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公開状「習近平は下野せよ」嫌疑で拘束か?――中国のコラムニスト

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
五星紅旗はたなびいているが……(写真:ロイター/アフロ)

3月4日に党系列メディアに公開状「習近平は辞職せよ」が現れハッカーの仕業とされたが、内部に犯人がいることが判明。コラムニストの賈葭(かか)氏が拘束された。筆者は彼が元いたメディアから取材を受けたばかりだ。

◆なぜ賈葭氏は拘束されたのか?

3月15日付の本コラムで筆者は<新華社が「中国最後の指導者習近平」と報道――ハッカーにやられたか?>を書いた。その中で新疆ウィグル自治区の党委員会が創設者の一つになっている「無界新聞」に、3月4日、「習近平は辞職せよ」という趣旨の公開状が現れたことをご紹介した。それはハッカーによるものとされていたが、その後、ハッカーの仕業ではなく、内部に犯人がいて操作したという痕跡が見つかったという。

それも海外を含めた外部と内部とのタイアップによることが分かり、無界新聞関係者がつぎつぎに調査を受ける羽目になっていた。

コラムニストでジャーナリストでもある賈葭(かか)氏(35歳)は、3月4日に無界新聞に公開状がアップされる前、実はアメリカにいた。帰国後、微信(ウェイシン)を通してネットにアクセスしたときに「習近平は辞職せよ」という公開状が無界新聞のニュースサイトにアップされているのを発見。急いで、無界新聞のCEOである欧陽洪亮氏に連絡した。欧陽洪亮氏は、賈葭氏の昔の同僚だ。

当局の調べに対して欧陽洪亮氏は「このようなおぞましい公開状は、賈葭氏からの連絡で初めて知った。彼はしばらくアメリカにいた」と述べている。まるで責任転嫁だ。そこで賈葭氏は「もしかしたら、自分に嫌疑がかかってくるのではないか」とそれとなく予感していたという。

3月15日、賈葭氏は香港に行くために北京空港にいた。

「今から香港行きの飛行機に搭乗する」という知らせを妻が受けたあと、連絡はすべて途絶えた。

搭乗寸前に、北京の飛行場で公安に拘束されたのである。

◆賈葭氏は、かつて、「新華社」傘下の報道機関にいた

実は賈葭氏はかつて、中国政府の通信社である「新華社」傘下の週刊誌『暸望東方周刊』で編集を担当し、また『大家』のコラムで主編(編集長)を担うなど、多くの雑誌と関わっていた。中国語で「大家」というのは「民衆」とか「皆さん」といった意味である。肝心なのは、彼は新華社系列で仕事をしていた経験があるということだ。

3月15日付のコラム<新華社が「中国最後の指導者習近平」と報道――ハッカーにやられたか?>では、新華社のウェブサイトに載った「中国最後の指導者・習近平」は「中国最高の指導者・習近平」の誤記であったと新華社が言っているということを、「追記」で書いた。最初はハッカーとされたが、新華社の場合は「誤記」だったことにして、全人代を乗り切った形だ。

しかし、たとえば北京の有線テレビとかホテルのテレビなどで、日本のテレビの「中国政府に不利な有害情報」が出た瞬間に、テレビの画面がブラック・アウトするくらいのハイレベルの技術を中宣部は持っている。その時間は1秒よりも短い。テレビもネットも、すべて中宣部の管轄下にある。ましてや中国政府の通信社「新華社」のウェブサイトに、このような誤字が出てくることは、非常に考えにくい。

賈葭氏が今般の公開状に関わっていたのか否かは別として、第二、第三の賈葭氏に相当したような人物が、新華社内部にもいたという可能性は否定できない。

◆賈葭氏は、かつて、香港の報道機関にもいた

賈葭氏は実は、香港の『陽光時務週刊』の副編集長をしていた時期があり、また香港のリベラルなメディアである『端傳媒』(傳媒はメディアの意味)の評論部門の編集長をしていた時期もある。

筆者は1月末、まさにこの『端傳媒』の総編集長である張潔平氏から取材を受けたばかりだ。

彼女はイギリスのBBC中文網が筆者の書いた『毛沢東 日本軍と共謀した男』に関して報道しているのを見て、どうしても筆者を取材したいと言ってきた。

「香港は一国二制度とはいっても、中国の管轄下にあるから、こんなものを載せても大丈夫なの?」と筆者が聞くと、「大丈夫よ。私たちはいつでもリベラルな報道をしているわ。多少は大陸の当局から睨まれてはいるけど、でも平気!」と張潔平氏はそのとき笑っていたのだが、なぜか、連絡が途絶えた。

やはり、まずいのだろうなぁと思っていたところ、賈葭氏の拘束を知ったのである。

香港メディアによると、張潔平氏はつい最近、香港の大学で講演し、「最近は大陸の当局の監視が非常に厳しくなっている」と述べたとのことだ。

賈葭氏も実は3月17日に香港で「香港は誰のものか?」というスピーチをすることになっていたという。

◆共通しているのは、国と党を思う「真の愛」と「良心」

2月29日付けのコラム「中国著名企業家アカウント強制閉鎖――彼は中国共産党員!」で、中国共産党員の任志強氏が「自分こそは忠誠なる共産党員だ」として習近平政権あるいは現在の共産党政権を批判する発信を盛んにしていたことを書いた。彼のアカウントは強制的に閉鎖されてしまったのだが、「習近平よ、辞職せよ」という趣旨の公開状にも、冒頭に「私たちは忠誠なる共産党員として習近平に忠告する」という旨のことが書いてある。

つまり、中国共産党員自身が、「中国共産党政権というのは、これでいいのか?」という疑問を、命をかけて発信しているのである。このシグナルをつぎつぎに強権的に摘み取っていく現実こそが、「中国共産党政権というのは、これでいいのか?」と疑問を発したくなる原因を作っているのではないのだろうか?

アカウントを閉鎖された中国の著名な企業である任志強氏のコメントも、公開状に書かれている文言も、いずれも説得力のあるものだ。

そこには国を思う「真の愛」があり、中国共産党員としての「良心」があるように筆者には映る。

中国共産党が、もともとは日本軍と共謀しながら発展してきたものであったとはいえ、毛沢東は少なくとも中国という国を建国した。そして中国人民はみな、(それが虚偽のスローガンであったとしても)かつては中国共産党を信じて生きてきた。その心が限界に来たとき、人民は爆発する。そして中国共産党による一党支配政権は崩れていくのだ。

「愛」は何よりも強いものである。「愛」以上に強い「怒り」はない。

追記:新華社傘下の週刊誌名は『暸望東方周刊』で、途中を省略して書いていたことに気づいたので加筆修正しました。失礼しました。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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