2019年の運動部の活動時間数 大幅減に転じる ガイドラインの定着 週3時間減の県も
部活動の過熱が問題視されるなか、2019年の中学校における運動部の活動時間数が大幅に減少したことが、スポーツ庁の調査結果の経年比較から明らかになった。2018年にもっとも活動時間数が長かった千葉県は週あたり3時間減(都道府県で3番に多い減少幅)となっており、各自治体が急速に部活動の適正化に舵を切っていることが、浮かび上がってきた。
■公立校で時間数の減少傾向
先月23日、スポーツ庁から「令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果が発表された。報道では、小学5年男子の体力合計点が2008年度の調査開始以降過去最低を記録したことばかりが話題にあがったが、中学校の運動部活動にも大きな変化があったことを見落としてはならない。
同調査は、全国の小学5年生と中学2年生を対象に実施されている。いわゆる「体力テスト」に合わせて質問紙調査もおこなわれており、2016年度からは中学生調査で運動部の活動時間数に関する質問が新たにくわえられている。2019年度の調査では、公立中学校における一週間あたりの活動時間数(平均)は男子が13.5時間、女子が13.7時間であった。
全国の動向として2016年度から2019年度までの活動時間数を学校の設置者別に図示してみると、まず国立・私立に比べて公立校の時間数の多さが際立つ。その公立校では、活動時間数は2017年度をピークに2018年度に微減し、2019年度は減少傾向が強まり2018年度から1.6時間減となっている。
■2018年最長の千葉県は週に3時間減――都道府県の変化(2018~2019年度)
公立校については、都道府県別の時間数も公開されている。都道府県別の動向を調べると、この一年の間に起きたことが、さらにはっきりと見えてくる。
2018年度と2019年度の都道府県別にみた週あたりの活動時間数を図示した[注1]。47都道府県すべてで、活動時間数が減少している。なお、いずれの自治体も2016年度以降の最小値を記録している。
そして昨年を含め2016年度から一貫して全国で時間数が最大であった千葉県は、2019年度に入って、昨年度比3時間超の減少により、ついに4位に順位を下げている。
3時間を超えて時間数を減らしたのは、千葉県以外に、愛媛県と佐賀県がある。図のオレンジ色の棒グラフをみるとわかるように、両県とも2018年度の上位県である(愛媛県は6位、佐賀県は3位)。
- 注1:スポーツ庁の報告書では、体力テストに合わせて、男子と女子にわけて結果が公表されている。本記事の分析では男子と女子の平均値を算出して、全体の活動時間数とみなしている。各地の具体的な時間数と順位(降順)については、本記事の最下部にまとめて掲載しているので、適宜確認してほしい。
■活動時間が長いほど減少幅が大きい
千葉県・愛媛県・佐賀県の動向からは、全国のなかでも活動時間が多かった県が、大幅に活動時間数を減らしていることが示唆される。
そこで47都道府県について、2018年度の活動時間数と、2018年度から2019年度にかけての活動時間数の変化量との関係性を図にあらわした。
すると一見してわかるとおり、分布は右肩下がりである。総じて2018年度の活動時間数の多い自治体で活動時間数の減少量が大きいということだ(相関係数はマイナス0.59であり、強い負の相関がみられる)。
2019年度にもっとも活動時間数が長かったのは福岡県である。だが、福岡県もまた一年間で2.3時間(約2時間20分)減らしている。先述のとおり公立校全体では1.5時間程度の減少であるから、それよりは大幅に減らしている。
■3年間で週5時間の減少も
分析の最後に、2016年度以降の累計の減少時間数を算出したい。というのも、全国的には2018年度に入ってから微減の傾向が確認できるが、一方でそれより以前から時間数を減らしてきている自治体もあるからだ。
2016年度から2018年度までの最大値を、2019年度の活動時間数より差し引くと、各都道府県におけるピーク時からの減少時間数が算出できる。
図をみてみると、愛媛県と秋田県が突出して時間数を減らしていることがわかる。両県とも最大値は2016年度で、そこから愛媛県は週あたり5.1時間、秋田県は4.5時間の減少である。また両県は特別だとしても、他にも14府県(計16府県)が3時間以上減らしている。ここ数年で全国的に部活動の過熱に歯止めがかかり、適正化が進んでいるといえる。
■運動部活動ガイドラインにおける「休養日の設定」
こうした全国的な傾向の背景には、行政主導の部活動改革がある。
2018年3月に、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定した。なお同年12月には、今度は文化庁から「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」も発表されている。いずれも2016年頃から声が高まってきた部活動改革の、一つの到達点である。
