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小保方氏代理人が明かしたNHKパパラッチ的取材の全貌

楊井人文弁護士
2014年4月9日、大阪市内で記者会見に出た小保方晴子氏(日本報道検証機構撮影)

7月23日夜、理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB)でSTAP現象の再現実験に参加している小保方晴子研究ユニットリーダーが帰る途中、NHKの記者やカメラマンに追い回され、軽いけがを負う事件が発生した。小保方氏の代理人、三木秀夫弁護士はNHKに強く抗議。24日午後、NHKの記者ら3人が三木弁護士を訪れ「取材方法に行きすぎがあった」と認め謝罪したという。この事件は主要各紙も取り上げたものの、扱いは小さかった。NHK自身は全く報じていなかった。NHKはこれまでも自身の不祥事をNHKニュースで取り上げてきたことはあったが、今回のことは不祥事と認識していないのだろうか。

三木弁護士は日本報道検証機構の取材に応じ、事件の全容をメールで回答した(全文を後掲)。小保方氏本人と付き人、当日取材したNHK記者に聞いた内容をまとめたものだ。そこから浮かび上がったのは、パパラッチのごとき度を超えた執拗な追跡行為であり、恐怖感を与える取材方法であった。

三木弁護士によると、NHKの取材は、27日放送のNHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」に関して、小保方氏本人にコメントを求めることが目的だったようだ。NHKは事前に三木弁護士にインタビューと質問状を送っていたが、番組構成からして明らかに偏向した内容で、質問内容も敵意を感じたため、再現実験に集中したいとの理由で回答を拒否していたという。たしかに、NHKスペシャルの番組予告では「日本を代表する研究機関である理化学研究所で起きた史上空前と言われる論文の捏造」と小保方氏を断罪していた。ネイチャーの論文が取下げられたとはいえ、現在、小保方氏は理研の検証実験に参加し、結論はまだ出ていないのにもかかわらずだ。

NHKスペシャル番組予告(NHKホームページより)
NHKスペシャル番組予告(NHKホームページより)

メディアが人の名誉に関わる報道をする際、対象者に直接取材し、コメントを得ようとすること自体は当然であり、むしろ必要不可欠である。放送倫理・番組向上機構(BPO)も過去、「社会的な不正や悪を指摘する報道であっても、報道対象者に報道の意図を明らかにして弁明を聞くことは報道の鉄則である」と指摘したことがある(2005年10月、新喫茶店廃業報道事件)。今回、NHKの取材陣は事前にインタビューと質問状を送って取材を申し込んだ結果、小保方氏側に明確に回答拒否されたのだから、番組でそう説明すればよかった。なのに、取材陣から身を隠そうとする小保方氏をなぜ執拗に追い回したのか。小保方氏本人が何でもいいからコメントする様子の「絵」になる素材がほしかったのだろうか。

たしかに、取材にある種の執拗さはつきものである。熱心なジャーナリストほど執拗だといってもよい。取材を頑なに拒否している相手にも、あきらめずに取材を重ねることで、心を開かせて語らせ、明らかになる真実もある。したがって、取材拒否している相手に繰り返し取材を試みること自体は否定されるべきでない。

だが、取材方法にも当然限度がある。(NHKも加盟している)日本新聞協会の集中的過熱取材に関する見解にも「いやがる当事者や関係者を集団で強引に包囲した状態での取材は行うべきではない」と明記されている。これは今回のようないわば単独的過熱取材にも当てはまる。真実を明らかにする目的にとって合理的な方法ではないし、取材相手の心身にダメージを与える危険性もあるからだ。三木弁護士が明らかにした一部始終によれば、NHK取材陣は5人かがりで2時間近くも小保方氏を逃げ場を塞ぐように追い回しており、この規範に抵触する度を超えた取材行為だったといえる。報道では小保方氏が逃げる途中でけがを負ったことに焦点が当たっていたが、小保方氏に与えた恐怖感も相当大きかったようだ。取材相手の心を頑なにさせても、メディアが求める真実は遠のくばかりで何も得るところはないのに。

NHKスペシャルは予定どおり放送されたが、番組中、疑惑に関する質問を小保方氏側に文書で送ったが、回答はなかったと触れるのみ。今回の事件については一言もなかった。日本報道検証機構からNHK側に事実関係の確認と見解を求める文書(FAX)を送ったが、27日夜の時点で回答はなかった。

【追記】

28日午後、NHK広報部から次のとおり回答が来た。

(1)取材の経緯

「今回の取材の経緯は以下の通りです。

7月23日、神戸市内のホテルで、午後8時ころから、NHKの記者やカメラマンが小保方氏に取材を試みようとしました。声をかけたのは午後9時過ぎ、ホテルのエスカレーター付近で、その際、数人で進路をふさぐような形になってしまいました。

