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しまむらのトラブルを笑えないアパレル企業は?--取引先の労働問題は誰のせいか

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
その服、どこの誰が作ったものですか?(ペイレスイメージズ/アフロ)

■人権問題への対応

先日「しまむら、技能実習生の人権侵害ないよう取引先に通知へ」という報道がありました。

内容としては、カジュアル衣料品大手のしまむらが、全ての取引先企業に対して、技能実習生への人権侵害がないよう求める通知を出すことを決めた、という話です。その発端は、しまむらが衣料品を仕入れている取引先が業務を発注している下請け会社で、外国人技能実習生が違法に働かされていたことが判明したため。取引先に法令順守を促すことで、企業の社会的責任に対する姿勢を打ち出す狙いがあるとされています。

この件ネットでは好意的なリアクションが多い印象ですが、これは、本来は当たり前の企業活動です。まさに「殺人はダメですよ」といっているくらい普遍的にダメなことを言っています。しまむらは上場企業ですが、社会的責任(CSR)関連の情報開示がほとんどありませんし、このあたりの取り組みはやってないから開示できないと思っていたら(調査して開示レベルは知っていた)この報道。申し訳ないですが「やっぱりそうだよね」という印象が拭えません。今ごろこの指摘ですか?という印象もあります。ただ、当たり前のことを当たり前に行うことは、なかなか大変なことです。ぜひこの件をきっかけにして、しまむらさんも倫理的なビジネスを作っていただきたいです。

日産の元社長に関する報道が続いていますが、日産もしまむらと同様に、企業評価機関のコーポレートガバナンス(組織統治)のレベルは低かったようです。しまむらも今回のリスクの顕在化にこりて、積極的にサプライチェーンマネジメントに取り組むようになればいいですね。

■他のアパレルは大丈夫なのか

さて、問題なのは「では、しまむら以外のアパレル企業は対応できているのか」という点です。結論から申し上げますと「かなり怪しい」が答えです。今後対応をしなければ、同業他社でも同様の労働問題はいつか起きるだろうというレベル感です。現実的な話をしますと、多くの人が知らないだけで、この手の問題は“今この瞬間”も起きている可能性が非常に高いです。

最近はファッションの業界でも「サステナビリティ」という企業の社会的責任に関連するワードがトレンドのようですし、アパレル業界の大手中の大手である主な上場企業の社会的責任に関するウェブサイトを確認しましょう。

ファーストリテイリング|サステナビリティ

しまむら|CSR活動

ワールド|CSR

オンワードホールディングス|環境・社会貢献活動

青山商事|社会への取り組み

ワコールホールディングス|CSR

アダストリア|CSRの考え方

AOKIホールディングス|社会・環境活動

TSIホールディングス|CSR基本方針

ユナイテッドアローズ|CSR

ファーストリテイリングとワコールの情報開示レベルは素晴らしいです。次点では、ユナイテッドアローズです。他社と比べてより詳細な取引先への対応が開示されています。最近でいえばESG投資の文脈からも、上場企業に対する情報開示圧力は間違いなく高まっていますので、リスクマネジメントの観点からも、適切な対応と開示をすべきです。

直接ヒアリングはしていませんが、開示情報からみるに、取引先へのコンプライアンス対応の監査はほとんどしておらず、しまむらと同様な問題が起きるだろうなというところでしょうか。皆様、上場している企業なのに、評判リスクとかブランド毀損リスクなどを考えたことはないのでしょうか。

ちなみに、世界で商慣習において社会的責任に積極的に取り組むプレイヤーが限られていました。たとえば、パタゴニア、H&M、リーバイス、ピープルツリー、ステラマカートニー、アディダス、ナイキなどの活動が有名です。最近は、ラグジュアリーブランド(高級ブランド)も積極的に取り組み始めてますよ。

では、以下であらためて、国内トップ規模のファーストリテイリングをケースとして比較してみましょう。

■ファーストリテイリングの場合

該当ウェブページ
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ファーストリテイリングは、昔から報道(労働問題など)で叩かれているイメージしかない方もいるかもしれませんが、最近ではちゃんとやっているようです。規模でいうとアパレル・ファッションのリーディングカンパニーですし、社会にネガティブインパクトを出さないよう、様々な取り組みをしています。

ファーストリテイリングはすでに取引先への労働環境モニタリング(CSR調達活動)を行っています。

また、先々週ですが、ファーストリテイリングがグローバルな調達網を公開しました。サプライチェーンの透明性を高め、環境への配慮と適正な労働環境の実現、および人権問題により一層の責任を果たす目的で、ユニクロの主要素材工場のリストを公開とのことです。はっきり言って、しまむらとの取り組みの差が天と地ほど離れています。

ファーストリテイリングなどは販売だけではなく製造も行っているので、コンプライアンス等のリスクも一気に増えます。ファーストリテイリングだけではないですが、大手アパレルは、主に環境や人権系のNGOから叩かれていますのはご存知かと思います。

取引先を含めた対応でも、ジーンズ加工時の水使用量を90%削減したり、動物愛護の観点から高級ヤギ毛などを2020年までに使用を取りやめる発表もしています。動物愛護はアニマルウェルフェア(動物福祉)等の観点もあり、昨今では社会的責任の活動のカテゴリで注目されています。これらは世界的な動きであり、グローバル企業として対応した、ということでしょう。

■まとめ

しまむらの件は、アパレルだけではありませんが、どの企業にも起こりうる話ですし、自社だけがよければいいということではなく、社会全体の労働者がより働きやすい環境になってもらう必要があります。

この件で問題なのは、あなたの着ている服が、誰かの犠牲の上に成り立っているとしたら、あなた自身が反社会的な行為に加担していることになってしまうことです。最終的には労働問題があるのに解決せず販売している企業の責任なのですが、消費者は購買によってブラックな企業を間接的に応援していることになってしまうのです。これはよろしくありません。

企業がサプライチェーンに目を光らせるのは当然ですが、消費者も社会悪に関与しない姿勢が必要です。あなたのお金の行き先で良くなる未来もあります。少しだけでも、デザインや値段だけではなく企業姿勢に目を向ける人が増えたら、社会も今よりちょっとは良くなるかもしれません。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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