OLからぽっちゃりアイドルを経て女優に。同性愛や不倫に溺れる『卍』男女逆転版で「欲が溢れた」濡れ場も
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫の破滅的な情愛を綴った傑作『卍』を、登場人物の性別を逆にして映画化した『卍 リバース』が公開された。夫婦生活が散漫になっている女性弁護士役が中﨑絵梨奈。ぽっちゃりアイドルユニットでデビューし、舞台やグラビアなどでの活動を経て、映画で初のメインキャストを射止めた。女優を目指した経緯から、大胆な濡れ場にも挑んだこの作品への想いを聞いた。
就職したときは芸能界に興味がなくて
――高校を卒業して、一度就職しているんですよね。
中﨑 福岡でOLを2年くらいやっていました。オフィスの下に工場があって、部品を発注したり伝票を整理したり、事務のお仕事でした。
――高校時代は人前に出るようなことはしてました?
中﨑 そんなつもりはなかったんですけど、振り返ると体育祭でチアガールのリーダーをやったり、クラス委員になったり。目立つことは好きっぽかったです(笑)。
――就職した時点では、どんな将来設計があったんですか?
中﨑 芸能界には全然興味なかったです。普通にOLをしていましたけど、転職したいなと思うようになって。商業科を卒業して簿記やエクセルの資格を持っていたので、税理士を目指すか。方向転換して、アパレルをやってみるか。そんなときに(ぽっちゃり体型の女性を募集する)「全国ぷに子オーディション」があったんです。当時は今より太っていたので、応募してみようと思いました。
――転職活動の一環でしたか(笑)。そのときには芸能界に興味も出てきて?
中﨑 オーディションを受けてからですね。何となく「女優さんになりたい」と言ってました。でも、受かったら、ぷに子のユニットということでChubbinessが始まって。歌もダンスも未経験から、5年4ヵ月、アイドル活動をしていました。
グループ卒業の半年前に演技をやっていこうと
――女優への意欲が高まったのは、いつ頃でした?
中﨑 Chubbinessでは、みんなで「グループが有名になったら好きなことができるね」と頑張ってきましたけど、全員卒業と決まって。それなら、ちゃんと女優としてやっていきたいという気持ちになったんです。卒業の半年くらい前から、勉強を始めました。
――薬師丸ひろ子さんを目標に挙げていますが、出演作を観て影響を受けたとか?
中﨑 息の長い女優さんになりたいという意味で、薬師丸さんと言わせていただいてます。ちょっとのシーンでも心に残るお芝居をされて、「薬師丸さんが出てるなら観たい」という作品もあるので。『コーヒーが冷めないうちに』で一番そう思いました。最近は、石田ゆり子さんも憧れの人になっています。
――朝ドラ『虎に翼』に出演中ですね。
中﨑 カッコいいお母さんの役で素敵です。きれいだけど愛嬌があって、強くて芯のある女性を演じられる。私もああいう雰囲気でいけたらいいなと思って、お2人をロールモデルにさせていただいてます。
映画を月30本観ることを目標に
――Xでよく映画のことを投稿されていますが、昔からよく観ていたんですか?
中﨑 この3~4年くらい、勉強も兼ねてたくさん観るようにしています。一時期は月に30本とか目標を立てて、習慣づけようと思って。最近はタブレットとかで、移動中やお風呂でも常に映画を観ています。
――刺激を受けた作品もありました?
中﨑 私は社会的な作品が好きです。貧困問題を扱った映画でショックを受けながら、考えさせられたり。世の中について知らないことは怖くて、映画は知るきっかけになると思うんです。自分もいつかそういう作品に携わって、いろいろなものを届けたいです。
どうしたら辿り着けるか迷走は常にあって
――話が戻りますが、Chubbinessの解散も経て「もう福岡に帰ろう」と思ったことはありませんか?
中﨑 まったくないです。グループはみんな仲良くて、しんどいこともありましたけど、ずっと笑っていて、思い出すのは楽しいことばかり。東京でずっと夢を追い掛けて頑張るぞ! という気持ちでした。
――その後の中﨑さんは、舞台にたくさん出たり、グラビア活動をしたり、趣味からバスケットボール関係の仕事もしたり。『相席食堂』に出演されたときは、ご自分で「迷走しながら頑張っています」と言ってました。
中﨑 一番の目標は、女優としていろいろな作品に出ることですけど、どうしたらそこに辿り着けるのか。そういう迷走は常にありました(笑)。知名度を上げるためにグラビアをやったり、作詞作曲もしてみたり。でも、何をするにもその先の女優にフォーカスを当てて、どう繋がるかを考えていました。
――そこまで女優業に惹かれるようになったわけですね。
中﨑 女優以外、ずっとやりたいと思えるものがなくて。それなら、やれるようになるために頑張るしかない、となっていました。
舞台で思考より先に感情が動きました
――何かの作品に出て、そういう想いが強くなったりも?
