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10分で読める、暴力団犯罪の基礎知識

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
「暴力団対策法」反対デモ(1992年3月1日)(写真:Fujifotos/アフロ)

■暴力団の歴史

「暴力団」という言葉は、法律上は、「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」(暴力団対策法第2条第3号)と定義されていますが、一般には、いわゆるヤクザ(博徒・ばくと)集団と同様の意味で使われてきました。

断指(平成5年版警察白書より)
断指(平成5年版警察白書より)

ヤクザ組織自体は歴史的には古く、江戸時代後期にまで遡ることができます。現代でも、構成員相互で親分・子分・兄弟分の縁(擬制血縁関係)を結び、江戸時代の任侠道やヤクザ道などを標榜している団体も多く、断指や入れ墨、仁義など裏社会にのみ通用する独特の副次文化が残っており、しかもそれらの一部がいわば表の文化の一部をなしている場合もあります(日常生活で普通に「親分・子分」や「仁義」といった言葉が使用されることがあります)。暴力団のこのような特殊な精神構造からも、その問題の根はかなり深いといえます。

暴力団は、社会経済情勢の変化に伴って、その組織や活動形態を変化させてきました。

暴力団の資金獲得活動の変遷(全国暴力追放運動推薦センターのHPより)
暴力団の資金獲得活動の変遷(全国暴力追放運動推薦センターのHPより)

昭和20年代は、終戦直後の社会的混乱から、それまでに存在していた博徒・的屋(てきや)といった集団にさらに愚連隊と呼ばれる青少年不良集団が加わり、闇市等の利権を巡って対立抗争がくりかえされました。

昭和20年代後半になり、社会的経済的秩序が回復するとともに、弱小の団体が淘汰され、暴力集団の再編が始まります。それまでは活動形態や収入源によって区別されていた暴力集団が、覚せい剤や芸能興行など、大きな利益を生む新たな利権に群がるようになり、各種の暴力集団の境界があいまいになっていきました。「暴力団」という呼称が社会に定着したのもこの頃でした。

昭和30年代後半になると、さらに暴力団の淘汰が進み、他団体との抗争において優位に立った一部の暴力団が、その組織力と安定した資金源を背景に地方に進出するようになり、その過程において大規模な抗争を繰り返し、弱小の団体をさらに吸収してその勢力を一層拡大していきます。

昭和40年代になると、暴力団に対する社会的関心も強くなり、警察の集中取締まり(頂上作戦)が展開され、首領・幹部を含む構成員が大量に検挙されましたが、昭和40年代後半には、服役していた彼らが相次いで出所し、組織の復活・再編が図られました。しかし、警察の取締まりが強化された結果、非合法的資金源にのみ依存していた中小の暴力団は壊滅的打撃を受けたものの、傘下団体からの上納金制度を確立した大規模な暴力団は、中小暴力団を吸収し、さらに大規模な広域暴力団へと組織化・系列化が進みました。

昭和50年代、暴力団の寡占化傾向が一層進み、一部暴力団は海外にその活動の場を求めていきました。また、「企業舎弟」や「経済ヤクザ」といった新しい言葉も生まれています。企業舎弟とは、「暴力団の影響下にあって企業の形をとって活動するメンバー又は組織」のことであり、表面的には合法的企業活動を行いながら、裏で暴力団幹部と結びつき、暴力団を資金面で支える存在となっています。また、経済ヤクザとは、非合法活動で巨額の利益を得た暴力団が、合法的企業を装い組織化された経済犯罪を行う集団のことです。これらは従来の「暴力団」という言葉ではとらえきれない面をもっており、暴力団の変貌した姿が新たな問題となっています。暴力団の推定年間収入は1兆数千億円、その大半は非合法手段によるものだと言われています。

暴対法の仕組み(犯罪白書より)
暴対法の仕組み(犯罪白書より)

平成以降、暴力団対策法(暴対法)(後述)が平成4年に施行され、暴力団対策は新たな時代を迎えます。暴対法とは、各都道府県の公安委員会が指定した暴力団(指定暴力団)を対象とし、その構成員による金銭や業務発注など不当要求を禁止する法律です。これにより、指定暴力団員がその所属する指定暴力団等の威力を示して行う不当な行為(27類型)が禁止され、それまで対処が困難であった民事介入暴力の取締りが効果的に行えるようになりました。公安委員会は、暴力団対策法に違反した指定暴力団等に対して、中止命令や再発防止命令を出し、その行為を中止させています。 この命令は行政命令ですが、命令に違反すると刑罰の対象となります。

■暴力団の現状

平成25年末における暴力団員の数は、約58,600人であり、このうち2つ以上の都道府県にわたって組織を有する広域暴力団で、警察庁が集中取締りの対象としている(旧)山口組・稲川会・住吉会の3団体に所属する暴力団勢力(構成員および準構成員)は約42,300人であり、暴力団勢力全体の約7割にも及んでいます。この数字からも、とくに大規模な広域暴力団による寡占化の傾向が進んでいることが分かります。

