岸田首相による金融政策の正常化に関する発言
岸田文雄首相は19日、長野県軽井沢町での経団連夏季フォーラムに出席した。「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と強調した。デフレから成長型経済に移ることで「金融政策のさらなる中立化を促す」と話した(19日付日本経済新聞)。
この首相発言は日銀が金融正常化を進めるのに追い風となるとみられると記事にあったが、そのように受け取れる発言であったと思われる。
これに対して、同じ日本経済新聞の、『まだ出ぬ「脱デフレ宣言」 背後に国民の不満と日銀リスク』という記事のなかでは、下記のような発言が記されていた。
内閣府幹部は「このタイミングで政府が脱デフレ宣言を出せば、日銀の利上げによる引き締めを容認しているととられかねない」と語る。
首相が金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しすると言っているなか、金融政策の正常化に向けた利上げは容認していないかのような発言は矛盾している。
さらにこの記事では下記のような発言も記されていた。
財務省は「個人消費は力強さを欠いている」とけん制した。「日銀が利上げしようとするなら決定会合での議決延期請求権の行使だってあり得る」との強硬論も飛び交う。
確かに総務省や財務省にはいろいろな意見を持っている人達がいる。しかし、大幅な利上げをくり返すようなことは想定しにくいなか、物価や賃金上昇に応じた金利形成に 反対するかのような発言はどういうことであろうか。
財務省では財務官などが円安対応を行っているなか、その円安の根本原因のひとつである日銀の異常なまでの緩和姿勢の修正すら、議決延期請求権の行使まで掲げて阻止しようとするような姿勢もいかがなものであろうか。
むろんこれらの意見が総務省や財務省の総意といったものではないと思われる。さらに最初の記事にあったように首相との意見の相違もうかがえる。
仮に7月31日の日銀の金融政策決定会合で利上げが決定された際、議決延期請求権を行使する可能性はあるのか。
過去に議決延期請求権が行使されたのは、2000年8月の金融政策決定会合で一度ある。この際もゼロ金利政策の解除を決定した。日銀にとって、長期金利上昇抑制対策としてのゼロ金利を解除するには、「利上げ」というかたちを取らざるをえず、これは政府の反発を招いた。
しかし、今回は首相が金融政策の正常化に向けた発言を行っていることで、少なくとも官邸は正常化を容認しているようにみえる。このため、同じゼロ金利解除でも状況は2000年と現在では異なると思われるのだが。