中﨑 「役を演じるって、こういうことなのか」と思ったのは、去年『寓話のゴーグル』という舞台でヒロインをやったときです。幼児退行していく役で、めちゃくちゃ悩みましたけど、演じていてスッと腑に落ちた瞬間があって。
――どんな感覚になったんですか?
中﨑 お芝居をするとき、「ただそこで生きればいい」とよく言われますけど、私はいろいろ考えて、思考がすごく動いてしまうタイプだから難しくて。でも、そのときは舞台で会話をしていて、思考より先に感情が動いたんです。その感情のまま、台詞が口から出ていて。こういう感覚に毎回なれたら、役者としてすごく楽しいだろうなと思いました。どうしたら常にそうやって作品の一部になれるのか、模索しているところです。
オーディションでは別の役が合うと思っていて
谷崎潤一郎の小説から舞台を現代に置き換え、登場人物の性別を逆にした『卍 リバース』。脱サラして美術学校に通う園田孝太郎(鈴木志遠)は、家計を弁護士である妻の弥生(中﨑)に頼り切っていた。学校ですれ違う宇佐美光(門間航)を家に招き、逢瀬を繰り返すように。しかし、光には綿貫香織(田中珠里)という婚約者がいた。
――『卍 リバース』の原案の谷崎潤一郎の小説は知っていたんですか?
中﨑 オーディションを受けるときに読みました。谷崎潤一郎さんの名前は知っていて、作品はあまり存じてなかったんですけど、お話が来て、有名な代表作だと知りました。
――小説を読んで、どう思いました?
中﨑 難しかったです。昔の言葉づかいや方言もあって、読み進めるのに時間がかかりました。言い合いみたいな場面が多くて、迫力がすごかったです。私が普段読んでいる小説とは全然違っていて、衝撃的でした。
――オーディションで手応えはありました?
中﨑 弥生と香織を両方受けて、私は香織のほうが自分っぽいと思ったので、そっちをガッツリやったんです。でも、受かったら、まさかの弥生のほうでビックリしました。
――弥生では、どんなシーンをやったんですか?
中﨑 家のベッドで書類を読んでいて、夫の園田が入ってきて、「ねえ」と誘おうとしたら、「もう1回絵を描いてくる」と出ていかれる、ちょっと複雑なやり取りの場面です。パターンを変えて2回やらせていただきました。
常識的な人間が崩れるのが見どころだなと
――撮影では、弥生役に何が求められていると感じました?
中﨑 4人の中で一番、普通の人の感覚に近いのかなと。真面目で常識的で、正しくあろうとしている。そんな普通の人間が崩れていくのが見どころだと思ったので、最初は弁護士らしく、理性を意識して演じました。
――園田が香織と交わしていた契約書を巡って、「許さない! 償ってよ!」と涙で訴えた辺りから、崩れていった感じですかね。
中﨑 一度は夫婦円満に戻ったのに、結局裏切られていたんだと、破滅が始まりました。自分の中でも、ギリギリを保っていた弥生が壊れたのは、あのシーンでした。
――そういうギリギリが崩れる感覚は、中﨑さん自身も覚えがあるもの?
中﨑 私も普通でありたい、踏み外したくない気持ちでギリギリなので。ヤバいな……みたいな瞬間は、今までに結構ありました。歯止めが利かなくなる怖さは、すごく感じていますし、誰にでもそういう瞬間は訪れるものだと思います。
――常識から踏み外したら、どうなるイメージでした?
中﨑 感情が爆発、ですかね。普段は周りの目を気にして言わないことが、思わずバーッと出てしまうとか。
心を許した人の前では怒ったり泣いたりします
――中﨑さんも爆発しそうになることはあると?
中﨑 ありますけど、人として抑えようと自制しています。
――普段の感情の起伏はあまりないほうですか?
中﨑 心を許している人の前では、怒ったり泣いたり笑ったりは、わりとするほうです。
――契約書のシーンの弥生みたいに泣くことも?
