流れを決める一撃を逃し、ナダルに敗退の錦織。対するナダルには復調の兆し:BNPパリバオープン
BNPパリバオープン準々決勝
●錦織圭 46 36 R・ナダル
ラファエル・ナダルにとって錦織は、こわい相手だったかもしれません。
対戦成績で7勝1敗とリードするも、直近のモントリオール・マスターズでは錦織の超攻撃テニスに対応できずに、ストレートで敗退。その前の対戦は14年のマドリードで、錦織が足のケガでスピードダウンするまでは、得意のクレーで圧倒された記憶も残っていたでしょう。
一方の錦織にも、ナダルに勝つには、自らリスクを負って攻めなくてはとの思いがあったはずです。ボールの制御が困難なインディアンウェルズのコートでは「どんどん攻める訳にもいかない」と感じ、しかし同時に「自分が攻めていかないと勝てない相手なので…」と葛藤を抱えていた対戦前。
そうして実際にコートに立った時、錦織は「最初から攻めよう」との覚悟を固めていました。硬さが見られるナダルのプレーも、錦織の攻めの姿勢を助長します。「序盤は彼(ナダル)のボールも浅かったので、自分から打っていった」錦織が、フォアでウイナーを連発。第1ゲームでいきなり2度のブレークポイントをつかみ、第3ゲームではブレークに成功。ダウンザラインへの早い展開、ドロップショットとネットプレーを多用した前後への揺さぶり――最初の4ゲームを終えた時点で、奪ったポイント数は錦織18に対し、ナダルは11。錦織の躍動感が、ナダルのメンタルを粉砕しようとしているようでした。
しかし、留めの一撃となりうる1本のショットを決めきれなかったことから、試合の流れは変わります。ゲームカウント3-1と錦織がリードし、さらに2本のブレークポイントを握った第5ゲーム……ネットを超えていれば確実に決まっていたであろうオープンコートへのフォアをネットにかけ、続くポイントでも錦織のショットがラインを割りました。
九死に一生を得たナダルは、続く第6ゲームでは“チャレンジ”成功によるオーバールールにも勢いを得て、この試合最初のブレークポイントをモノにします。
「全てのボールでファイトし、再び自分を信じられるようになった。身体に活力がみなぎるのを感じ、ナーバスにもならなくなってきた」
このゲームを機に、ナダルは皆が良く知るナダルの姿を取り戻します。いかなるボールも2度バウンドするその瞬間まで諦めずに追い、闘志を込めるように激しく声をあげてボールを叩く。
「圭は素晴らしいプレーヤーだ。最高レベルのプレーを持続できる選手であることを、僕は知っている」
そのように多大な敬意を抱いていたからこそ、立ち上がりの猛攻をしのいで追いついたことに自信を得て、さらには「彼(錦織)がファーストサービスをミスし始めた」、その反撃の機を見逃さなかったのでしょう。
「とても攻撃的で、良いリターンが打てるようになった。それが試合の展開を変えていった」
ナダルはこの2つのゲームを、試合のターニングポイントに掲げました。
対する錦織も、第1セット中盤で流れが変わったことを認めます。
「立ち上がりはコートの中に踏みこみ、フォアハンドで攻めていけた。しかし途中から彼(ナダル)のボールは深くなり始め、僕は下がってしまった」
一度反転した流れは再び方向を変えることなく、試合はナダルがストレートで勝利。
「コート上でエネルギーを感じることができるようになった。その感覚が、僕はとても好きなんだ。コート上で楽しいと感じることが、僕にとって何より大切なことだから」
試合後にナダルは、そう振り返ります。確かに、激しく声をあげて錦織とボールを打ち合うナダルの姿は、エネルギーに満ちていました。
そのナダルは錦織戦の翌日、王者ノバク・ジョコビッチと対戦。6-7、2-6で敗れましたが、特に第1セットは全盛期を彷彿させるフットワークとフォアの破壊力を見せつけ、完全復活が近いことを伺わせました。
ジョコビッチの優勝で幕を閉じたインディアンウェルズですが、ナダルの復調や、錦織の苦手のサーフェス克服、そして準優勝した25歳のミロシュ・ラオニッチの成長が見られたBNPパリバOPは、今季の男子テニスの展望を占う上でも、大きな意味を持った大会だったかもしれません。
※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報を掲載しています