チュート徳井氏の申告漏れはなぜ悪質 「想像を絶するルーズさ」発言の意図は
チュートリアル・徳井義実氏による納税をめぐる問題が話題だ。記者会見では「想像を絶するルーズさ」などと弁解したが、それでも税法違反でアウトだ。なぜか――。
法人を介在させる
報道によれば、次のような事案だ。
要するに、徳井氏は自らが設立したペーパーカンパニーをギャラなどの受け皿とする一方、その会社から給与などを受け取っていたようだ。
個人事業主である芸能人やスポーツ選手らの中にはこうしたやり方をとるものも多い。所得税の税率は最大45%、法人税の税率は23.2%なので、ペーパーカンパニーから受け取る給与額を少なくすれば、節税が可能となるからだ。
源泉徴収できちっと税金を納めているサラリーマンからすると納得がいかない話だろうが、芸人らが給与分に対する所得税に加えてペーパーカンパニーの法人税をもキチッと納めていれば、合法的な節税方法にほかならない。
節税が脱税に
ただし、「節税」という言葉は実に魅力的だが、やり方次第で簡単に「脱税」に変わり得る危うさがある。罰則は次の3段階に分かれる。
(1) 過少申告ほ脱罪
「偽りその他不正な行為」により正規の税額を納めなかった場合
→懲役10年以下又は罰金1000万円以下(両者の併科や情状により罰金額を脱税額まで引き上げることも可能)
(2) 無申告ほ脱罪
提出期限までに故意に確定申告書を提出せず、納税を免れた場合
→懲役5年以下又は罰金500万円以下(両者の併科や情状により罰金額を脱税額まで引き上げることも可能)
(3) 単純無申告罪
「正当な理由」がないのに提出期限までに確定申告書を提出しなかった場合
→懲役1年以下又は罰金50万円以下
(1)は一部の売上しか計上しないでほかを除外する「つまみ申告」や、架空経費の計上、経費の水増しといった手口を使い、所得を少なく見せかけた確定申告を行う場合がその典型だ。
徳井氏の場合、2012年から15年までの4年間、個人的な旅行代などを会社の経費として付け替えており、この部分が(1)に当たる。
記者会見の際、「私服で仕事をやる場合もある」などと弁解していたが、それであれば本人の所得税に関する必要経費の話にすぎず、会社とは関係ない。
そうした経費の付替えなどワンマン経営の中小企業などではよくあることだが、だからといって徳井氏の行為が許されるということにはならない。
無申告は悪質
2016年から18年までの3年間、全く法人収入を申告しておらず、それが約1億円にも上るという点も看過できない。
まったく確定申告をしないで全額の納税を免れるほうが、虚偽であっても一応は確定申告して一部の納税をするよりも悪質だ。
ただ、(1)は「偽りその他不正な行為」が要件になっており、単に確定申告をしなかったというだけだとこれには当たらない。収入分を他人名義の預金口座に入金させて所得を隠匿するといった何らかの工作があった場合に初めて無申告でも(1)が成立する。
(2)は2011年に創設された罰則だ。FX取引などで巨額の所得を得る一方、税金は納めたくないという思いから確定申告を行わないものの、(1)の隠匿工作までは至っていないというケースが横行したからだ。もっとも、(2)が成立するためには、無申告により納税を免れるという故意が必要だ。
徳井氏が記者会見で「税金として払うべきものはしっかりと払うつもりでいました。一方でどうしようもなくルーズだったので、このような結果になった」「ごまかそうとする気持ちはなかった」と述べていたのは、まさしく(1)(2)の成立要件を意識していたからにほかならない。
1回だけでなく3回にもわたる無申告であり、この弁解が本当か否か慎重に見極める必要があるが、国税当局は徳井氏の顧問税理士からも事情を聴き、徳井氏とのやり取りなどについて裏付けを行っているはずだ。
結局、徳井氏の弁解を覆せるだけの材料が出なかったということではないか。
無罪放免ではない
では、徳井氏が完全に無罪放免になるかというと、そうではない。徳井氏の弁解を前提としても、(3)の単純無申告罪が成立するからだ。
すなわち、(2)と違って(3)は無申告により納税を免れるという故意までは必要なく、単に提出期限までに確定申告書を提出しないという意図があれば十分だ。
しかも、確定申告をしない「正当な理由」としては、重い病気やケガで長期入院を強いられたとか、地震や台風で被災したといった事情が挙げられる。
しかし、徳井氏は税理士から催促され、「やります、やります」と言いながらも確定申告を先延ばしにしていたわけだし、そうした状態が3年にもわたっていた。その理由や経緯に汲むべき事情はなく、これが「正当な理由」に当たらないことは明らかだ。
この点で、徳井氏は完全にアウトというわけだ。
総額約1億円という金額も悪質だ。国税当局が地検に刑事告発するか否かを決める際、隠した所得の金額が一つの判断材料となっている。3年分で総額1億円といったところだが、納税逃れに厳しい姿勢を示すため、年々ハードルが下がってきている。
その意味で、国税当局が刑事告発しても何ら不思議ではないほどの事件であることは間違いない。延滞利息に当たる延滞税などのほか、国税当局が特に悪質だと判断した場合のペナルティである重加算税まで課せられている点も無視し得ない。
今後の展開は…
徳井氏に関する報道では「申告漏れ」「所得隠し」といった用語が使われている。前者は故意ではなく何らかのミスや解釈の違いを前提とするもの、後者は故意によるものだが脱税事件として立件するには至っていないものだ。
徳井氏の場合、無申告分の約1億円が「申告漏れ」、経費付替え分の約2000万円が「所得隠し」と表現されているが、単なるマスコミ用語にほかならない。
しかも、マスコミでは先ほどの(1)ばかりが取り沙汰されており、(2)や特に(3)の単純無申告罪を意識している報道は見られない。(3)の存在を知らないからかもしれない。
徳井氏が今後どうなるかについては、次の2つのケースが参考となる。
【ケース1】
【ケース2】
徳井氏の会社に国税当局の税務調査が入ったのが2018年9月、修正申告や追徴課税の納付が12月だから、今回の報道まで10カ月ほど空いている。
検察では、国税当局から刑事告発を受理するに先立ち、そのはるか以前から脱税捜査の担当係検事が国税当局の担当者から資料を入手し、問題点を検討したうえで、彼らと折衝を重ねる。
徳井氏についてはもう事件化しないということで折り合いが付き、国税当局などからマスコミに情報がリークされたという読みもできるから、先ほどの「ケース2」のパターンに落ち着く可能性が高いが、世間の風を意識する組織だけに、いまだ予断を許さない状況だ。
いずれにせよ、闇営業問題が取り沙汰されたときも、受け取った報酬をきちんと税務申告していなかった芸人が数多くいた。こうした納税逃れは芸能界でも「ありがちな話」ではなかろうか。
消費税の増税を受け、税負担公平の観点から国税当局は脱税事件の摘発に力を入れていくはずだ。
「一罰百戒」ということで話題性の高い芸能界がターゲットになる可能性もあり、これから幅広い税務調査が行われることで「飛び火」する芸人が出てくるかもしれない。(了)