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「バブル偏差値」に惑わされるな!中学受験志望校選びで偏差値よりも見るべきものは?

おおたとしまさ育児・教育ジャーナリスト
イメージ(写真:アフロ)

偏差値はラーメン屋さんの行列のようなもの

 学校を選ぶ際に使われる指標に、偏差値と進学実績があります。まったく無視はできない数字ではありますが、これに振り回されるとろくなことになりませんから気をつけてください。

 偏差値とは、端的にいえば、その学校の入試を突破するのにどれくらいの学力が必要かを数値化したものです。模試での成績と、実際の入試の合否を照らし合わせて、模試でどれくらいの偏差値だとどの学校にどれくらいの確率で合格できるかを模試業者が推測して割り出す数字にすぎません。

 ですから、その学校の教育力やその学校がもつ文化の豊かさとはまったく関係がありません。極端な話、ハリボテみたいな教育をしていても、学力の高い受験生を集めることにさえ成功すれば、偏差値は高くなります。

 それは、たいしてうまくもないのにテレビか何かで取り上げられて行列ができちゃったラーメン屋さんに似ています。行列が行列を呼び、「2時間待ちの人気店!」みたいに世間を騒がせますが、ブームはいずれ終わります。

 ましてや、中学受験のように何度も入試を行う学校がある場合には、偏差値はまったくあてにならないものになります。

 首都圏の私立中学校は平均約4回の入試を実施します。たとえばそのうち1回を競合する学校が少ない日時に設定し、しかも定員を少数に絞ります。すると、倍率が高まり、その上位層にだけ合格を出すことで、見た目の偏差値を上げることができます。それを私は「バブル偏差値」と呼んでいます。つまり偏差値は、やろうと思えばある程度意図的につくり上げることができるのです。

 そんなせこいことをする学校に子どもを預けたくはありませんよね。しかもバブル偏差値はあくまでも入試合格者の偏差値であり、実際の入学者の偏差値ではありません。バブル偏差値で合格した受験生の多くは、その学校が本命ではなく、別の学校に入学してしまいますから実際の入学者の平均偏差値は、バブル偏差値よりも数段低いものになるのが現実です。

 それは如実に進学実績に表れます。たとえば中学受験や高校受験で、入学時の偏差値は同じくらいなのに、出口に当たる大学受験では難関大学の合格者数に大きな差が表れることがあります。入試の難易度は同じくらいなのに、実際の入学者の学力が違うのです。

大学進学実績よりも卒業生リストを見るべき

 いま私はとても重要な前提をさらっと書きました。各高校の大学合格者数は、入学時の学力からほぼ推測できてしまうのです。

 こう言ってしまうと元も子もないのですが、東大に100人の合格者を出すような学校に入ったからそこで鍛えられて東大に合格できる学力が身につくのではなくて、もともと東大に合格するようなポテンシャルをもっている子どもたちが100人集まっているだけなのです。

 もちろんそういう集団の中にいるからモチベーションが保てるとか、朱に交われば赤くなるという効果はあると思います。しかし、ほぼ同程度の学力をもちながら紙一重でいわゆる進学名門校に合格した子どもと不合格になった子どものその後を比較した場合に、大学進学実績ではほぼ遜色がなかったというアメリカでの研究結果もあります。

 「いやいやうちの学校ではしっかり受験対策をしている。それがなければこんなに受からない」という反論があるかもしれませんが、それを言ったら、どこの学校も条件は同じです。

 学校には、特に私立の学校にはそれぞれの学校文化がありますから、それに浴するために学校を選ぶことには大いに意味があると思います。しかし、偏差値や大学進学実績で学校を選んでも、それは子どもの将来にはさほどの影響を与えることはなく、せいぜいクラスメイトの学力を推し量ることにしかなりません。

 また、バブル偏差値のようなものがつくられて、そこに間違って行列ができてしまうと、本来行列ができるべき学校が相対的に不人気になります。すると偏差値的にも低下してしまいます。いったんそうなってしまうと、坂道を転げ落ちるようにどんどん不人気になり、生徒が集まらなくなります。せっかく長い年月をかけて培われた学校文化が失われるのは、社会的な損失です。

 学校の文化の豊かさを知るには、著名な卒業生のリストを眺めてみるのがいいのではないでしょうか。その顔ぶれやキャラクター、活躍する分野やその幅広さに共感できるなら、その学校文化はご家庭の教育観に合っている可能性が高いはずです。

 逆に、同じくらいにすごい難関大学進学実績を叩き出している2つの学校の卒業生のリストを比べたときに、その数や活躍の幅やそれぞれの個性の強さに大きな違いがあることがあります。同程度の学力の生徒を集めていても、受験対策ばかりしている学校と、おおらかな学校文化のなかで子どもたちを育てている学校では、数十年後の卒業生の層の厚さに大きな違いが生まれるのです。

※拙著『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)より抜粋・再編集しています。

育児・教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を歴任。男性の育児、夫婦関係、学校や塾の現状などに関し、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演多数。中高教員免許をもつほか、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験あり。著書は『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』『なぜ中学受験するのか?』『ルポ父親たちの葛藤』『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』など70冊以上。

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