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最後までボンズ氏とクレメンス氏を認めようとしなかった全米野球記者協会のダブルスタンダードな姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
記者投票による殿堂入りを果たせなかったバリー・ボンズ氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【記者投票によりオルティス氏の殿堂入りが決定】

 全米野球記者協会(BBWAA)は現地時間の1月25日、2022年の殿堂入りを決める記者投票の投票結果を発表し、記者投票資格1年目だったデビッド・オルティス氏が唯一殿堂入りを決めた。

 今年の投票には394人のBBWAA所属の記者が参加し、30人の候補者の中でオルティス氏が最多の307票を獲得するとともに得票率を77.9%とし、殿堂入りの条件となる75%を上回った。

 オルティス氏はレッドソックスを通じて以下のような声明(一部抜粋)を発表し、喜びと感謝を表している。

 「野球選手の人生の中で到達できる最高の栄誉である殿堂入りに選出してもらい、心から光栄に思います。私が残した成績のみならずレッドソックス、ボストンの街のためにしてきた貢献を含め、自分のキャリアを総合的に評価してくれた記者の皆さんに感謝します。そして私にワールドチャンピオンの一員になる機会を与えてくれたチームメイト、監督、コーチ、レッドソックスのオーナー陣に感謝します」

【ボンズ氏とクレメンス氏は記者投票による殿堂入りを逃す】

 一方、今回で記者投票資格最終年の10年目を迎えていたバリー・ボンズ氏、ロジャー・クレメンス氏の2人は今回も75%を上回ることができなかったため、記者投票による殿堂入りを果たすことはできないまま投票対象から外れることになった。

 彼らはMLBの“黒歴史”とされるステロイド時代の象徴的な存在だったこともあり、殿堂入りに相応しい実績を残しながらも記者から厳しい評価を受け続けた。

 彼らが記者投票資格を得た2013年はまだステロイド時代の印象が残っていた影響もあり、2人の得票率はいずれも40%にも届かなかった。その後は記者の中で彼らを擁護する声が出始めたことで年々得票率が上昇していき、昨年の記者投票ではボンズ氏が2位(得票率61.8%)、クレメンスが3位(同61.6%)に入るまでになっていた。

 そうした中で記者投票最終年を迎えた今年、ボンズ氏が2位(同66.0%)、クレメンス氏が3位(同65.2%)に入ったものの、大きく票を伸ばすことができなかった。

 さらにボンズ氏やクレメンス氏と同様にステロイド時代の象徴とされるサミー・ソーサ氏も同じく記者投票最終年を迎えていたが、彼に至っては今年も投票数14位で、得票率も18.5%しか獲得できなかった。

 ただ、彼らの殿堂入りの機会がこれで途絶えたわけではない。記者投票以外にもベテランズ委員会(OBが委員を務める選考組織)など複数の委員会が殿堂入りを選考する権利を有しており、それらの委員会で選考される可能性を残している。

【薬物使用で陽性反応の過去があるオルティス氏】

 今回の投票結果で改めて浮き彫りになったのが、BBWAAの中では未だにステロイド時代に対するダブルスタンダードな姿勢が解消できていないということだ。

 今回の投票に参加した記者のみならず、ボンズ氏やクレメンス氏の殿堂入りに関する大方のメディアの意見は、「実績は殿堂入りに申し分ないが、禁止薬物を使用していたから」というものだ。

 だがステロイド時代に禁止薬物を使用していたのは、矢面に立たされ批判を受けてきたボンズ氏やクレメンス氏らだけではなかったはずだ。今回殿堂入りを果たしたオルティス氏でさえも、使用を疑われた選手の1人だった。

 すでにご存知の方も多いと思うが、2003年のスプリングトレーニング期間中にMLBが実施した薬物検査で、オルティス氏は陽性反応者の1人に名を連ねていた。

 もちろん彼は禁止薬物の使用を否定し、彼が愛用しているビタミン剤かサプリメントに禁止成分が含まれていたと釈明しているが、現在MLBが適用している薬物ルールに従えば、オルティス氏は長期出場停止処分を受けていた事案だったわけだ。

 さらにこれまで記者投票で殿堂入りを果たしているイワン・ロドリゲス氏、ジェフ・バグウェル氏、フランク・トーマス氏らも、禁止薬物使用の噂が出ていた人物だった。

 もちろん彼らの禁止薬物使用は、噂の域を超えていない。だが当時禁止薬物問題を調査した上で発表された『ミッチェル・レポート』などは一部の薬物入手経路を確認できただけで、問題の全貌を解明できたわけではない。

 さらにエリック・ガニエ氏などのOBたちが、当時の選手たちの禁止薬物使用の実態を赤裸々に語っており、多くの選手たちが禁止薬物に手を染めていたことが理解できる。まさにMLB球界全体の問題だったのだ。

 にもかかわらず、BBWAAは殿堂入り記者投票で当時の選手たちを区別し、ボンズ氏やクレメンス氏を排除してしまったのだ。これ以上のダブルスタンダードはないだろう。

 個人的に2017年までBBWAAに所属し殿堂入りの投票権を得ていたこともあったが、このダブルスタンダードな姿勢にどうしても納得できず、一度も投票に参加することはなかった。

 ボンズ氏やクレメンス氏は記者投票から消えることになったが、まだマニー・ラミレス氏やアレックス・ロドリゲス氏らが記者投票の候補者に残っている。BBWAAはこのままステロイド時代に向き合うことなく、うやむやのまま放置し続けるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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