中﨑 まれにあるかもしれません(笑)。でも、あそこまで怒りを露わにグワーッと泣くことはなかなかないです。これは辛いな……と思っていました。
――作品に関して「人の欲は流れ出してしまったら、なかなか止められない」とのコメントもありました。それも体感してきたことですか?
中﨑 まあ、そうですね。簡単なことで言うと、甘いものを一度食べ始めたら、もう止まらな~い、みたいな(笑)。
――ぷに子ユニットのChubbinessが解散したあと、水着グラビアのために3ヵ月で10キロ落としたそうですが、そのダイエット期間とかに?
中﨑 しょっちゅうありました(笑)。コンビニでお菓子を買い漁ってしまったり。そういうことがたぶん、愛とかモラルでも起こり得るんだと思います。
モヤモヤが積み重なって止まらなくなって
――園田と光の心中未遂のあと、弥生が病院のベッドで光と関係を持つシーンがありました。あれも欲が溢れ出した感じでしょうか?
中﨑 夫の園田と光のことがいろいろあって、園田と自分の関係もモヤモヤしていて。それがずっと積み重なって、欲が溢れた瞬間があそこだと思っています。もう止まらなくなってしまった。2人が心中しようとして、ワケがわからなくなっている状態。その中でも魅力的に見える光がいて、ついつい……という。
――夫の浮気相手でもある光に対する弥生の心情は、どう捉えました?
中﨑 初めて会ったときから、惹かれていたんだろうなと。園田との関係にも感づき始めて、ますます「どんな人なんだろう?」と知りたくなった存在ですね。嫉妬もあったと思います。自分には何もしてくれない園田が、光とはしている。「何で私ではダメなんだろう?」という想いは強くて。園田が拒否するなら、こっちに行ってやるぞ、という気持ちもありました。
――そんな弥生の気持ちは理解できました?
中﨑 自分では、理解したうえで演じていたつもりです。
生半可な気持ちでないことは示したかったので
――トップレスでの濡れ場に抵抗はなかったですか?
中﨑 オーディションのときからそういう場面があるのは聞いていて、抵抗は全然なかったです。作品の中で必要ならやります、という。
――ごはんを食べる場面とかと同じだと?
中﨑 そうですね。表現の一部という感覚でした。観る人は違う捉え方をするかもしれませんけど、私は女優として、この作品に携わって、ちゃんと表現したかったので「やります」と決意しました。
――女優魂とか一大決心というほどのものではなく?
中﨑 自分の中では納得していましたけど、ファンの方にどんな気持ちで観てもらえるのか、ということでは葛藤しました。良い作品にするためであっても、観る側にはわからない部分も多いですよね。「何だか脱いじゃって」みたいな見方もされると思うんです。私には女優の第一歩として大事な作品で、やると決めましたけど、そこをわかってもらえるのか。生半可な気持ちではないぞ、ということはちゃんと示したかったです。
――撮影するときも、特別な緊張はありませんでした?
中﨑 私は特になかったです。逆に、周りの方たちのほうが気をつかってくださっているのを感じて、感謝しながらていねいに撮影してもらいました。
――見せ方で気を配ったことはありました?
中﨑 きれいには見せたかったんですけど、感情が爆発するシーンでもあって。病院のベッドでの服の脱ぎ方とかは、いろいろ相談しながらやりました。
傍からどう見えても3人には幸せの頂点でした
――園田と弥生と光が3人で暮らすようになる関係性は、どう思いました?
中﨑 単純に「へーっ」という感じで見ていました(笑)。こういう愛の形もあるんだなと。でも、それぞれがやりたいようにしているのが混ざり合って、美しいとも感じます。周りから見たら、止まるタイミングはあった。その結末はちょっと違う、となると思うんです。でも、3人にとっては、あれが幸せの頂点でした。
――本人たちの感覚になれば。
中﨑 同性愛もあるし、弥生にとって園田と光は不倫で、複雑な感情も抱きながら、最後には自分も納得のいく形になった。それもひとつの愛だなと見ていました。
――弥生は光の束縛を受けながら、泣きながらすがっていたり。
中﨑 3人の居心地が良かったので、その関係を壊したくなかった。「お願いだから、ここにいて」という気持ちでいっぱいだったんです。傍から見たら、だいぶおかしな関係ですけど、そんな3人にしてしまった原因は、周りの目でもあった気がします。
――3人にとっては幸せ、という心情は理解できました?
