CAPSULE、デジタル・ドリーム・キッズを体現した時空に溶け合う最新テックサウンドへアップデート
音楽はタイムマシンだ。音の響きひとつで、目の前に広がる風景が瞬時に変わる。アーティストは時代のサウンドを奏でながらも、音色を生み出すシンセサイザーには“開発当時、プログラムされた音源やリズム”が存在する。令和時代、音色自体が記憶のスイッチとなり、体系化される傾向にある。ジャンルの壁が壊れ、音楽が多様化したと言われる昨今の音楽シーンに着目したい。
聴き覚えのある70年代、80年代、90年代、00年代ごとに流行した“音色”がキーとなり、フックアップされるのが昨今のヒットチャートだ。80年代リバイバル、シティ・ポップの流行はもちろんのこと、音色こそが“音楽ジャンル”となった現在。エレクトロ・ポップ・デュオCAPSULE(カプセル)が“シンセ・ウェーブ×シティ・ポップ”をテーマとしたアルバム作品『メトロパルス』を2022年12月14日にリリースした。
音楽の歴史上のタイムラインにおいて、最大の発明となったのが夢の楽器=デジタル・シンセサイザーによる音楽マジックだ。現在では、レガシー・シンセサイザーもソフトウェアとしてバーチャルにプラグイン化され、DTM上で音色やリズムを選択し、ミックスし、そしていかに壊すかによってクリエイターのセンスがあらわれ、時空を超えたフェティッシュなプロダクトへと帰結する。そもそもCAPSULEとは、バーチャル環境による創作活動をいち早く開拓した、先駆者であった。
音楽とは刺激物であり鎮静剤だ。どんな機材を選び、それにまつわる音色を選択し、音階を煎じて、サウンドを煮詰めて、有効な成分を抽出して“魔法の時間”へと封じ込める。そう、時の流れをコントロールする時間芸術なのである。その“気づき”にCAPSULEは早かった。
黎明期から、制作スタイルをパソコン上で完結するシステムへ取り組んでいたCAPSULE。コンピューター・ミュージックでありながらも、アナログ的なサウンドの揺らぎを意識することで、手弾きによるフレーズ演奏が特徴でもあった。現在でもやっていることに変わりはない。そのことは、スーパー・デューパーなミュージックトリップを体感できる最新アルバム『メトロパルス』初回限定盤CDに特典として収録される1997年に生み出されたプロトタイプ・ソング「スターリー・ナイト '97」を聴けば理解できるはずだ。CAPSULEがティーンの頃に生み出した、ミッシングリンクを埋めるオーパーツのような作品である。
ここで忘れてはならないのが、CAPSULEの評価は、時代によって世の中の受け止められ方に変化が生じてきたことだ。しかしながら、一気通貫で完成するワンルームミュージックの浸透。情報発信をも作品の機能性となったネット文化圏のコンテンツへの取り組み方。カウンターであり続ける、個であることへのこだわり。時代がCAPSULEに追いついたという側面は見逃せない。
そんな中、次なる時代を見据えて走り出したCAPSULEによる最新コレクションが完成した。通算16枚目となるアルバム作品のタイトルは『メトロパルス』。1980年代のディスコやエレクトロ、ニューウェーブ、映画やビデオ・ゲームなどのサウンドトラックをインスパイア源に、再解釈して作り出したサウンドであるシンセウェーヴを、ネオなシティ・ポップ・センスによってフュージョン=クロスオーバーな感覚でドリーミーに表現した1枚。
今回、CAPSULEが注目した音色を創出するシンセサイザーはYAMAHA“DX7”。6オペレータ、32アルゴリズムによるFM音源を内蔵し、時代のサウンドを生み出した80年代の名機だ。FM音源の特徴である非整数次倍音をハイパーリアルに活用することで、きらびやかな音色やプラスティックかつ金属的な音色など、いわゆるアナログ音源が苦手としたサウンドを特徴とする。80年代リバイバル、そして、日本発、世界で盛り上がるムーヴメントであるシティー・ポップ再評価など、世界中がDX7サウンドに首ったけだ。
音楽は記憶のスイッチとなる。
サウンドが、ふっと空気に触れるだけで、当時の記憶が一瞬で蘇る。それは、当時生まれていなかった平成キッズにとっても同じ体験となるのだからユニークだ。
繰り返そう、音楽はタイムマシンなのである。
体験していない“懐かしさ”をも人の記憶にバーチャルにダウンロードする。そう、テック系バズワードであるARやVR、メタバースを超えた拡張する“超感覚”を音楽は与えてくれる。
未来は過去にあり、過去は未来にある。そして、音楽が鳴らされた瞬間、リスニングした瞬間から音楽は現在のものではなくなっていく。僕らは、点と点で紡がれた音の連なりを耳というセンサーを通じて脳内へとイマジネーションとして摂取しているのである。
