メッシは残留表明も…。バルサの伝統は限界なのか?
FCバルセロナのリオネル・メッシは退団騒動で注目を浴びてきたが、自らの言葉で残留を表明した。クラブは移籍違約金7億ユーロ(約840億円)を盾に、放出する意向を否定。契約書を前に降参した形だろう。
しかし、メッシが浴びせた言葉は痛烈だった。
「ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長には、『チームを出たい』と伝えてきた。1年にわたってだ。そのたび、会長は『レオが決めればいい、残るか、出て行くか』と言ってくれていた。でも、その言葉(口約束)は守られなかった」
メッシの批判は止まらない。
「僕は、勝利者になるためのプロジェクトを求めてきた。しかし、しばらく前からそんなものはなかったんだよ。穴ができたら蓋をする、でやり過ごしてきた」
クラブの現在は、バルトメウ体制が払うツケだらけだ。
場当たり的な政策
ここ数年、クラブの“買い物”はあまりに場当たり的だった。
例えばフィリペ・コウチーニョは、200億円以上の大枚を叩いて獲得したが、その価値は3分の1になっている。マーティン・ブライトワイトは、有望な若手二人を売り払い、ようやく工面した金で獲得したが、ほとんど使い物になっていない。年俸5億円以上のウンティティは今シーズンのリーグ戦13試合に出場したが、ポカの連続。1試合につき約5千万円を払っていた計算だ。
そして先日、クロアチア代表MFイヴァン・ラキティッチを150万ユーロ(約1億8千万円)の移籍金でセビージャに売った。これは、ラキティッチのキャリアや実力を考えれば、“ただ同然”と言える。それでも、約10億円と言われる高額の年俸から解放される。また、ウルグアイ代表FWルイス・スアレスも、20億円とも言われる年俸を“処理”するため、構想外となった。ラキティッチと同じく、500万ユーロ程度でのユベントス移籍が目前だ。
行きどまりの財務整理と言えるだろう。
バルサの本質とは――。それを改めて問いただすべきだ。
最後のラ・マシア出身選手はセルジ・ロベルト
1990年代、バルサを率いたヨハン・クライフ監督は、攻撃的フットボールで旋風を巻き起こした。
「1-0のつまらない試合で勝つよりも、攻めに出た試合で4,5点取って負ける」
クライフは、高潔な美学をチームに伝えた。
そして下部組織ラ・マシアから教えを叩き込んでいる。美学を実践するのに必要なのは、ボールプレーのクオリティだった。だからこそ、選手のスカウティングとトレーニングを研究し、積み重ねてきた。
結果として、ラ・マシアではプレーメーカーだけでも、次々に選手が出てきている。まず、ジョゼップ・グアルディオラのような選手が出てきて、その後でシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セスク・ファブレガス、チアゴ・アルカンタラ、セルヒオ・ブスケッツを輩出。グアルディオラは監督としても戻ってきて、その哲学を伝えたのだ。
しかし、その伝統が断ち切られようとしている。
ラ・マシアから出てきた選手で最後に主力に定着したのは、2011年にトップデビューしたセルジ・ロベルトである。以来、ほぼ10年間、誰もいない。
「バルサはラ・マシアである」
クライフは言っていたが、それを引用するなら、末期的状況だ。
プッチがバルサのバロメータ
ラ・マシアは死んだわけではない。
久保建英(ビジャレアル)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、アダマ・トラオレ(ウルバー・ハンプトン)、シャビ・シモンズ(パリ・サンジェルマン)、エリク・ガルシア(マンチェスター・シティ)、マルク・ククレジャ(ヘタフェ)は、ラ・マシア出身者である。有力な選手は育っている。彼らの力を信じ切れなかっただけだ。
17歳でデビューしたアンス・ファティは、未来のバルサを担う逸材だろう。先日は、史上二番目に若い選手としてスペイン代表でもデビュー。左サイドから攻め崩し、ゴールを狙う感覚に優れる。
また、スペインU―21代表リキ・プッチは今後のバルサのバロメータになるだろう。ボールプレーヤーとしては傑出。シャビやイニエスタの系譜を継ぐ選手として、ポジションを奪い取るだけの力は持っている。
クラブは原点回帰すべきだが、グアルディオラが去った後、サンドロ・ロッセイ、バルトメウ会長の体制では“ラ・マシア軽視”が進んできた。
ビダルの主張
もっとも、チーム内にも異論はある。
「バルサはまず、考え方を変えるべきだろう」
そう語っているのは、チリ代表MFアルトゥーロ・ビダルだ。2シーズン、バルサでプレーしたが、インテル・ミラノへの移籍が秒読みに入っている。
「サッカーは日々、革新を遂げている。技術を重んじた“バルサの遺伝子“は、過去のものになりつつある。他のチームはフィジカル的なスピードやパワーを向上させているじゃないか。
やはり、バルサは多くのことを変えなければならない。仮にも世界一を自負するクラブが、13人のプロフェショナルに、(ラ・マシアの)“未成年選手”という構成では、勝てるはずはない。ベストの選手がプレーすべきで、その競争が必要だろう。トップクラブは日々、23人の選手たちがポジションを争い、切磋琢磨している。バルサの遺伝子で必ず勝てる、という考えは誤りだ」
ビダルの説は、他のクラブだったら一つの真理である。しかし、単純なスピードやパワーに傾倒し、有力外国人選手のみを恃みとするなら――。バルサはバルサである理由を失うのだ。
「バルサの将来が見えない」
バルサは、クライフ、グアルディオラという師弟の継承で、最強伝説を作ってきた。二人が第一に考えたラ・マシアは、20年という歳月をかけて、メッシのような天才も生んでいる。美学を実現する熱意が、相手を超越するパスワークを生み出し、驚異的な攻撃を作り出した。
ところが、バルトメウ会長の体制は若手を”換金”する道を選んできた。
左利きのアタッカー、アレックス・コジャードは現在、イタリア、ドイツのクラブからオファーを受け、移籍の方向に傾きつつある。バルサBのキャプテンで、得点力もあるMFモンチュは、チャンピオンズリーグのナポリ戦でトップデビューしたが、セルタ、エイバル、グラナダなど国内のクラブへの移籍が有力。バルサBの右サイドバックで、ユース時代に数々のタイトルを取ってきたダニ・モレールは、ポルトガル1部リーグのファマリカンへ、40万ユーロ(4800万円)での移籍が決まった。
バルサは転換期にある。もしジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバがチームを去って、ファティ、プッチがポジションを取れなかったら、系譜は分断される。
「バルサの将来が見えない」
ラ・マシア出身のメッシはそう言って、一度は退団を決意している。この言葉の響きは重たい。
「メッシの残留に賛成か、反対か?」
スペイン国内スポーツ紙はインターネットでアンケートを取っているが、6割から7割が反対している。自分たちの英雄が苦みを感じながらプレーする。それは、ねじ曲がった景色だ。