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ノーベル平和賞の劉暁波氏、がん治療で仮釈放/ノルウェー現地での反応

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
ノルウェーでの平和賞授与式。服役中で欠席した劉暁波氏(写真:ロイター/アフロ)

2010年にノーベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波氏が仮釈放された。末期がんの治療のためとされており、支持者の間では喜びと悲しみの動揺が広がっている。

ノーベル平和賞はノルウェー・ノーベル委員会によって授与されていたが、劉暁波氏は当時の授与式には不在で、「空席のいす」が世界でも大きく報道された。

平和賞授与後、中国政府はノルウェーに激怒。やっと両国関係が改善され、ビジネスや政治の交流が再開されたばかりだった。一方、事実上、ノルウェー政府は中国側から「今後中国の核となる国内問題には口出しをしないように」という要求を突き付けられた。貿易などを再開させるべく、中国に対して腰が低くなっているとされるノルウェー政府には批判の声も強い。

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ノルウェー・ノーベル委員会は公式声明を出しており、「安堵と深い懸念の両方の思いが交錯している」という立場を表明した。委員会は劉暁波氏が賞を受賞するために、オスロへ招待する準備ができているとも述べている。

ノルウェー・ノーベル委員会のニョルスタ秘書は劉暁波氏の体調を心配しており、今回の釈放については委員会は事前に把握しておらず、同氏とも連絡はとれていなかったとしている。「政治と個人の自由が中国では欠けていることを、平和賞は改めて思い起こさせる役割を果たしている」とも付け加えた。

平和賞がいかに政治的であり、委員会の内部を暴いた暴露本で有名になったゲイル・ルンデスタッド氏。劉暁波氏が授与式に不在だった当時、秘書として委員会で中心的な役割を担っていた。「彼が癌に苦しんでいることは悲劇的」とノルウェー国営放送局NRKに回答。

ノルウェー首都オスロにあるノーベル平和センターは「#劉暁波を自由に」という言葉をFacebookに投稿している。

中国事情に詳しいノルウェーの専門家ハーラル・ボックマン氏はアフテンポステン紙に対して「中国の政府高官たちは安心していることでしょう。大きな問題が小さくなったのですから。中国政府にとっては、彼が病気になったことは彼の責任です」。

アフテンポステン紙は委員会のニョルスタ秘書に対して「ノルウェー国外、例えば中国で劉暁波氏に平和賞を授与することは可能か」と問いたが、「過去、そのような例はない」と秘書は答えている。ルンデスタッド元秘書は、VG紙に対して「そもそも、彼の健康状態だけではなく、劉暁波氏が平和賞を受け取るような状況を中国政府が許すかもわからない」と答えている。

Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在16年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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