CAPSULEの最新アルバム『メトロパルス』とは、そんな体験を教えてくれるプレミアムな1枚だ。
先行してリリースされた「ひかりのディスコ」による、輝きがリフレインし続けるオスティナートな高揚感。アルバムからのリードとなる「ギヴ・ミー・ア・アライド」では、ゲートリバーブなリズムの響き。いわゆる、残響音が設定したレベルに減衰した瞬間にゲートでバッサリと切ってしまう80’sらしいビートセンス。まるで、テレビがビルのように巨大なジャンボトロン、宙に浮くリニアモーターカー、全天候立体映像といったワクワクする未来イメージとシンクロする。いつぞや、CAPSULEと、空と地上をつなぐ宇宙エレベーターについて語ったことを思い出す。
“あの日の僕らに会いに行こう
眩しい未来は Where is it? Uh
時代のページをめくる旅に
そうさ 未来も過去も今重なりあう”
※「ギヴ・ミー・ア・アライド」より
それは、キラキラとせつなさを持って輝きを解き放つ「フューチャー・ウェイヴ」であり、低音の効いた「スタート」では、バーチャルが当たり前となる世界の入り口を告げる賛歌のように響き渡る。そう、「バーチャル・フリーダム」な世界なのだ。魂を縛られた重力からの解放、電子に溶け合いネットワーク化する、かつて夢見たセカイ。
“未来を思い出した
カプセル アクセスメモリー
目覚めた あの日がフラッシュバック
おはよう 開くウィンドウ そうコンピューター”
※「バーチャル・フリーダム」より
80’sライクな、フュージョン・サウンド。サックスによる憂いある響き。「ワンダーランド」、「シーサイドドリーム」で聴ける、トレンディーな煌きはリアルというよりは、画面の向こう側、モニターの向こう側へと入り込み、身体機能を拡張する自由なセカイ。未来のリハーサル、シド・ミードが描いたデザインが思い浮かぶ。
そして、あなたが考察すべきは本作『メトロパルス』の特異点である、過去と現在を紡ぎ未来の羅針盤を指し示す「スターリー・ナイト」が解き放つ静かなる高揚感だ。なぜ、CAPSULE結成のきっかけとなった楽曲のセルフリメイクを本作に収録したのか? その答えは、アルバム『メトロパルス』初回限定盤CDに付属する、原曲に近いアレンジの「スターリー・ナイト '97」をリスニングすべきだ。
アルバムの本質的テーマと向き合う「エスケープ・フロム・リアリティ」では、まさにテクノロジーの進化の先にある境地へと切り込んでいくCAPSULEならではのメッセージ・ソングである。
“みんなそう疲れた時代で
何をしても物足りない
Already knowing
We live in crazy world
耳を塞いでも 変わらない“
※「エスケープ・フロム・リアリティ」より
そしてたどり着いた新時代、新世界を標榜する“電話のプッシュ音”とシンクロするアナログとデジタルが溶け合った「トゥー・マイ・ワールド」。かつて、インターネットへの入り口が電話回線であったことを思い起こさせる未来のような、過去のような、フューチャーレトロな境界線を漂うポップチューン。聴き覚えのあるシンセリフがパルスのように浮かんでは消えていく。
こうして、CAPSULEとしては異例の全曲歌モノによる、シンセ・ウェーブな未来派フュージョンを体現したポップ・アルバム『メトロパルス』の誕生となった。
2022年 から2023年へ。アルバム『メトロパルス』とは、ヒューマンとコンピューターの境目が曖昧となる技術的特異点=シンギュラリティへと近づくターニングポイントを示唆する作品なのかもしれない。そう、技術哲学、科学哲学、未来学等において、テクノロジーの進歩が制御不能かつ不可逆的になり、人類の文明に予測不可能な変化をもたらす仮想的な未来時代が数年後にはやってくる。
今回、ついにCAPSULEは実写アーティスト写真、メンバー表記から解放された。クリエイターとして作品と溶け合い、より音楽そのものへと近づきたかったのかもしれない。そんな時代性への一足早い気づきが、ポジティブなヴァイブスとしてアルバム全体を貫き、サウンドにのめり込まされる。あなたにもぜひ、一刻も早く最新のCAPSUL体験をしていただきたい。
かつて人類が夢見た懐かしき未来の風景。サウンドのヴィジュアライズ化。原点回帰? いや、CAPSULEの本質とは、結成時からずっと変わらないのである。音楽とは、時間軸を超えていくことを認識させてくれる最新エンタテインメント体験だ。それがCAPSULEからの不変のメッセージなのかもしれない。
CAPSULE Official Site