不安強まるがワクチン接種進展への期待も…2021年5月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は下落、先行きは上昇
内閣府は2021年6月8日付で2021年5月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIは上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさが残る中で、持ち直しに弱さがみられる。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、ワクチン接種の進展などによる持ち直しへの期待がみられる」と示された。
2021年5月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス1.0ポイントの38.1。
→原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「変わらない」が減少、「よくなっている」が同数。原数値DIは36.4。
→詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」が下落。「飲食関連」のマイナス4.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「製造業」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でプラス5.9ポイントの47.6。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは46.8。
→詳細項目はすべての項目が上昇。「飲食関連」のプラス8.8ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「製造業」「雇用関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年5月では感染数増加による経済的な影響の厳しさを受け、下落を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2021年5月では新型コロナウイルスに対するワクチン接種の進展による期待を受け、前回月から転じて上昇を示す形となった。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、2020年11月以降は流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年5月は感染者数の増加による経済への悪影響の実感を受け、全体ではマイナスを示してしまっている。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「製造業」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「製造業」「雇用関連」。全項目で前回月から上昇を示している。新型コロナウイルスに対抗するワクチン接種の進展に大きな期待が寄せられているようだ。
すべては新型コロナウイルス流行の状況次第
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・新型コロナウイルスの影響もあり、白物家電の売上がよいなど、景気は比較的上向きとなっている(家電量販店)。
・特に消費意欲が3か月前と比べ減退した印象はなく、インターネットの速度アップや有料チャンネルの追加契約などの巣籠り商品の需要は堅調である(通信会社)。
・時短営業とアルコール提供禁止で、売上はほとんど半分以下になっており、景気はかなり悪い(一般レストラン)。
・緊急事態宣言の発出で、土日の休業を要請され、食料品や化粧品のみの販売となり、平日の来客数や売上も激減している(百貨店)。
■先行き
・ワクチン接種が進むことによって、新型コロナウイルスの感染状況が少しは収束してくることで、景気がよくなると期待している。また、旅行が多くなるシーズンであることもプラスである(観光型ホテル)。
・緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の解除を始め、新型コロナウイルスのワクチン接種拡大により人流が回復すれば、消費マインドは改善される(百貨店)。
・ワクチンの普及で第4波が落ち着き、経済回復を期待している。東京オリンピックが開催されることで、家飲みの需要増加に期待している(コンビニ)。
新型コロナウイルス流行の影響で商売に制限がかかり、売上が落ち込んでいる業界もあれば、生じた社会現象で特需のようなものが発生している業界もある。他方、先行きではワクチン接種の進展による状況回復への期待は大きいように見受けられる。
企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・新型コロナウイルスの影響により、半導体事業関連が増産傾向である(電気機械器具製造業)。
・取引先の決算では、売上、利益が減収減益となっていることが多く、景気は悪くなっているように感じる(金融業)。
■先行き
・新型コロナウイルスのワクチン効果に期待している。国際物流においては、コンテナ不足が解消し、荷動きが戻りつつあるようである。それに伴う国内物流の動きにも期待したい(輸送業)。
・半導体不足の影響で、自動車関連を中心に6~7月の受注の内示が減少している(金属製品製造業)。
ワクチン接種の進展への期待は家計動向同様。また新型コロナウイルス流行でリモートワークによる就業スタイルが急激に進んだことで、IoT関連は特需状態が続いているようだ。他方、半導体不足による悪影響の言及も見受けられるなど、注目すべき動きもある。
雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。
■現状
・求人数が以前よりはよいものの、やや足踏み状態となっている。正社員採用が弱めで、採用基準も高くなり、慎重な姿勢がうかがえる(民間職業紹介機関)。
■先行き
・働き盛りの人へのワクチン接種開始が鍵になるとみている。売手市場だった雇用情勢に戻っていくことができれば、県内への企業の誘致、工場の増設の話もあり、期待が持てる(職業安定所)。
雇用市場は景況感を先読みする傾向があるため、「やや足踏み状態」「正社員採用が弱めで、採用基準も高くなり、慎重な姿勢」などの表現は雇用市場の動向に関して不安を覚えさせるものではある。一方で雇用市場においても、新型コロナウイルスのワクチン接種進展がキーであることがうかがえる表現が確認できる。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントでゼロ件(前回月1件)、先行きのコメントでゼロ件(前回月ゼロ件)の言及がある。新型コロナウイルス流行の影響が気になり、消費税の話など二の次になっている感はある。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で397件(前回月514件)、先行きで697件(前回月822件)。凄まじいまでの言及数だが、現状・先行きともに前回月からは減っている。一方で「ワクチン」に関しては現状で44件(前回月22件)、先行きで506件(前回月306件)の言及がある。今後の状況好転の鍵として大いに期待されているようだ。実際、「2~3か月後には高齢者のワクチン接種がほぼ終了する予定となっているため、来街者の増加が見込まれる」「ワクチン接種が進むことで、今よりも雰囲気がよくなることを期待している」など具体的な声が多数見受けられる。一方で「感染拡大が収まらないことの背景には、政府の要請を真面目に守ろうとしないことがあるとみられる。自由をはき違えている人が多いのではないか」などとの声があるのも事実ではある。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で沈静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、十分な効力が確認できたワクチンの接種浸透による平常化への動きを願いたいものだが。
■関連記事:
【政府への要望の最上位は社会保障、次いで景気対策と高齢社会対策】
【2018年は2.1人で1人、2065年には? 何人の現役層が高齢者を支えるのかをさぐる】
【新型コロナウイルスでの買い占め騒動の実情をグラフ化してみる(世帯種類別編)(2020年3月分)】
※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。