ブラッド・ピットの受賞スピーチがおもしろすぎる
このアワードシーズン、ブラッド・ピットは、数々の賞だけでなく、新たなファンも獲得しそうな気配だ。ユーモアたっぷりで、自分らしさのある、いい感じに緩い彼の受賞スピーチが、大好評なのである。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で助演男優部門を総なめしてきている彼は、現地時間昨夜19日にも映画俳優組合賞(SAG)を獲得し、オスカーに王手をかけた。名前を呼ばれ、壇上に上がったピットの第一声は、「これもTinder(出会い系アプリ)のプロフィールに入れないとな」。ここで最初の笑いを取った彼は、次に投票者である俳優組合のメンバーに感謝の言葉を述べ、「この映画の共演者にもお礼を言いたいと思います。レオ(・ディカプリオ)、マーゴット・ロビー。マーゴット・ロビーの足、マーガレット・クアリーの足、ダコタ・ファニングの足にも。いや、本当に、クエンティンは、空港のセキュリティよりも、女の人に靴を脱がせてきていますよ」と、タランティーノの“足フェチ”をからかった。その後には、「正直に言いますが、これはすごく難しい役でした。(ドラッグで)ハイになるし、上半身裸になるし、奥さんとうまくやれないし。自分と全然違いますからね」と自虐的ジョークを言い、会場を爆笑させている。最後は、私生活における孤独、悲しみ、喜びなどをスクリーンに持ち込める役者の仕事の素敵さを語り、「うまくいく映画もあれば、そうでないものもあります。そういうもの。(出た映画が失敗してしまっても)次に行って、ストーリーを語り続けましょう」と、役者同士ならではのメッセージで、大きな拍手を受けた。
主演のディカプリオでなく自分ばかりが賞をもらっていることをやや気にしているのか、今月初めのゴールデン・グローブ授賞式では、ディカプリオに向けて特別に温かい言葉を贈っている。「僕は、何年も、君の共演者が壇上で賞を受け取るのを見てきました。それがなぜなのか、僕は知っています。君は、本当のスターだから。そしてジェントルマンだから」と言うピットは、ディカプリオを、親しみを込めて“LDP”と呼んだ。「君なしで僕はここには来られませんでした。ありがとう。君となら一緒にイカダにも乗るよ」と、さらりと「タイタニック」に触れたのも、気が利いている。その後には、何人か感謝したい人の名前を挙げた後、田舎の両親に「ハーイ」と呼びかけた。そして「母を(この授賞式に)連れてきたかったんですが、できませんでした。隣に女性がいると、新恋人と言われてしまうのでね」と言い、またもや笑いを取る。タブロイドから好き勝手なことを書かれる状況も、こんなふうに明るくネタにしてしまえるとは、なんともかっこいい。
メモを読みながら名前を羅列する受賞スピーチはしらける
彼のスピーチがすばらしいのは、何より、賞をもらったこと自体は大げさに受け止めず、しかし、投票してくれた人々や、これまでお世話になった人々に、きちんと感謝をしているところにある。その上で、事前に考えてきたというより舞台の上で思ったことを本心から言っていると感じさせるのだ。その自然で余裕ある雰囲気が、見ている側をもリラックスさせるのである。
もちろん、賞をもらったことに大喜びして泣いたり、動転したりするのも、それはそれで正直で、心を打たれるものだ。このSAG授賞式では、ピットの元妻ジェニファー・アニストンがまさにそうだった。一番つまらないのは、事前に用意したメモを読みながらの受賞スピーチである。感謝すべき人の名前を忘れてはいけないという気持ちはわからなくはないが、下を向いてダラダラと誰も知らない名前を次々に読まれても、見ている側はしらけるだけだ。今回は、最高のライターであるフィービー・ウォーラー=ブリッジがそれをやって、とても残念だった。コメディ女優としても才能があるのだから、もっと自由な語りをやってくれてよかったのにと思う。アカデミーは昔からこの手のスピーチをやらないようにとことあるごとに注意を促しているらしいのだが、オスカーにおいても、ほかの授賞式でも、これはなかなか消滅しない。
ところで、今回、もうひとつ素敵なスピーチをしてくれたのが、ホアキン・フェニックスだ。ゴールデン・グローブでは、今年から授賞式で出される食事がビーガン対応になったことに感謝の意を述べる、ちょっとお堅い感じのスピーチだったが、このSAG授賞式では、もっとハートのある言葉を残してくれている。
受賞スピーチの出だしで、彼は、若い頃の思い出話を披露。「ここにいる人の多くは(オーディションの実情を)ご存知でしょうが、(オーディションの)最後の段階で、僕はよく、ライバルはあと2人という状況に直面しました。そして僕ともうひとりは、いつも同じ少年に役を取られてしまったのです」と述べた。「俳優仲間は恐れ多くてその名前を言えませんでしたが、キャスティング・ディレクターは、その少年を見ると、『レオナルドだって?このレオナルドという少年は誰?』と言っていたものでした」と、その相手がディカプリオだったことを暴露している(たしかに、言われてみればこのふたりはどちらも同じ45歳だ)。
今回、フェニックスは、そのディカプリオに見事勝ってこの賞を得たわけだが、会場にいるディカプリオに向かい、彼は、「25年以上にもわたって、君は僕にインスピレーションを与えてくれました。ほかの多くの人たちにもです。ありがとう」と感謝を贈っている。その後には、この部門のほかの候補者に対しても、ひとりひとり、温かい言葉をかけた。クリスチャン・ベールには「君みたいに徹底して役に入り込めたらと、いつも羨ましく思います。それに君は一度もひどい演技をしたことがないですよね。腹が立つくらい」、アダム・ドライバーには「君の映画をこの2年くらいずっと拝見していますが、いつも本当に細かいニュアンスがあり、深い演技だと感動させられます。今作(『マリッジ・ストーリー』)もそうでした」、タロン・エジャトンには「この映画の君はすごかったよ。これからどんなことをやってみせてくれるのか、本当に楽しみです」といった具合だ。そして最後は、「僕が今ここにいるのは、僕が大好きな俳優のおかげです」と、「ダークナイト」でジョーカー役を名演した故ヒース・レジャーに敬意を評して締めくくった。
同じ部門のライバルを褒めたり、敬意を表したりするのは定番でも、こんなふうに個人的な経験談や思いを含めた発言は、そう多くない。そんな話にはついつい耳を傾けてしまい、聞いていて微笑んでしまうものだということを、ピットとフェニックスは示してみせた。オスカーを取ったという事実だけでなく、その瞬間まで長い間覚えていてもらいたいなら、授賞式までの3週間、候補者はそこを意識しつつ、じっくりとスピーチの準備を行うべきである。