24日に代理人の弁護士を通じて、小保方氏にお詫びをするとともに、代理人の弁護士の方にも、経緯を説明し、お詫びしました。」

(2)NHKの見解

「NHKの取材で、小保方氏にご迷惑をかけ、お詫びいたします。今後、取材に当たっては、適切に対応に努めてまいります。」

■小保方晴子氏の代理人、三木秀夫弁護士がまとめた事件の全容

7月23日午後5時半ごろから、神戸理研の敷地外で、バイク隊みたいなのが控えているのを理研関係者が気付き、小保方氏に連絡があった。このため、通常の付き人運転の乗用車ではなく、タクシーにて、午後7時半頃に理研を出て、一旦、神戸市内のホテルに入って、タクシーから、本来の乗用車に乗り換えた。

その後に、その車でホテルを出たところ、バイク隊に追い掛けられていることが分かって、その尾行を撒くために、再度、ホテルに戻って、小保方氏は女子トイレに入った。

午後9時ごろロビー階のトイレから出てきたところを、突然隠れていた人達が出てきて小保方晴子さんですねといわれ(本当にびっくりして、怖かったという)、またNHKですと言われ、囲まれた。無視して近くのくだりのエスカレーターに乗ったら本人の前後を取り囲み、2台のカメラを顔付近まで寄せられて、質問攻めにあった。付き人がやめてくださいと言ったが、やめなかった。

逃げてロビーから下の階へ降りる下りのエスカレーターに乗った際に、小保方氏の背後(上方)と前方(下方)の両方に挟まれてカメラを向けられた。小保方氏はエスカレーターの途中でこのまま下に着いたら、本当に取り囲まれてしまい、逃げられないと思い、エスカレーターを逆走してホテルのスタッフとかお客さんがいる、ロビー階に戻ろうとした。この際、カメラマンたちと接触したり、エスカレーターにぶつかったりした。

そのまま、ロビー階でも追いかけて、カメラを回し、質問を継続投げかけた。質問書を読みましたかとか、大きな声をだしていた(ロビーゆえに他の人たちもいた)。なんとか、チェックインを終えた団体客が載って締まりかけのエレベーターに乗り、一旦は逃れた。しかし、エレベーターで再度ロビー階で、記者が乗ってきたので、降りて、ロビー階のトイレに逃げた。ところが、女性スタッフが追いかけてきて、小保方氏が隠れている状況を外に向かって連絡していた。

その後、付き人がホテルのスタッフに助けを求めた結果、ホテルスタッフが助けに来て、その誘導のもとで 従業員通路から脱出するに至ったものである。

午後10時過ぎに、小保方氏から私(三木)の携帯メールに、NHK記者に追い掛け回された趣旨のメールが入った。驚いて、確認をしたところ、上記の概要が判明したため、三木から、いつも三木に取材にきていたNHK大阪局記者の携帯に電話をして、こういった事件が発生したがと問い詰めると、その記者は、その場にいたと告げたので、厳重に抗議した。

実は、その記者は、 27日に放送される「NHKスペシャル」のための取材を重ねてきていた 。同日放送分は「調査報告 STAP細胞 不正の深層」と題し、番組ホームページで「不正の実態が明らかになってきた」と予告しており、小保方氏に直接にインタビュー取材をしたいこと、無理ならば小保方氏に回答を求めたいということ、数日前から質問状が届いていた。三木からは、番組構成からして、明らかに偏向した内容であること、質問内容も、敵意を感じるものであったこと、そういったことに惑わされず再現実験に集中したいという理由で、22日昼に、三木から記者に電話をして、インタビューと書面回答を拒否した。23日の強硬取材は、本人のコメントも肉声も取れなかったため、直撃取材に出たとのことであった。

三木からその夜と、翌朝に厳重抗議をしたうえで、24日11時から、記者レクで、公表した。これを受けて、NHK大阪放送局報道部長、報道部取材統括、取材記者の3人が、三木の事務所を訪れて頭を下げ、報道部長が「取材方法に行きすぎがあったことを深くおわびする」と謝罪した。当該記者に聞くと、「カメラマン含めて5名で囲みました」と答えた。また、その際に撮影した映像は使用しないことを告げた。その後に聞くと、ホテルにも謝罪に出向いたとのことであった。

小保方氏は、24日朝に、三木が電話で聞いたところ、 「本当に怖かった、今でも思い出すと怖いです」と述べていた。また、 全身が痛いこと、特に右腕が痛いと言っていたが、 予定通り神戸理研に出勤した。しかし、心配をした理研職員に付き添われて、24日午後4時から、 神戸市内の病院で診察を受けた。その結果、「頸椎捻挫」と「右肘筋挫傷」で全治2週間のケガと診断された。その事実は、直ちに、NHK側にメールで伝え、 午後5時半からの記者レクで公表した。

その後にも、彼女は「本当に怖かった。今でも怖い。」と述べていた。

なお、理研本部広報から、24日16時に、理研として、文書(FAX)、電話にてNHKに厳重に抗議を申し入れ、抗議文の正本を郵送したとの報告を受けた。その宛先は、番組制作をしている大型企画開発センターExecutive Producerとのことであった。

(*) 三木弁護士がまとめた事件の全容に、取り囲んだ人数についての情報を追記した。(2014/7/28 13:40)

(**) 28日午後、NHKからの回答が届いたので、追記した。(2014/7/28 17:35)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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