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『聖闘士星矢』の「ペガサス流星拳」がすごい。マンガやアニメでは最強のパンチかもしれない!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

『聖闘士星矢』といえば、「ワザの名を叫びながらパンチを放つと、相手が吹っ飛ぶ」という豪快なイメージを持たれている方も多いだろう。でも実は、技の原理や、細かな数値が示されることも多い作品だ。

筆者はこの「ケタ外れの行為だけど、理屈がある」というのが大好きで、『聖闘士星矢』も大ファンである。

そこで今回は、同作を代表する必殺技「ペガサス流星拳」について考察してみよう。主人公・星矢の放ったこの必殺拳は、マンガ史上に輝くすごいパンチなのだ。

◆1秒間に85発の連打!

ペガサス流星拳とは、いったいどんな原理のパンチか?

星矢を指導した白銀聖闘士(シルバーセイント)の魔鈴(マリン)の説明を、筆者なりにまとめると、こんな感じだ。

「宇宙は150億年前にビッグバンで誕生した。星矢の肉体も爆発によって生まれた小宇宙(コスモ)の一つである。よって、その小宇宙を爆発させて、流星と化せば、超人的な力を生み出すことができる」

うーむ、わかるような、わからないような説明だが、宇宙も生命も「ビッグバンから生まれた」点では確かに同じ。内なる小宇宙を爆発させて、パンチに活かせば、それはすごい威力になる……のかもしれない。

原理はよくわからないので、威力について考えたい。

ペガサス流星拳の威力を明確に述べたのは、白銀聖闘士シャイナである。この美しい女性聖闘士は、星矢が放ったペガサス流星拳を軽くかわして、こう言った。

「お前の繰り出す拳の一つ一つがはっきり見えるわ!! しかもパンチの数までも! 1秒間に85発!」

1秒間に85発! それはすごい。それだけのパンチを打てる星矢もすごいが、1秒間に85発のパンチを数えているシャイナさんも。

シャイナによれば、彼女を倒すには1秒間に100発のパンチが必要であり、しかしそれには音速を超えなければならないため、生身の人間には不可能だという。

このあたりの、具体的な数字が示されながらも、それが説得力につながるかどうかビミョーな点が、本作の得も言われぬ味わいですなあ。

◆音速を突破し、さらに!

ところが、星矢はその不可能を可能にした。

ペガサスの聖衣(クロス)を身につけ、魔鈴と特訓し、小宇宙を高め、シャイナと再戦。

その戦いのなか、星矢が放ったペガサス流星拳は、シャイナには見えなかった。つまり、毎秒100発=音速の壁を超えたのだ。

このとき、星矢が放ったパンチは、マッハ1だったことが劇中で明らかになっている。

マッハ1とは、気温15度のとき、秒速340m=時速1224km。プロボクサーのストレートが時速40kmといわれるから、その30倍だ。

しかもペガサス流星拳の威力増大は、これだけではなかった。黄金聖闘士ジェミニとの戦いで、恐るべき発展を見せたのだ。

星矢が放った渾身のペガサス流星拳を見切りつつ、ジェミニはつぶやく。

「何か今 星矢の流星拳の速度が高まったような気がしたが……マッハ1 マッハ10 マッハ35 マッハ120」

あの~、ジェミニさん、落ち着いてパンチの速度を測定している場合ではないと思うんだけど。

パンチ1発あたりの破壊力は「速度の2乗」に比例するが、ペガサス流星拳は連続打撃技だから、相手のダメージは殴った回数の分だけ増大すると考えていいだろう。

そして、技の発動時間が同じなら、殴る回数は速度に比例する。つまり、ペガサス流星拳は、破壊力が「速度の3乗」に比例するハズ!

マッハ1を元にして、この法則で計算すると、その破壊力は、マッハ10で1千倍、マッハ35で4万2875倍、マッハ120で172万8千倍……と、ウナギ昇りに上昇しているはずなのだ。

そして、ついにジェミニは驚きの言葉を口にする。

「うっ バ…バカな 流星拳が無数の光に変わった これは光速拳!!」

なんと、星矢のパンチが光速に達した!?

それはあまりにオソロシイことだ。アインシュタインの相対性理論によれば、拳のように重さを持つものが、光速に達することはないはず……などと科学の常識に則っている場合ではない。

ペガサス流星拳が、劇中の事実として光速に達したとしたら、そのスピードは秒速30万km=マッハ88万1742だ! さっき驚いていたマッハ120から、いきなり7千倍も速くなっている。

そして「1秒間に100発のパンチにはマッハ1が必要」というシャイナの言葉から計算すると、マッハ88万1742のパンチとは、1秒間に8817万4200発!

日本の人口は1億2600万人(2021年)だから、たった1.4秒で日本人全員をぶん殴れるスピードということだ。モノスゴイ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

その破壊力は、マッハ1のときの68京5528兆倍。数字で書くと、685,528,000,000,000,000倍だ!

こんな恐ろしいパンチを食らったジェミニがどうなったかというと、ぶっ飛んだだけ。ええっ、意味がわかりません。

ペガサス流星拳はオソロシイ。対戦相手たちも、それに劣らずオソロシイ。何より『聖闘士星矢』という作品自体があまりに恐ろしく、そして面白い。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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