中﨑 いろいろ考えました。捨てるものが多すぎるので。そこまでして3人で過ごして何が幸せなのか。難しいところでした。
罪悪感とモラルに揺れるのをどう表現するか
――弥生役を演じるに当たり、「多くの悩みと葛藤がありました」とコメントされています。これまでのお話に出たことかもしれませんが、どんな悩みがあったんですか?
中﨑 やっぱり濡れ場に対する見られ方と、ファンの方に心から応援してもらえるのか。お芝居についても、映画もメインキャストも初めてで、思うようにできなくて悩みました。宝来(忠昭)監督は「オーディションでいいと思って選んだんだから、自信を持ってやって」と、やさしい言い方をしてくれるんです。でも、自分の中では「こういう表現をしたいのに繋がらない」とかあって。その都度、時間を作って「ここはこんな感情だから、こうすればいい」と言ってくれたり、セッションをして作り上げた感じです。
――特にハードルが高かったシーンもありますか?
中﨑 契約書のことで怒鳴って泣いたシーンは、大きな壁でした。感情がめちゃくちゃ複雑で、悲しさや怒りだけではなくて。園田を責めながら、光に惹かれている自分に罪悪感もある。いい奥さんでありたいと、常識やモラルとの狭間で揺れ動いているのをどう表現するか。ただ怒鳴り散らすだけでは違う、という話をすごくしました。
――結果的には、壁を乗り越えたわけですね。
中﨑 自分の中でスッとなる気持ちもあったり、園田に対する諦めとか、いろいろな感情をちゃんと表現したくて。撮り直しを一番したと思います。感情が行き過ぎてしまって、1回止められてリセットもしました。私にとっては最大のヤマ場でしたね。
メインの役だと責任感が全然違います
――あれこれありつつ、『卍 リバース』は中﨑さんの女優人生で大きな作品になりましたね。
中﨑 私の代表作と言えるものになったと思います。
――この1本を撮って、自分の中で変化もありますか?
中﨑 映像作品にガッツリ出るのが初めての経験でした。『仮面ライダーゼロワン』の住田スマイルはゲストだったので、メインの役だと責任感が全然違って。作品に対する気持ちの持っていき方を学びました。あと、私はほとんど舞台ばかりやっていたので、カメラの前で自分をどう表現するかもすごく勉強になりました。この作品に全力を尽くしたことを糧に、いつか「これがあったから今ここにいる」と言えるように、もっと成長していかなければと、すごく感じています。
――公開後に31歳を迎えますが、30代にはどんなビジョンがありますか?
中﨑 テレビや映画で当たり前のように観てもらえる女優に絶対なるのは、自分の中で決めていることです。その中で、芯のある女性になりたくて。ちゃんと自分の意志を持って役を演じていることが伝わる人になりたいと、すごく思います。
女優の意識を切らさずに生活してます
――そんな女優になるために、日ごろから努力していることもありますか?
中﨑 演技レッスンの先生に言われているのは、「日ごろから熱くいなさい」と。適当に生活しない。人と会うときも遊びに行くときも、すべて熱意を持っていないと芝居に出てしまう。何も考えずに行動するのと、考えて行動するのでは全然違うから、日々自分を女優だと意識して生活するように心掛けています。「私は女優として買い物に来ているぞ」みたいな。
――そういう意識を持つことで、何がどう変わるんですか?
中﨑 コンビニの店員さんとの「袋はどうしますか?」というちょっとした会話でも、「この人はこういう言い方をするんだ」とか視野が広がりました。電車に乗っていても「こんな動きをする人がいるんだ」と気がつくようになったかもしれません。時間の使い方も変わりました。
――振る舞いに変化も?
中﨑 振る舞いに出ているかわかりませんけど、普段から意識を切らさないことで、やるべきことをちゃんとやれるようになった気がします。「明日やればいいか」が減って「今やらなければ」と。女優として駆け上がっていくためには、その意識がすごく大事だと思っています。
Profile
中﨑絵梨奈(なかざき・えりな)
1993年6月8日生まれ、福岡県出身。2013年に「全国ぷに子オーディション」で選ばれてChubbinessとしてデビュー。2019年に解散後、女優として活動開始。ドラマ『仮面ライダーゼロワン』、『快感インストール』などに出演。『シークレット同盟』(読売テレビ)に出演中。公開中の映画『卍 リバース』に出演。
『卍 リバース』
原案/谷崎潤一郎『卍』 監督/宝来忠昭 脚本/宝来忠昭、藤村聖子
出演/鈴木志遠、門間航、中﨑絵梨奈、田中珠里ほか
シネマート新宿、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開