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巡洋艦モスクワ撃沈の真相? 索敵に成功した驚きの理由を報じたウクライナ紙

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル(量産型)

 2022年4月13日にウクライナ軍のネプチューン地対艦ミサイルによる攻撃を受けて翌日4月14日に沈んだロシア海軍の巡洋艦モスクワについて、ウクライナ紙「ウクラインスカ・プラウダ(Українська правда)」が目標を捉えた経緯の「真相」を記事にしています。

 ウクラインスカ・プラウダはウクライナ軍関係者に数十回の取材を行い、真相を聞き出し、歴史的なネプチューン実戦発射時の写真を譲り受けて掲載しています。

2022年12月13日:ウクラインスカ・プラウダ「巡洋艦モスクワをどのように撃破したか」

 ウクライナのネプチューン地対艦ミサイルがロシアの巡洋艦モスクワをどのように攻撃したか。その最大の謎だった索敵方法について言及がありました。

  • 4月13日、巡洋艦モスクワは沿岸から120km沖合いに居た。
  • 当時は雲が厚くバイラクタルTB2無人機は飛ばせなかった。
  • NATOから偵察機や偵察衛星の索敵情報の提供は受けていない。
  • 沿岸レーダーは水平線の向こうが見えない(水上目標探知距離18km)。
  • ウクライナ軍は超水平線レーダーを未保有。※ただし例外あり、理由は後述。
  • 4月13日午後4時、通常のレーダーで120km先の大きな反応を捕捉。
  • 通常は起き得ない、厚い雲がレーダー波を反射した自然現象。
  • レーダー反応の大きさから大型艦と判断し攻撃を敢行。

 通常のレーダーでは水平線の向こうの地球の丸みの陰に隠れた目標は探知できませんが、予想外の自然現象により探知できたというのです。俄かには信じがたい話ですが、実は自然現象としては起こり得るものではあります。

ラジオダクト:電波の異常伝播

大気の状態が異常なときには水平線のさらに下まで電波が伝搬するという状態がある。光学的にはこれは蜃気楼として知られた現象であるが、マイクロ波でも同様な現象がある。例えば、大気の低い気層に温度の逆転層があるときなどで、その大気の層がマイクロ波に対し、ちょうど超長波に対する電離層と同じような効果をもって、図9・16のような導波管型の伝搬をしてマイクロ波が異常に遠方まで伝わる。これをラジオダクト(Radio Duct)と呼んでいる。

出典:通信講習用船舶電気装備技術講座(レーダー・基礎理論編):日本財団

通信講習用船舶電気装備技術講座(レーダー・基礎理論編):日本財団より引用
通信講習用船舶電気装備技術講座(レーダー・基礎理論編):日本財団より引用

 つまり光学的に言えば蜃気楼のような自然現象が電波的に発生して、遠距離の目標が探知できてしまったという可能性です。このダクト現象と呼ばれるレーダー波の異常伝播は、雲があるかどうかよりも大気の温度の逆転層があるかどうかで発生するようです。

 しかし偶然性が強すぎる説明です。通常は発見できない筈の遠距離の反応を巡洋艦モスクワと判断して攻撃を決断したという経緯も驚きます。もしかすると本当の「真相」を隠すためにウクライナ軍の当局は情報を制御している可能性があります。

 ただし、絶対的な確信が持てないから全力攻撃を行わず対艦ミサイルを2本だけ試しに撃ってみたというなら、攻撃が僅か2本だけだった説明は付きます。(※ネプチューンは4連装発射機で1個大隊6発射機の構成なので、大隊が完全ならば最大24本の同時発射が可能)

 そして民間船はAIS(船舶自動識別装置)の情報で位置が分かるので、民間船の位置情報が発信されていない戦闘海域に大きな反応があれば軍艦だと判断できます。

 もしこれが事実ならば、巡洋艦モスクワは予想外の自然現象で偶然に発見されてしまい、試しにネプチューン地対艦ミサイルを撃ってみたら奇襲となり、油断していた巡洋艦モスクワは迎撃もできずに被弾して沈没したことになります。

 実際に沈没寸前の巡洋艦モスクワが撮られた写真では、後部トップに1基のみ装備されている長距離艦対空ミサイルシステム「S-300Fフォールト」用の火器管制レーダー「3R41ヴォルナ」が真後ろの通常状態を向いており、戦闘状態に無かった可能性が指摘されていました。

ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問が4月18日に公開した沈没寸前のモスクワ
ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問が4月18日に公開した沈没寸前のモスクワ

 ウクライナ軍の無人偵察機が接近して来る様子が無く、NATOの偵察機も付近を飛んでおらず、油断していた巡洋艦モスクワは奇襲されてしまい、僅か2本の対艦ミサイルの発射で迎撃も無くそのまま2本とも命中したという戦闘経緯の謎について、一定の説明はできてはいます。

 ただしウクラインスカ・プラウダの報道が正しいという裏付けはまだ十分とは言えません。ウクライナ軍の当局による情報操作の可能性もあるでしょう。本当の「真相」は戦争が終わった後に明かされるのかもしれません。

 それでもロシア海軍の黒海艦隊旗艦が開戦から僅か1カ月半後にウクライナ軍によって撃沈されたという事実は確定しています。

追記:多機能レーダー複合体「ミネラル-U」

 ウクライナ軍の車両搭載型の多機能レーダー複合体「ミネラル-U(Мінерал-У)」はアクティブレーダーおよびパッシブレーダーを備えた表面目標を捜索するレーダーですが、これに搭載されたアクティブレーダーは前述のラジオダクト(電波の異常伝播)を利用した探知が可能となっています。つまり使用条件が気象に左右されますが、限定的な超水平線での探知が可能となっています。

ウクライナ国営軍需企業ウクロボロンプロムより多機能レーダー複合体「ミネラル-U」
ウクライナ国営軍需企業ウクロボロンプロムより多機能レーダー複合体「ミネラル-U」

 「ミネラル-U」は元々はソ連の艦船用レーダー「ミネラル-M」が原形で、中国もこれを模倣した「366型」捜索レーダーを保有しています。そして2020年にアメリカが対ロシア/中国の研究用にウクライナから「ミネラル-ME」のレーダーを購入しています。

 ウクラインスカ・プラウダの2022年12月13日記事「巡洋艦モスクワをどのように撃破したか」では、多機能レーダー複合体「ミネラル-U」について詳しい説明はありませんでしたが、ウクライナ軍は特定の気象条件下で利用できるラジオダクトを用いた限定的な超水平線探知を理解した上で、「ミネラル-U」で探知した情報をもってロシア巡洋艦「モスクワ」を攻撃していたのでしょう。

 特定の気象条件下でのみ使えるという偶然性はそのままですが、その偶然を利用できることをきちんと理解した上で、ウクライナ軍は戦闘を実施したことになります。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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