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18歳の高校生、バイトは「議員」!16歳で党内推薦

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オスロ市議会の議員として当選した高校3年生のアリナさん 筆者撮影

2005年生まれのArina Aamir Sheikh さんは今年9月に開催されたノルウェー統一地方選挙で初当選した。

オスロ市議会の文化・教育委員会委員でこれから4年間、自治体議員として活動する。18歳という最も若い当選者として現地メディアでも取り上げられ、これからの活躍が期待される「保守党の新星」だ。

「高校生が議員になれる」ことに日本ではまず驚かれるかもしれない。選挙のある年に18歳になっていればいいので、事実上、党内で推薦され、国に政党が立候補者名簿を提出する段階で、党員が17歳以下ということが起こる。

アリナさんは現在、高校3年生で2024年6月に卒業予定だ。今は高校の授業と議員の仕事を掛け持ちしている。自治体(地方)議員は「パートタイム」なので、アリナさんにとって、高校がフルタイムの本業で、議員が「アルバイト」ということにもなる。高校を卒業後は大学で国際法を専攻予定だ。

首都オスロにあるカフェで私たちは待ち合わせをして、アリナさんはすぐ側にある高校から直接駆け付けた。彼女の高校と、バイト先でもあるオスロ市庁舎は距離が近い。

文化・教育委員会委員の会議と市議会の総会議はそれぞれ月に1~2度ある。加えて大量の書類などを読み込む作業などを含め、高校生と議員の掛け持ちは「かなり難しい」とアリナさんは話す。

「最近は社交生活がないですね。試験が終わったら、6月から余裕が出ると思います。それまでは学業と政治だけの生活です」

16歳で政党内で立候補者として推薦された

アリナさんが保守党の青年部で活動を始めたのは14歳。保守党がアリナさんへの選挙指名を検討した時はまだ16歳だった。推薦段階では130人の候補者がいて、アリナさんは35番目、最終的には65人の保守党立候補者の中で14番目だった。選挙の結果、保守党からは20人がオスロ市で当選し、アリナさんは初当選を果たした。

「声を聞いてもらえない人の声になる」

声を聞いてもらえない人のために活動することがアリナさんの原動力だ。「物事が議論されるテーブルで自分の声(意見)が優先されて聞かれるためには、全力で大声を挙げなければいけません。そうではないと、政治家は忘れてしまう。まずは私たちはテーブルに同席していないといけません。このような市民の声も同席することが私にとっては大事なんです」

「自分の声はノルウェーの首相と同じくらい重要だと感じている」と答えたアリナさん。日本でそう持っている人はどれほどいるだろうか。

「学校政策」で子どもに明るい未来を届ける

子どもや若者の声を物事の決定のテーブルに届けたいと考えるアリナさんにとって、市議会の文化・教育委員会委員は最適な職場だ。学校や図書館などに配分される予算に直接関わることで、子どもに明るい未来を届けたいと思っている。

また若者に関係する「学校政策」は、アリナさんにとって重要なトピックでもある。「学校政策」は日本にはないと筆者は感じている。「学校政策」という言葉は「雇用」「防衛」などと同じように扱われる政策カテゴリーで、教員や保護者が抱える問題ではなく、小学校~高等教育で学ぶ「子ども・若者が抱える問題や政策」を示す。

例えば、教員の働きすぎ(教員の問題)や、親が参加しなければいけないPTA活動(保護者の問題)など、大人側が抱える問題は学校政策ではないが、日本でいうと子どもたちが抱える問題、つまり受験ストレス、就活制度、ブラック校則、借金ともなる奨学金などが学校政策だ。ノルウェーでは保健室に常在する保健師の不足、メンタルヘルス、宿題や試験、学生寮の不足などが定番の学校政策となる。

学校政策といっても幅が広いのだが、アリナさんにとって大事な学校政策は「学校での試験」だ。日本では当たり前の競争・試験・成績は、ノルウェーでは中道右派の政策と受け止められやすい。反対に中道左派は「今以上に試験や宿題を減らす・むしろなくしてさえいい」と考えがちだ。つまり、教育制度についていうと、「日本は保守派・右派・極右だ」とノルウェーだと判断される。

アリナさん「私は学校での試験は自分のためになると考えています。メンタルヘルスに悪影響を与えない限りで、できるだけ多くのテストはされたほうがいい。この8年間、社会主義派の政党らがオスロ市の政策を担ったために、成績をつける機会はどんどん減らされました。保守党が返り咲いた今、この状況を変えることがとても大事なんです」

若い×女性×イスラム教徒というインターセクショナリティ

筆者撮影
筆者撮影

「あなたはもう出身地に帰りなよ」

「君がノルウェーでできることはないよ」

「あなたはいいイスラム教徒じゃない」

「白人に認められたいだけでしょう」

アリナさんはイスラム教徒の背景を持ち、ノルウェーで生まれ育った3世代目だ。議論の場でアリナさんはノルウェー人からもイスラム教徒からもヘイトスピーチを受けることがある。

それでも移民背景があり、若く、女性である人にとっては「他国に比べて、ノルウェーは政治家になるのに最も簡単な場所だと思う」と感じている。「私たちのようなチャンスは、世界のどこへ行っても得られないと思います」

(ヘイトスピーチをする)ヘイタ―や批判者に対する最良の薬は、「諦めずに前進し続けること」とアリナさんは答えた。

「彼らの目的はただ一つ、あなたの声を封じることだから。このような人たちを黙らせる最善の方法は、進み続けること。あなたが正しいと思うもののために闘い続けるんです」

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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