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「黒子のバスケ」容疑者に接見!2ちゃんねるへのメッセージも

篠田博之月刊『創』編集長

12月15日に「黒子のバスケ」脅迫事件の容疑者が逮捕された。そしてその2日後の17日夕方、私は渡辺博史容疑者本人に接見した。詳しい内容は1月7日発売の『創』2月号に書いたが、ここで要点を紹介しておこう。本人は「2ちゃんねるは本当に好きでよく見ていた」と言い、その2ちゃんねるに伝えてほしいというメッセージもある。

この事件、いまだに議論が深化しないのは、いったい渡辺容疑者が何の目的で1年余も「黒子のバスケ」への脅迫を行っていたのか、全貌が明らかになっていないからだ。つまり事件の構造が判明していない。脅迫状では、動機は「黒子のバスケ」作者への恨みだとされていたが、実はマンガの作者と容疑者には個人的接点がなかったことが判明している。

ここはあれこれ推論を重ねるより、容疑者本人がどう言っているかを明らかにするのが一番よいだろう。渡辺容疑者はこの事件を「下流犯罪」と呼んだ。格差社会が問題になり始めた2005年にベストセラーとなった『下流社会』という本があるが、自分はまさにそこに書かれた「下流」の典型だという。

彼は昨年10月の上智大事件の後、大阪に引っ越したのだが、それまではフリーター、大阪に移ってからは日雇い派遣で生計を立てていた。もう36歳だから将来のことなどいろいろ考えることはあったのだろう。拘束された時「負けました」と語ったというので、「ゲーム感覚の犯行」などとも評されたが、実際はもう少し彼なりに思いつめていたようだ。

さて、前述した2ちゃんねるへのメッセージだが、「もし機会があったら伝えてほしい」として、本人はこんな話をした。2ちゃんねるをいつも見ていたので、逮捕後、自分がどう書かれているか想像がつく。恐らく「在日」と言われているだろう、と。そして、それに対して彼が言ったのは「自分は在日ではない」というメッセージだった。

それを聞いた時は思わず突っ込みを入れたくなった。え、そこなの? 「在日」という言葉が悪罵として使われているのは知っていたが、それってわざわざ否定のコメントをするようなものなのか。

接見の後、渡辺容疑者がどんなふうに取り上げられているか一応検索したが、多くの反応が、17日の送検時の映像で彼が妙に笑っていたことへの論評だった。「在日」云々は渡辺容疑者の杞憂に過ぎなかったのかもしれない。

でもこのエピソードだけ紹介すると、何となく渡辺容疑者がとんでもない人のように思われてしまうかもしれないのであえて書いておくが、前述した「下流」云々の話、なかなか深刻なのだ。問題は、彼のように将来に何の希望も持てないという人が、この日本に相当数いると思われることだ。「黒子のバスケ」脅迫事件は、今の社会の一断面を、歪んだ形ではあれ、映し出していると言ってよい。彼なりに思いつめていたと書いたが、実は逮捕は覚悟のうえだったという。それについては実は衝撃的な話もあるのだが、詳細は『創』をご覧いただきたい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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