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スリランカ連続テロ 地元グループをIS(イスラム国)がオルグか?

黒井文太郎軍事ジャーナリスト
ISが公開したテロ実行犯グループ。中心がNTJリーダーのザフラン・ハシム

多大な被害! 犠牲者はパリ同時テロの3倍弱

 スリランカの連続テロは、これまでのイスラム・テロの中でも、かなりの大事件といえます。

 まず、犠牲者について、本稿執筆時点で359人に達しています。これは世界を震撼させた2015年のパリ同時テロの犠牲者130人の3倍弱という大惨事です。シリアでのISの敗退などで、世界のイスラム過激派の勢いが弱まってきたのかと思いきや、テロリストがまだまだ大きな事件を起こせるということを証明しています。

 また、もともとイスラム教徒の人口が少なく、イスラム過激派のテロが皆無だった国で起きたことも、イスラム・テロリストの活動範囲が拡大したという意味で、きわめて警戒すべき事態といえます。

イスラム過激派「NTJ」は100~150人!?

 このきわめて憂慮すべきテロ事件に関し、筆者には非常に気になる点が2点ありました。

 1点目は、「イスラム・テロの主舞台ではないスリランカで、いったい誰が実行したのか?」ということです。

 実は犯行グループとしては、スリランカ当局からはいち早く「NTJ」(国民タウヒード組織)という組織の名前が挙がっていました。しかし、これまでスリランカでイスラム・テロは皆無だったので、世界中のイスラム・テロ研究者も、国際的メディアも、もちろん筆者もまったくノーマークでした。「ニューヨーク・タイムズ」紙でさえあまり事情を把握できておらず、NTJと他の組織を混同した記事も配信していました。地元スリランカや隣国インドのメディアでさえ、不確かな情報が錯綜していました。

 NTJとは何者か? 筆者はこうした海外メディア情報をクロスチェックして、その正体不明の組織について、昨日(4月23日)、こちらの拙稿をアップしました。

'''▽「スリランカ連続テロ 謎の組織【National Thowheeth Jama'ath】の正体」黒井文太郎 4/23(火) 9:14'''

 この記事をアップした後に、この組織について新たにわかってきたことがいくつかあります。

 まず、米CNNが地元当局者情報として伝えたのが「NTJは100~150人」です。これは筆者には意外なほど、大きい数字です。NTJは仏像破壊などに関わった容疑があるものの、他のイスラム組織に比べて、ほとんど活動の痕跡がなかったからです(ただし、CNNによれば、スリランカ当局は少なくとも2年以上前からNTJを把握していたとのこと)。ただし、この数字は組織全体の数字で、今回のテロを実行したコア・メンバーはもっと少ない可能性があります。そこはまだ情報が不確かです。

まだテロリスト1人が潜伏中?

 昨日の前回の拙稿執筆の後の新情報でいちばんの注目点は、ようやく犯行声明が出されたことです。媒体はIS系通信社の「アマーク」で、声明と写真、動画も出ました。

 こちらに写っているのは、全8人です。リーダー格の1人の男だけが素顔を晒しており、モハメド・ザハラン(別名ザハラン・ハシム)という男であることが確認されています。他の7人は顔を隠しています。ISの旗の前で、ISの最高指導者アブ・バクル・バグダディに忠誠を誓っています。ISは彼らを「IS戦士」と呼んでいます。ただ、彼らがシリアやイラクでISに加わって戦っていたといった話は一切ありません。

 ISはこの8人のうち、7人のゲリラ名も発表しています。そのうち、顔のわかるモハメド・ザハランはアブ・ウバイダというゲリラ名が示されています。

 なお、スリランカ当局は「自爆犯は7人」と発表していますが、ISが実行グループ8人の集合写真・ビデオを公表しながら、7人のゲリラ名しか発表しなかったのは、残る1人がまだどこかに潜んでいるからかもしれません。もしそうであれば、最後にもう1回、自爆テロが起きる可能性があります。

 そう仮定すると、ISが犯行声明を出すのに時間がかなりかかった、つまりいつものようにすぐに出さなかったことも、いちおう説明はつきます。正体を隠したほうが、当局の追跡を逃れやすいからです。

 なお、今回の犯行グループとISの関係ですが、こうした画像・映像がISメディアで発表されたということは、犯行グループは単にISの信奉者で、IS本体とはまったく関係ないのではないかという推測は成り立ちません。彼らがIS本体と何らかの繋がりがあることは明白です。

テロ実行犯たちに見られないシリア・イラク渡航歴

 ところで、このように事件後早い段階からNTJの名前が特定されたのは、スリランカ当局の内部で事件前に作成されていたテロ警告文書に、その組織名が書かれていたからです。その内容を昨日の拙稿では端折っていたので、記しておきます。

