抱かれたくない芸能人、テレビで見たくない芸人…週刊誌の定番「ネガティブランキング」は本当に必要なのか
「週刊誌の「女性が嫌いなコメンテーター」のランキング。マスコミはまだこんなのやってる。」
3月25日、お笑い芸人のスマイリーキクチさんはXでこのように投稿した。同投稿は、一部週刊誌が女性500人に調査したという「女性が嫌いなコメンテーター」ランキング(3月25日付)の発表を受けたもの。スマイリーキクチさんは「「嫌いな人に嫌いと言って何が悪い」と。大人がこれだもん。イジメは絶対になくならない。」とその悪影響についてコメントした。
前述の「嫌いなコメンテーター」や、定番の「抱かれたくない芸能人」など「ネガティブランキング」は以前から実施されている。直近では、3月30日も別週刊誌による「「テレビで見たくない」男性芸人ランキング」が発表され、3位に山内健司さん(かまいたち)、2位に有吉弘行さん、1位に小峠英二さん(バイきんぐ)が選ばれていた。また同様に「「テレビで見たくない」女性芸人ランキング」では3位にやす子さん、2位に江上敬子さん(ニッチェ)、1位にフワちゃんが選出。この週刊誌はほかにも「消えると思うお笑い第七世代ランキング」などの企画が実施されている。
「抱かれたくない男ランキング」の常連だった出川哲朗さんの葛藤
かつてはさまざまなメディアの定番企画だった「ネガティブランキング」。ただ近年、人の名誉や心を傷つけるものとしてこういった企画の実施に疑問が投げかけられている。読者のコメント欄を見ると「テレビで見たくない男性芸人・女性芸人」のランキングについても、「週刊誌やネットニュースを始めとする各マスコミも、お笑い芸人のいじりや毒舌、バラエティ番組の企画に対しては「いじめを助長する」「子供に悪影響」だとか批判するくせに、自分達はこういうネガティブなランキングを平気で企画するし、自分達の方がよっぽどいじめを助長してるし子供に悪影響だと思う」「意味のないと言うより、何も生み出さないランキングです」「テレビで見たくないランキングは誰が得してるんでしょう」といった指摘が並んでいる。
2023年9月24日にはアルコ&ピースの平子祐希さんも、週刊誌による「見たくないママタレランキング」の結果に反応。平子祐希さんは自身のXで「「見たくないママタレランキング」とか、その他諸々もそうなんだけど。ママタレって事はお子さんいるんだろう。虐待を糾弾する側であるはずのメディアが、何の罪も無い児童の精神を虐待しているこの愚行を、内側の大人は誰も止めないのか。」と憤りを込めた投稿をおこなった。
2018年4月18日放送『めざましテレビ』(フジテレビ系)では、出川哲朗さんがかつて「嫌いな男ランキング」「抱かれたくない男ランキング」の上位の常連だったことについて、「芸人としては正解」としながら、「人間としてはダメなんだ」と葛藤があったことを口にした。出川さんは、母親から「どんなジャンルでも日本一になることはすごいことなんだから」と励まされて気持ちが楽になったそうだが、そもそも「ネガティブランキング」がなければそんな悩みを抱えることもなかったはず。現在は好感度が高いタレントとして見られている出川哲朗さんだが、同番組で「世間って勝手だなって正直思いますよ」と漏らした。その言葉は紛れもない本音だろう。
「ネガティブランキング」は認知度が高い証拠なのか
「ネガティブランキング」を否定的に考える人が大多数だが、一部からは肯定的に捉えられている。
その理由として「認知度が高い証拠」「芸人にとっては名誉じゃないか」などの意見が見られた。つまり「人気商売なのだからしょうがない」とするものである。たしかに、知名度がないタレントはこういったランキングには名前はあがらない。その点では「売れている証拠」と言えるだろう。
ただこの「人気商売なのだからしょうがない」「芸人にとっては名誉じゃないか」は、タレント本人が言うならまだ理解もできる。しかし、そうでなければ言ってはいけないこと。これは誹謗中傷問題にも当てはまる。たまに「芸能人は人気商売なんだからいろいろ言われるのはしょうがない」との意見がある。それを“コメントする側”が口にするのは明らかに間違っている(※註1:ちなみにこの言葉は筆者がインタビューしたバンド・Chevonのメンバーである谷絹茉優さんの発言である)。
※註1:Chevonが音楽を通して現在の風潮に投げかけたいこと「いろいろ言われて当然という履き違えた正義がいろんな人を傷つけている」(ぴあ関西版WEB)
月亭方正さん「何歳になっても褒められたいもの」
筆者は先日、出川哲朗さんと同時期に「ネガティブランキング」で上位にランクインしていた落語家・月亭方正さん(山崎邦正さん)をインタビューした。取材時、月亭方正さんは「落語家になる前、タクシーに乗ったときに運転手さんが『僕はネジ工場をやっていたんやけど倒産して、それから運転手をやっていて。大変なことが多いけど、でもそんな生活のなかでも方正さんをテレビで観て笑うのが一番の楽しみなんや』と言われたんです。涙が出るくらい嬉しくて」と振り返ってくれた。
筆者はそこで「方正さんはかつて『嫌いな芸人』などネガティブなランキングに入っていたこともありましたが……」と話を振ると、「やっぱりそうやって人の役に立てるのが嬉しいです」「何歳になっても褒められたいものなんですよ」と口にしていた。そういった話から察するに、月亭方正さんも当時はお笑い芸人としてその結果を笑いに変えていたものの、やはり「ネガティブランキング」を複雑な思いで受け止めていたのではないだろうか。
昔は小学校、中学校の卒業文集などでもこういった「ネガティブランキング」があった。いや、常日頃から「嫌いな同級生ランキング」のようなものがあった。もちろん今はなくなりつつあるはず(もし実施されていたら大きな問題として騒がれるだろう)。それでもメディア側が「ネガティブランキング」の企画をおこない、それがこうやって発表され続ける以上、スマイリーキクチさんが指摘するように学校や職場からイジメであったり、誰かをバカにしたりする意識は消えないのではないか。その点で「ネガティブランキング」は実施や企画内容を見直すべき時期にきているのかもしれない。
「ランキング」というものはいろんな物事を見たり、知ったりする上で重要なものではあると思う。ただ、できればその内容は楽しいものであってほしい。