運動部活動ガイドラインにおける各種提言のなかでもっとも関心をよんだのは、「成長期にある生徒が、運動、食事、休養及び睡眠のバランスのとれた生活を送ることができる」ことを目的とした、「休養日の設定」である。過熱してきた部活動の活動量を規制しようという動きである。
具体的には、週あたり2日以上(平日で1日以上、土日で1日以上)の休養日を設け、活動時間は平日が2時間程度、土日が3時間程度とするものである。単純に計算すると、平日4日×2時間+土日1日×3時間=11時間が、週あたりの上限の目安となる。
実際のところは先に示したように、公立校でいうとピーク時の2017年度には、生徒は週に16.1時間も運動部活動に参加していた。今回の大幅減を経てもなお、週に13.6時間であるから、目標値の11時間にはまだ遠い状況である。それでも、現在の傾向が今後も持続するならば、週11時間は現実味を帯びてくる。
■ガイドラインを遵守させる仕掛け
じつは国による運動部活動の休養日設定は、今回が初めてではない。かつて1997年にもほぼ同様の方針が示されたことがある(拙稿「『部活週2休』有名無実化」)。そして、その方針はほとんど効力を発揮することもなく、部活動はむしろ過熱のほうへと進んでいった。
それゆえ、今回のスポーツ庁の運動部活動ガイドラインには、同じ轍を踏まない仕掛けが盛り込んである。
運動部活動ガイドラインは、その実効性を高めるために、都道府県・政令都市・市町村・学校がそれぞれに運動部活動の方針を策定するよう求めている。また各部活動の顧問においても、年間の活動計画と、毎月の活動計画・活動実績を作成するよう要請している。
さらにはその実施状況に関して、フォローアップ調査がおこなわれている。
フォローアップ調査の結果によると、策定から半年後の2018年10月の時点で、中学校のガイドラインについて都道府県は100%、政令市は95.0%、市町村は73.6%が策定済みあるいは2018年度末までに策定予定としている。
これらの国の姿勢から伝わってくるのは、部活動の改革は、国がガイドラインを策定してそれで終わりではないということだ。
各自治体そして各学校は、スポーツ庁のガイドラインを参考にしながら独自に部活動の方針を立てなければならない。さらにはその実施状況までもが、フォローアップとして調査される。こうした仕掛けが、運動部活動ガイドラインの定着と遵守の機運を醸成してきたといえる。
■改革の機運を持続可能に
運動部活動ガイドライン以外にも、本記事が分析したスポーツ庁の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」において、生徒の質問紙調査の結果として都道府県別の活動時間数が公表されるようになったことの効果も大きい。
2018年度まで活動時間数が上位にあった自治体が、運動部活動ガイドラインの策定と相まって、2019年度に入ってから活動時間数を他自治体よりも積極的に減らし始めている。都道府県別データは、各自治体が運動部活動の現状を反省的に振り返るための、重要な情報源になっているものと考えられる[注2]。
本記事では先のデータ分析において、運動部の活動時間数の「減少」を指摘してきたが、国の強い意志を踏まえるならば、活動時間数は「削減」されたと表記するほうが適切であろう。部活動は、学校の日常生活に根を下ろしながら過熱してきた。だからこそ、改革には強い意志が必要である。学校関係者全体がガイドラインを遵守し、この改革の機運を持続可能なものにしていかなければならない。
- 注2:スポーツ庁による運動部活動ガイドラインの策定により、自治体や学校で一斉に部活動の上限規制が名実ともに進んでいる。ただし、部活動顧問においてはごく一部に限られてはいるものの、「部活動」の看板を「自主練」や「○○スポーツクラブ」に掛け替えて、多くの練習時間を確保しようという動きがある。ガイドラインの上限規制を逃れるいわゆる「闇部活」とよぶべき活動(拙稿「部活ガイドライン 抜け道探る動き」)である。「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」は生徒が回答しているため、顧問主導の看板の掛け替えがどれくらい生徒の回答に影響するかは不透明である。また、そもそも実態として限定的なものであるため、今回のような中学2年生全体における大幅な時間数減少を左右するほどの影響力はないと考えられる。いずれにしても、「闇部活」のような水面下の動きに対しては、統計上の問題以上に、そこに参加している(あるいは巻き込まれている)関係者の実質的なリスク(活動中の事故や負荷の増大、曖昧な責任の所在など)に目を向けるべきである。
【参考資料】