 NTJのリーダーは、前述したモハメド・ザハラン。正式にはモハメド・カッシム・モハメド・ザハラン。別名がザハラン・ハシムです。

 彼の副官格に、実弟のモハメド・カッシム・モハメド・リルワンがいます。短くするとモハメド・リルワンです。彼は組織のリクルーター(徴募担当)をしているようです。

 さらに2人の名前があります。モハメド・ミルハンとバツルディン・モハメド・モヒディンです。モヒディンは元兵士で、通称アーミー・モヒディンだそうです。

 名前が記されていたのは上記の4人ですが、いずれもシリアやイラクへの渡航歴の有無については言及がありません。

アメリカ情報機関はおそらく具体的テロ情報は掴んでいない

 さて、今回のテロ事件で筆者が気になっている2点目ですが、それは「どうして事前に犯行グループの計画をスリランカ当局は掴めたのか?」ということです。それについて、スリランカ当局は「外国情報機関からの情報提供」としていました。各メディアの取材で、それはどうやらインド情報機関からの情報だとわかってきました。インド情報機関による情報であれば、情報部員の調査活動によって情報がキャッチされた可能性が高いといえます。

 と、そこまでは昨日の拙稿でも記したのですが、それ以外に、「ウォールストリート・ジャーナル」紙などが、インド情報機関だけでなく「アメリカ情報機関も情報を提供した」と報じました。もしアメリカ情報機関が関与しているなら、おそらく通信傍受・ハッキング等での情報活動だったのではないかと推測されますが、そうした秘密工作の真相はわかりません。

 ただ、今回のレベルのような具体的なテロ計画の情報がもしも米政府に入っていたなら、おそらくアメリカ大使館が在留アメリカ人に対し公式に警告を出すはずです。それがなかったということは、アメリカ情報機関はそこまでの情報は掴めていなかったのではないかと推測されます。やはりインド情報機関が主役だったのではないかということです。

IS活動家がスリランカでNTJリーダーに爆弾製造を訓練!?

 ところが、本日、米CNNが関係者情報として、非常に興味深い報道をしました。この警戒情報はもともとインド当局が本国でISメンバーを逮捕し、そこから得た情報が元になっているというのです。

 そのISメンバーは、自分がスリランカで訓練した男の名前を供述しました。それがNTJのリーダーのザハラン・ハシム(モハメド・ザハランの別名)だというのです。彼らが訓練するといえば、爆弾の製造法でしょう。

 つまり、おそらく爆弾製造に通じたIS活動家が、スリランカの小規模なイスラム過激グループのリーダーをオルグし、彼らにテロを指南した可能性が高いとなってきたわけです。実行メンバーはおそらく、ザハラン・ハシムの地元のNTJ仲間たちでしょう。これまで主に仏教徒過激派と対立していた地元のイスラム過激派グループが、なぜ急にキリスト教徒を攻撃したのかという点も、この構図なら違和感はありません。

スリランカ連続テロはISの工作か

 ISのテロといえば、ごく少ないケースを除けば、ISの指揮の下でテロ作戦を行うのではなく、もともと地元にいるIS信奉者が自発的にテロを行うことが多かったのですが、今回は、地元グループが実行したとはいえ、IS活動家が背後で工作した可能性が高いと考えられます。スリランカ当局者が、「実行犯は自国の過激派グループだが、国際的な支援を受けている」と発言していたのは、こうした情報が前もって入っていたからでしょう。

 この点、筆者は当初、NTJにシリア帰りのスリランカ人の元IS戦闘員のグループが接触し、彼らが中心になって計画したテロではないかと推測していたのですが、実行犯グループに戦場帰りの元IS兵士がいない可能性もあります。

 今回、事件後にスリランカ当局は数十人もの容疑者を拘束して調べているのですが、その中にはIS元戦闘員のスリランカ人が多くいるとの噂があります。この話の真偽は現時点で不明ですが、短時間で多数を容易に拘束できているなら、それよりはNTJの関係者たちである可能性のほうが高いでしょう。

他の国でも同様のテロ工作が進行している可能性も

 では今回の犯行グループのリーダーを指導した黒幕的な「インドで捕まったIS活動家」ですが、インドで潜伏し、地下活動しているインド出身者の可能性が高いのではないかと推測します。スリランカ側に伝えられたインド当局からの警告情報には、「インド大使館も標的」と言及されていたからです。

 グローバル・ジハードの通常の感覚なら、もし大使館を狙うならアメリカもしくは欧州主要国となるところですが、なぜそこでインド大使館を考えたかといえば、日常的にインド当局と戦っているからではないかとの推測です(ここはまだ筆者の推測ですが)。

 他メディアの続報待ちですが、ISルートでの大規模テロ工作が事実とすれば、もう斜陽だと見られていたISのテロ・ネットワークが、スリランカ以外の国でも深く静かに潜行し、新たな大規模テロ計画を準備している可能性をも警戒しなければならないでしょう。

※続き↓

'''▽「スリランカ連続テロ 半年前にインド【国家捜査局】がインド南部でIS活動家を逮捕し、テロ計画を察知!」黒井文太郎 4/25(木) 8:03 '''

軍事ジャーナリスト

1963年、福島県いわき市生まれ。横浜市立大学卒業後、(株)講談社入社。週刊誌編集者を経て退職。フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、月刊『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に海外取材多数。専門分野はインテリジェンス、テロ、国際紛争、日本の安全保障、北朝鮮情勢、中東情勢、サイバー戦、旧軍特務機関など。著書多数。

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