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ホロコースト時代にナチスに抵抗していたユダヤ人・パルチザンの貴重な映画「FOUR WINTERS」

佐藤仁学術研究員・著述家
(New Moon Films提供)

毎年制作されるホロコースト映画だが珍しいパルチザンがテーマ

第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。ホロコーストの生存者や当時の様子など実話に基づいた映画やドラマは毎年欧米で制作されている。そして「FOUR WINTERS」という当時パルチザンとしてナチスドイツに抵抗していたユダヤ人の生存者らの証言をもとにした映画が製作された。

ナチスによってユダヤ人虐殺が行われていたが、森林に隠れてパルチザンとしてナチスに抵抗してナチス兵士やユダヤ人殺害に加担する地元兵士らと戦っていた。ナチスが支配したポーランド、リトアニアなど様々な場所でユダヤ人がナチスから逃れて森林や地下でナチスに抵抗していた。また反ナチスの地元住民や兵士らがユダヤ人パルチザンに武器や食料の提供などで協力することもあった。だがパルチザンによってナチス兵士が殺害されると、ナチスは報復と見せしめとして地元のユダヤ人をさらに大量に殺害していた。

映画「FOUR WINTERS」はナチスに抵抗して戦っていたパルチザンの生存者らの証言をもとに製作されている。ホロコースト生存者の実話を元にしたドキュメンタリーは迫害、差別され過酷な強制収容所を辛うじて生き延びてきたり、ひっそりと戦争が終わるまで隠れていた方々のストーリーがほとんどで、ナチスに抵抗して戦ってきたパルチザンをテーマにした映画は珍しい。

▼「FOUR WINTERS」オフィシャルトレーラー

ホロコースト映画と記憶のデジタル化と貴重なパルチザン映像

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。この映画「FOUR WINTERS」もノンフィクションである。ドキュメンタリーなのでホロコースト教育の教材にも活用されやすい。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

この映画「FOUR WINTERS」でも当時のホロコーストの様子や、パルチザンの様子を撮影した貴重な写真や映像がデジタル化されている。ホロコースト教育だけでなく歴史学や社会学、民俗学の研究においても貴重なナチスに抵抗していたパルチザンのことが理解できる映画である。またパルチザンをテーマにしたストーリーや当時のドキュメンタリーはイスラエルのユダヤ人の間では特に人気が高い。

戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。

世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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