警察白書より
警察白書より

■暴力団犯罪

暴力団勢力が全検挙人員中に占める比率は、驚くほど高く、主要刑法犯に関しては、脅迫(25.09%)、賭博(40.6%)、恐喝(42.3%)、傷害(11.9%)、殺人(13.1%)等となっており、特別法犯に関しては、競馬法違反(50.0%)、自転車競技法違反(82.4%)、覚せい剤取締法違反(56.1%)、児童福祉法違反(24.6%)、職業安定法違反(40.2%)、売春防止法違反(31.8%)、麻薬取締法違反(31.8%)、大麻取締法違反(30.1%)等となっています(平成26版犯罪白書)。このような数字からは、まさに暴力団がわが国の犯罪の主要な供給源となっているといえるでしょう。

警察白書より
警察白書より

組織暴力団員による犯罪は、以前は暴力的な犯罪が大部分を占めていましたが、最近ではこの種の犯罪は一般に減少する傾向にあり、覚せい剤や麻薬等の非合法な物品の販売、あるいは売春や賭博、のみ行為等の非合法なサービスの提供に変わってきています(ただし、彼らの行為から暴力的要素がなくなったわけではありません)。さらに、政治活動や社会運動を仮装して企業をターゲットとして違法に利益を図る企業対象暴力事犯や、交通事故の示談、不動産をめぐるトラブルや債権取立等の市民の日常生活や経済生活に介入して、違法に利益を図る民事介入暴力事犯も重大です。

これは、この種の行為が大きな利益をもたらすこと、また、暴力団の周辺にこれを利用して利益を得ている国民層が存在すること、さらにこれらの犯罪が顧客の需要があって始めて成り立つものであり、被害が発生しにくく、発覚もしにくいといったような事情があるからです。このため、各集団が同じ利益に群がろうとする結果、暴力団同士の資金源をめぐる抗争の原因にもなります。

暴力団の抗争事件(全国暴力追放運動推進センターのHPより)
暴力団の抗争事件(全国暴力追放運動推進センターのHPより)

■組織暴力犯罪の対策および暴力団対策法

暴力団犯罪の対策として最も困難なことは、暴力団組織の内部においては、犯罪を重ねることによってその者の組織内での地位が上昇するという、犯罪促進的な秩序が出来上がっていることです。受刑による一般社会生活上の不利益・不名誉は、彼らにとってそれほど重大な問題とはなりません。しかし、暴力団構成員とくに首領・幹部の検挙が組織自体には大きな痛手となるのは明らかですから、警察による継続的な取締まりが暴力団犯罪に対する有効な対策であることは明らかです。また、組織自体の存続基盤を揺るがせるためには、資金源の根絶と構成員の補充を絶つことも必要です。

戦後における暴力団犯罪に対する主要な法規制としては、暴行罪・脅迫罪の法定刑の引き上げ、暴行罪の非親告罪化、証人威迫罪の新設、凶器準備集合罪の新設、銃砲刀剣類等所持取締法の制定、暴力行為等処罰に関する法律の部分的な刑の引き上げなどがあります。これらの法規制は、一定の効果をもたらしましたが、必ずしも十分なものとはありませんでした。それは、従来から暴力団の主要な資金源として、寄付・用心棒代・不当融資・示談介入・債権取立などがあり、彼らはこれらの行為を行うに際して、直接暴力を行使するよりも、表面的には穏やかな交渉や取引の形をとって行っていたために、それらを明確に犯罪行為としてとらえにくかったからであす。

さらに、暴力団の寡占化傾向が進み、暴力団が強大になってくると、彼らは「○○組」といった暴力団の名前を告げるだけで相手方を威嚇することができ、明確に脅迫や恐喝等の犯罪にならない方法で資金獲得活動を行うことがより容易になったのです。また、巨大な組織ほど下部組織からの上納金が多く、上部組織は自らの手を汚すことなく、莫大な利益を手にすることもできます。

そこで、このようないわば灰色ゾーンにある行為を禁止の対象とし、暴力団の資金源を根元から絶つ必要があること、また暴力団員の離脱を促進するような援助を行う必要があることなどから、平成4年3月に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(いわゆる暴力団対策法)が施行されたのでした。

暴力団対策法の基本的な構造は、次のようなものです。

  1. すべての暴力団を規制対象とするのではなく、特定の暴力団を指定し(指定暴力団)、その暴力団員(指定暴力団員)に対して必要な規制を行います。
  2. 指定暴力団員が指定暴力団等の威力を示して行う、不当寄付金要求行為や不当地上げ行為、利得示談介入行為などの典型的な不当要求行為を禁止します。さらに、指定暴力団員による指定暴力団等の加入勧誘行為、指定暴力団の事務所等において付近住民に不安を与えるような一定の行為を禁止します。
  3. 上記の禁止行為には措置命令を発することが可能であり、さらに対立抗争時には指定暴力団事務所の使用制限を命じることもでき、これらの命令違反に対しては罰則が設けられています。

暴力団対策法で禁止されている27の行為

平成26年末時点の全国の暴力団構成員と準構成員は、暴力団対策法施行後で最少となっています(平成27年版警察白書)。取り締まりの強化や暴力団排除活動の高まりによって、組織からの離脱が進んだと考えられます。しかし、他方で、暴力団に属さないグループによる不透明な資金活動が目立っており、資金獲得のための非合法な活動がいっそう巧妙化するおそれもあります。(了)

【参考】

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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