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自民党総裁選、財政の論点 第1回目 岸田政権が先送りした「財源3兄弟」の「決着」が最優先課題

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

第1回目 岸田政権が先送りした「財源3兄弟」の決着が最優先課題

自民党総裁総裁候補者の告示が行われ、総裁選が論戦が始まった。そこで本稿では、数回にわたり、財政の視点から、何を争点にすべきか、それに対し各候補者はどう述べているかなどを取り上げて私見を披露してみたい。

あらかじめ断っておくが、財政の話をすると、「経済が財政に優先」という反論が返ってくる。9人の候補者の中には、わざわざ「経済が財政に優先」と公約する政治家もいる。

「しかし経済と財政を対立構造に持ち込み優先順位を競うことは間違いである。経済が傾けば財政も傾くことは論を待たない。財政には、人の命を守る社会保障の整備や災害発生への備えのための公共事業など固有の役割があり、経済も財政もどちらも重要で、優劣を争うことはナンセンスである。

第1回目は、岸田政権が先送りした「財源3兄弟」の問題についてである。新総裁・総理が直面する最初の課題は、この先送りされた課題の「決着」である。

「財源3兄弟」というのは、数年にわたり巨額予算を必要とする三つの目玉政策「防衛力増強」「少子化対策」「GX(グリーントランスフォーメーション)」について、財源確保の細部や実施時期をどうするかということで名づけられたものである。

まず防衛力増強については、2023〜27年度に43兆円の増額がきまり、追加必要財源は14.6兆円とされた。内訳は税外収入(4.6兆円)や決算剰余金(3.5兆円)歳出改革(1兆円強)に加えて、1兆円の所得税・法人税・たばこ税の増税(以下、防衛増税)で、すでに閣議決定されている。防衛増税については、閣議決定に加えて、法律の附則にも明記されたが、内容の詳細や実施時期は決まっていない。更なる問題は、28年度以降も防衛費の維持・増強が必要であるということだが、この財源は一切決まっていない。ワンショットの措置ではなく、恒久的な財源確保は必須である。

次は少子化対策だ。2028年度までに歳出改革(1.1兆円)、支援金(1兆円)、規定予算の活用(1.5兆円)で、合計3.6兆円の安定財源で確保するとされた。支援金制度は法制化されたものの、歳出改革にはほとんど手がついていない。とりわけ歳出改革の内容である「金融所得や金融資産を多く保有する者の医療・介護保険料の引き上げ」などについては、議論を加速しなければ財源が確保できない。さらに、29年度以降の財源は未定で、少子化対策を継続するための財源の確保はマストといえる。

最後のGXについては、10年間20兆円規模のGX経済移行債(つなぎ国債)が発行され、国による先行投資支援が行われているが、償還財源である炭素に対する賦課金と排出量取引制度の具体化、法制化は遅れている。これ(償還財源)が決まらなければ、つなぎ国債は赤字国債となってしまう。

これらの問題は、国民にとっては「受益」の一方での「負担」の問題といえる。「増税メガネ」を気にする現総理の下では決着が先延ばしにされてきた。この問題は、財政規律という観点からも重要である。デフレの出口が見え始め、インフレタックスで税収は増加しているが、一方で金利ある世界が現実となり、国債の利払費も急増する。さらなる金利の急上昇を抑えるためにも、市場に向けて財政の規律を示すことは重要である。

総裁候補によって意見は分かれるだろう。国民に口当たりの良い回答(経済成長による税収増で賄うなど)は、見透かされる。

次回は、財源3兄弟に加えて、「基礎年金」の財源問題が、7月の年金財政検証の結果明らかになり、4兄弟となった。このことについて書いてみたい。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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