廃棄率は0.3%! 独自に開発したAI発注システムを活用する兵庫・淡路島のスーパー
兵庫県の淡路島でスーパー8店舗を展開するマイ・マート(洲本市)は、AI(人工知能)を搭載した「発注・値付けシステム」を独自に開発し、売場づくりに生かしています。廃棄ロスを減らし、地域をよく知る従業員が考える余地も残したシステムとはどのようなものでしょうか。2代目社長の橋本琢万さんに話を聞きました。
「マイ・マート」は1991年、橋本さんの父親が創業しました。スーパーのほか、神戸淡路鳴門自動車道室津パーキングエリア(PA)内のコンビニエンスストアを経営しています。スーパーで力を入れているのは生鮮食品。売場には、地元の漁師や農家から直接仕入れた魚や野菜がずらりと並びます。淡路島のブランド牛「淡路牛」は、地元の畜産農家から一頭買いしています。
売場で活用されている「発注・値付けシステム」は、橋本さんが中心となって開発し、2014年に導入しました。過去の来客人数や販売数量などの実績や行事などのイベント性から、商品ごとに適当と考えられる発注量を提案します。発注担当者は提案を参考にしつつ、その時々の流行や地域の状況などを加味して最終的な発注量を決めていきます。値付けについては、全国的な傾向や近隣の競合店の価格を踏まえて、最適な販売価格を提案できるようにしました。
1日1000個のおにぎりを廃棄「作ってくれた人に申し訳ない」
なぜこのようなシステムを開発したのでしょうか。橋本さんは大学院を卒業後、大手電機メーカーでエンジニアとして働いていました。しかし、マイ・マートの経営状況が悪化したことからメーカーを退職し2008年、同社に入りました。
入社して驚いたのが、廃棄ロスについての考え方です。当時の小売業界では、「とにかく安く、大量に売る」という思想が根強く残っていました。廃棄ロスが少ないと、チャンスロス(商品の不足や欠品によって売上を伸ばすチャンスを逃すこと)が起きているのではないかと見られたのです。フランチャイズで運営している室津PAのコンビニ事業は商品の回転が速く、廃棄率が低かったことで、本部から「もっと廃棄ロスを出してください」と言われていました。
「当時は廃棄ロスよりもチャンスロスをしないことに重きが置かれていたんですね。ゴールデンウイークなど繁忙期の交通量予測が外れ、おにぎりだけで1日1000個の廃棄を出すこともあり、『作ってくれた人に申し訳ないな』『なんか変だな』と思っていました」(橋本さん)
母親の実家が漁業を営んでいた橋本さんにしたら、生産者や加工業者、配送業者といった多くの人の力を借りて、商品が売り場に並ぶことを考えると、大量の廃棄ロスは受け入れられませんでした。そこから「最終販売者である小売業は、売り場に並ぶまでのいろいろな人たちの思いも背負っている。その日に必要な分だけを仕入れて、売り切って閉店する商売ができないか」と考えるようになったのです。
実際に現場に入って働く中で、売場の課題も見えてきました。販売数や在庫数、廃棄数などは手書きで管理されていました。発注業務については、その日の売上状況をきちんと確認せず、パンなら全商品を2個ずつなど、機械的に発注していました。商品が早々に売り切れる、大量に売れ残ることの繰り返しで、倉庫には賞味期限が近くなった商品が積み上げられていました。古くなった商品は、仕入れ原価で販売するか、廃棄するしかない状況だったのです。
「なんとかしてお店の品ぞろえをお客様のニーズに近づけて、売上を上げられないか」。もともと理系で、大学院時代はAIを使った電子部品の性能向上に関するシミュレーションを研究していたという橋本さん。売場で商品の販売状況を見ながら、在庫を適正にコントロールできる発注の計算式を考えていきました。そして、発注業務などのIT化を進める際に、自身が考えた数式を発注システムに組み込み、効率化を図ろうとしたのです。
「AIはあくまでもサポート。最終的に決めるのは従業員」
しかし、橋本さんの数式を組み込んだシステムには落とし穴がありました。精度は高いものの、複雑な計算システムであったがゆえに、従業員が、システムが提案する発注量を鵜呑みにするようになってしまったのです。売場では、在庫があっても「AIが提案しているから」と多めに発注してしまうケースも出てきました。
「従業員が試行錯誤をしなくなってしまえば、おすすめのポップを書くなど売場にイノベーションが生まれません。AIはあくまでも発注業務をサポートするものです」と橋本さん。あえて単純な計算システムに戻すことで、従業員が予測値をもとに考えて、発注量を決められるようにしました。
「例えば、農業をしている人が多い地域にある店舗は、雨が降ると畑仕事ができないので売上が上がります。農繁期も年によってずれます。こうした地域の状況を知っているのは、その店舗の従業員です。AIやシステム会社には分かりません。ですから、最終的に決めるのは従業員にしました」(橋本さん)
システムを導入してから8年が過ぎました。従業員もシステムを扱うことに慣れ、スーパーの廃棄率は0.3%まで削減することができました。不要な在庫を抱えることが少なくなり、売場全体を賞味期限間近の商品が少ない状態にできるようになったのです。
また、粗利益率も6~7%改善しました。「売れない商品を余分に発注することがなくなったため、お客様が目的の商品を見つけやすくなり、従業員が商品の品質や賞味期限などをより丁寧に管理できるようになりました」(橋本さん)
売る側も買う側も「必要な分だけ」の取り組みで、無理なく経営を続ける
橋本さんは「売る側にとっても、買う側にとっても必要な分だけという取り組みが、無理なく続けられると考えています」と話します。マイ・マートのスーパーでは、夕方には商品が少なくなり始めます。閉店前にしっかり売りきる商売を続けているのです。AIを上手に活用して食品ロスを減らし、顧客のニーズに合わせた鮮度の高い売場づくりを目指す同社の取り組みに注目しています。
写真=筆者撮影(一部の写真、グラフはマイ・マート提供)