〈偽証罪〉とはどのような犯罪なのか
■はじめに
国会や地方議会のいわゆる百条委員会で、証人の偽証罪が話題となっています。この偽証罪とはどのような犯罪なのでしょうか。
まず、本来の偽証罪そのものは、刑法169条に規定されています。
(偽証)
第169条 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する。
また、国会の証人喚問については、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律の第6条1項に規定があります。
第6条 この法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する。
そして、百条委員会における偽証罪は、地方自治法100条7項に規定されています。
第100条7項 第2項において準用する民事訴訟に関する法令の規定により宣誓した選挙人その他の関係人が虚偽の陳述をしたときは、これを3箇月以上5年以下の禁錮に処する。
「特別法は一般法に優先する」との原則から、それぞれの法律の罰則が適用されますが、規定の文言は同じですので、刑法上の偽証罪の解釈が基本になります。
偽証罪が成立する要件は、
- 法律によって宣誓した証人(あるいは選挙人その他の関係人)が、
- 虚偽の陳述をする、
ということです。
これらの要件を順に解説します。
■法律によって宣誓した証人等
「宣誓」とは、「良心に従つて真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないこと」などを誓うことです。たとえば、裁判で証人として証言する際には、この言葉が印刷された紙に署名捺印して、法廷で読み上げることになります。外国映画などでは、証人が聖書に手を置いて宣誓を行うシーンがありますが、日本では宗教とは無関係に行われます。証人に誓わせることによって、精神を緊張させ、陳述の誠実性を確保することが、宣誓の効果だとされています。
なお、宣誓を正当な理由なく拒否すれば、宣誓拒絶罪という罪に問われる場合があります。
「証人」とは、法律によって証人として陳述するように命じられ、上の宣誓を行った人のことです。
■虚偽の陳述
偽証罪は虚偽の陳述を行った場合に成立しますが、「虚偽の陳述」とは何かということについて議論があります。
一つの考えは、証人の陳述が客観的事実に合わない場合を「虚偽」とする客観説と、もう一つは、証人の主観的な記憶を基準にする主観説です。
客観説は、証人の陳述内容が客観的な事実に反していることが犯罪成立の要件だと考えることとなりますので、記憶に反することを述べても、客観的事実に合っていれば、偽証にはならないことになります。
主観説は、証人が経験したことを正確に再現することが重要であるので、記憶に反することが虚偽だということになり、記憶の通り述べたことが客観的事実に反することがあっても、偽証罪にはならないということになります(【図1】参照)。
さて、このように「虚偽」の意味について、客観的事実を基準にするのか、それとも主観(記憶)を基準にするのかという議論がありますが、裁判所も学説の多くも、主観説を支持しています。それは、証人じしんが何が真実かを考え、判断する必要はないということを前提に、証言がかりに結果的に事実に合致していたとしても、証人が記憶に反することをまるで本当に経験したかのように証言することが、公の機関の審判作用を誤らせる危険性があるからであるとしています。私もこのような考え方は妥当だと思います。
なお、偽証罪は故意犯ですので、証人が述べる内容が、みずからの記憶に反するという意識があれば偽証罪の故意はあったということになります(記憶の内容については、証人の過去の言動や関係者の証言などが問題になってきます)。客観的事実に合致するかどうかという点についての認識は、不要だということになります。(了)