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今季限りで現役引退しそうなカージナルスのベテランバッテリーが生涯破られないMLB新記録を樹立した意味

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
バッテリーで先発試合数のMLB記録を塗り替えたウェインライト投手とモリーナ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【カージナルスのバッテリーがMLB新記録を樹立】

 現地時間の9月14日に行われたカージナルス対ブルワーズ戦で、試合開始前からカージナルスの本拠地球場ブッシュスタジアムは異様な雰囲気に包まれていた。

 ファンが総立ちで見守る中、この日先発したアダム・ウェインライト投手が初球を投げ87マイル(約140キロ)の速球でストライクを奪うと、球場内は割れんばかりの大歓声に包まれた。そしてボールを捕球したヤディア・モリーナ選手は、そのボールをそのままベンチに投げ入れた。

 MLBに新たな記録が誕生した瞬間だった。今回がウェインライト投手とモリーナ選手がバッテリーを組んで先発した325試合目となり、47年ぶりにMLB最多記録を塗り替えることに成功したのだ。

【将来的に到達不可能が予想される金字塔】

 これまでの記録保持者はミッキー・ロリッチ投手とビル・フリーハン選手のタイガースに在籍していたバッテリーで、1963年から1975年にかけて積み重ねてきた324試合だった。

 当時のMLBではFA制度が採用されておらず、選手の移籍も現在のように活発ではなかったため、多くの選手が長期間にわたり同一チームでプレーすることができていたからこその記録だった。

 しかしFA移籍が日常化している現在において、MLB在籍日数がお互い17年を超えるような選手が同一チームでずっとバッテリーを組み続けるのは不可能に近いといっていい。

 そうしたMLB現状を考えれば、今回の記録更新は奇跡的といえ、今後も彼らに追いつけるバッテリーは登場しないだろうと予想されている。

【現役バッテリーの記録2位はわずか105試合】

 実際ウェインライト投手とモリーナ選手以外の現役バッテリーによる最多先発試合数は、カブスのカイル・ヘンドリックス投手とウィルソン・コントレラス選手による105試合でしかない。

 しかもコントレラス選手はシーズン終了後にFAになってしまうので、このバッテリーは今シーズン限りで解消される可能性があるのだ。改めて現在の環境下でMLB記録を塗り替えた2選手の凄さに驚かされる。

 ウェインライト投手とモリーナ選手はいずれも今シーズン限りでの現役引退を匂わせており、バッテリーとして最高のかたちで花道を飾ることになりそうだ。

【両選手のバッテリー初結成は2004年3A時代】

 ウェインライト投手とモリーナ選手が最初にバッテリーを組んだのは、2004年の3A時代だった。2003年オフにウェインライト投手がブレーブスからトレードされたことでチームメイトになり、お互い若手有望選手として3Aに配属され、8試合でバッテリーを組んでいる。

 だがモリーナ選手がシーズン途中でMLB初昇格を果たしたため(彼はこれ以降一度もマイナー降格を経験していない)、バッテリーを再結成したのはウェインライト投手がMLB初昇格を果たした2005年9月のことだった。

 昇格当初はリリーフとして起用されていたウェインライト投手だったが、別の捕手と組んだデビュー戦では1回を投げ2安打3失点に終わったが、自身2度目の登板となった2005年9月23日のブルワーズ戦で、モリーナ選手と久々にバッテリーを組み、1回無失点の好投を演じている。

 その後ウェインライト投手は2007年のシーズン開幕から先発投手として起用され、4月6日のアストロズ戦で初めて2人揃って先発出場を果たした。この試合から足かけ16年をかけて積み上げていった金字塔だ。

【バッテリーによるチーム勝利数はすでにMLB記録を更新中】

 実は、ウェインライト投手とモリーナ選手がバッテリーで樹立したMLB記録は先発試合数だけではない。昨年のことになるのだが、2人がバッテリーを組んだ先発試合におけるチーム勝利数もMLB記録を塗り替えているのだ。

 それまでの記録は、ウォーレン・スパーン投手とデル・クランドール選手(ミルウォーキー・ブレーブス所属)による202勝だったが、ウェインライト投手とモリーナ選手はこの日のブルワーズ戦に臨むまでに、212勝まで記録を伸ばしていた。

 そして記念すべきこの日の試合もカージナルスが4対1で勝利し、さらに1勝を加えることに成功している。また勝利投手の権利を有し5回で降板したウェインライト投手も今シーズン11勝目を挙げ、自身の通算勝利を195勝に乗せている。

 カージナルスにはウェインライト投手とモリーナ選手の他に、同じく今シーズン限りでの現役引退を表明しているアルバート・プホルス選手がMLB史上4人目の通算700本塁打まであと3本に迫っている。

 今シーズンのカージナルスはポストシーズン争いもさることながら、これらベテラン3選手の活躍で最後まで盛り上がり続けることになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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