典:革命的非モテ同盟が9回目となる「バレンタインデー粉砕デモ」を実施! 浮かれ気分の渋谷に怒りの鉄槌を下す

などと連呼しつつ、渋谷の街を練り歩いたという。

もっとも、参加者は20名程度だったというが。とはいえ、このレポートはBLOGOSだけで1600いいねくらいされている。ここ数年、同団体のデモをウォッチしているが、参加者数はだいたいこれくらいである。思うに、ネットニュースやソーシャルメディアに対する話題提供のために行っているかのように思う。

私は、前提としてデモという行為自体に対して肯定的である(人権を侵害するものをのぞく)。市民が思っていることをアピールする手段として、デモという行為をすることは良いことだと思う。どんどんやったらいい。デモは別に言いっ放しでも構わないと思う。おかしいと思った違和感について、異議申し立てすることには意義がある。よくデモに対しては、解決策がない、具体性がないなどの批判もあるが、当事者はその問題に向き合うことが精一杯で、具体的な解決策を考えられないことや、考えたところで実効性が低いということはよくあるわけだ。バレンタインデーに対して問題意識があり、問題提起しようというのなら、その怒りと主張を伝えるためにこのような粉砕デモを行うことも手段の一つである。

このように、バレンタイデーについて薄々感じていること問題提起し続ける姿勢には敬意を表したい。

バレンタインデーや恋愛の変質に対応し切れているだろうか?

ただ、このムーブメントを長年注目してきた立場から、応援の意味も含めて苦言を呈することにする。前述したように、私は別にデモに、解決策などは期待しない。問題提起、立場の表明などだけで十分だ。それが社会に伝わることで、社会問題として認識され、議論の輪が広がり、場合によっては政策なり、対策なりが生まれていく。

とはいえ、このデモが問題提起にすらなりえず、単なるネタと化しているようにしか見えないのはなぜだろうか。もちろん、それこそソーシャルメディアやネットニュースのためのネタ提供のために行っているのなら別だが。

私が感じたのは、実は「主張が古い」「故にネットニュースのネタくらいにはなるが、共感を呼ばない」「問題提起するべきはそこじゃない」ということではないだろうか。ズレているのである。

別にみんなモテることを期待していないし、非モテであることも許容される世の中になった。「リア充爆発しろ」というが、現在では完全にクラスタがわかれ、羨ましがる存在でも、ましてや争う対象でもなくなったのである。

根本的にズレているのは、バレンタインデーというイベントの変質に、このデモの主張が合致していないことである。国生さゆりが「バレンタイン・キッス」を歌った頃から30年たっている。バレンタインデー=恋人の日というのは、すでに昭和の考え方なのである。

江崎グリコが1月6日に発表した「バレンタイン事情2016」を参照しつつ考えてみよう。

すでにチョコを渡す相手は多様化しているのである。たとえば、女性がチョコを贈る相手は「女性の友達」がトップで45.2%(複数回答)であり、2位が「父親」で39.4%だ。告白する日から感謝の気持ちをシェアする日に変わりつつある。高校生男子の3人に1人がチョコを渡す、「チョコ男」化も指摘されている。

もっとも、この手の調査それ自体が同デモが主張した「チョコレート資本にだまされるな!」という施策そのものではある。だったら、そこを徹底的に具体的に批判するべきだった。そもそも、デモが小規模なこともあるが、いくら批判しようとなんとなく面倒臭いなと思いつつも、バレンタインデーは続いていくのだ。つまり、手強い、しぶとい存在なのである。だから本当に粉砕、打倒しようとするならば、徹底的に研究し、共感を得るような批判の仕方が必要だっただろう。

今の時代ほど、対象に届く声で批判するスキルが求められている時代はない。

評価できる部分もある。キャリコネニュースの記事によると、職場のチョコレートの問題について触れていたとのことだが、これこそ、今、職場で庶民が困っている問題である。男女比、年次、何よりも雇用形態と所得が多様化する職場において、チョコレートというのは労働者を圧迫する存在なのである。この義理チョコならぬ「義務チョコ」と化した問題について追求するべきではなかっただろうか。

私は今年から、家族会議を経て、夫婦でのチョコレートのやり取りを中止し、その代わりに一緒にスイーツを食べることにした。このように人々がチョコに疲れているという実態についてもより鋭く、深く、つくべきではなかったか。私もバレンタインデーは「うざい」と思っている。周りの学生や仕事仲間からも「バレンタイデーを批判してほしい」という声を頂いた。ただ、彼ら彼女たちの怒り、違和感というのはこのデモとは少し違っていて、面倒くささ、踊らされている感なのである。

まあ、先日のSession−22で学んだが、固形のチョコを食べられるようになってからまだ100年くらいだし。そして尊敬する先輩から学んだが、バレンタインデー=チョコレート会社の陰謀というのも少し違っていて。ただ、それでも陰謀だと感じてしまうのは、チョコレート会社やデパート、スーパーの煽り方が下手なのではないだろうか。そのあたりもついてほしかった。

このバレンタインデー粉砕デモというムーブメントは、考察対象としては極めて面白いが、惜しい存在だと思うし、教訓も含むものである。別に20名程度のデモでも、ネットを媒介として主張が広がる可能性があるという点は希望だといえよう。しかし、別にデモに建設的な提案は求めないとはいえ、世の中を変える、動かすには届く声で批判すること、共感を得られる問題設定をすることが必要なのだ。

「一強打破」などという、ヤンキーの「全国制覇」のようなことを言い出す野党は、このムーブメントを反面教師としてベンチマークし、少しでも共感を得られる、信頼される党に変わるべきである。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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