部下の自己評価はなぜいつも高いのか 上司が理解すべき「認知的不協和」のメカニズム
◆評価面談で生じやすい不快な心理メカニズム「認知的不協和」とは
管理職の方は部下と評価面談をする機会があると思いますが、丁寧に行わないと、後で部下のマネジメントにおいて思わぬ事態を招くことがあります。その背景には、人間は自分の中に矛盾する二つの認知を抱えて不快な心理状態になったとき、不快な状況を都合良く解釈して正当化を試みるという心理があります。この不快な心理状態は、アメリカの社会心理学者フェスティンガー(1919-1989)が提唱した「認知的不協和」と呼ばれるものです。
「認知的不協和」の説明で頻繁に引用される話に、イソップ童話の「酸っぱいブドウ」があります。空腹のキツネが美味しそうなブドウが枝から垂れているのを見つけましたが、何度跳んでも届かないので、「あのブドウはどうせ酸っぱくてまずいだろう、誰が食べるものか」という捨て台詞を吐いて去って行ったという物語です。
「美味しそうなブドウ」という認知と「何度跳んでも届かない」という認知の間に一種の“矛盾”が生じたため、キツネは不快感を抱きました。この認知的不協和を解消するため、「酸っぱくてまずいブドウ」という新しい認知を持ち出し、2つの認知の間の均衡を保とうとしたのです。
職場における上司からの評価場面では、この「認知的不協和」が生じやすいと言われています。「自分は他者と比較して優れている」というように、自己評価は他者評価よりも高くなる傾向(「レイク・ウォビゴン効果」という)があるため、部下側から見ると、上司からの評価が想像(自己評価)よりも低かったというある種の“矛盾”が生じるからです。
◆部下から涙の反発を受けた管理職Aさんのケース
管理職になったばかりのAさん(男性30代)のケースをご紹介します。
3名の部下を持ったAさんは評価面談をすることになりました。そこでの評価は部下の賞与や昇進に影響するため、少しでも客観的な評価を目指して、数値化するための具体的な目標を入れたりしていました。Aさんは適正な評価をしたつもりでしたが、面談時には「自分はもっと頑張ったのに…」という類いのことを言われたり、涙ぐまれたりしたそうです。
感情論が苦手なAさんは、あまり取り合わなかったそうですが、自分の上司から、部下のうち2名はAさんの評価面談に納得がいっていないようだと知らされました。
このようなケースで、Aさんはどのようにすれば良かったのでしょうか。
さきほど言ったように、評価面談では部下は「認知的不協和」を感じることが多くあります。認知的不協和が生じると、部下は「上司の評価方法は不当である」「上司は自分の仕事ぶりを見てくれない」「えこひいきされた」などという新しい認知を持ち出し、認知の均衡を保とうとすることがあります。
◆部下の認知的不協和を緩和するには
Aさんに限らず、評価する側に立つ人は、部下に対する丁寧な説明や傾聴(相手の言い分を聴く)を省いたり、ショートカットをしたりしないことが重要です。部下の評価に対する不満を聞くと、上司側は「一体なにを根拠に…」と驚くこともあると思います。しかし、「レイク・ウォビゴン効果」と「認知的不協和」のメカニズムを理解していれば、部下が不満に思う心理も理解できるでしょう。
部下側から見た評価のギャップを埋めることのできる上司は、部下の仕事に対する満足度を高めることができます。逆に、部下が認知的不協和を抱えたまま評価面談を終えるような上司は、「信頼できない上司」の烙印を押され、部下の仕事に対するモチベーションを下げてしまいます。育成能力に優れた上司であれば、部下の認知的不協和の感覚をモチベーションに変えるような評価面談ができます。
上司として評価面談をする立場になったら、部下の良いところにもフォーカスし、彼等の言い分や気持ちを丁寧に聴くことからはじめましょう。部下の認知的不協和を緩衝させるスキルを磨くことは、良い上司になるための条件であると同時に、上司自身のストレスマネジメントにもなるでしょう。