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ガンバ大阪が取り組む、新トレーニング。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

今季から長谷川健太氏を新監督に迎え、クラブ史上初となるJ2リーグでの戦いを続けているガンバ大阪。監督が代われば当然、戦い方や練習内容等にも例年とは違う変化を感じるものだが、中でも目を惹くのがフィジカルトレーニングの方法だ。

というのも今季、G大阪は例年とは違い、『ボールを使ったフィジカルトレーニング』を導入。これにはJ2リーグの日程を睨んだ上で、長谷川監督の意向が反映されている。

「J2リーグのスケジュールには、J1リーグのような中断期間がありませんからね。例えば、中断期間にピークを設定し直して身体を作り直すような時間はない。だからこそ、今季は試合を戦いながらフィジカルを維持、向上させていくことを目指したというか。ボールを使って戦術的なアプローチをしながら、かつ、フィジカルを鍛えられるトレーニングに取り組みたいと考えた。その意向を新シーズンを迎えるにあたってフィジカルコーチである吉道(公一朗)に伝えた上でシーズンに入る前も、実際にシーズンが始まった今も、選手の状態を見極めつつ常にディスカッションをしながら日々のトレーニングに取り組んでいます。(長谷川健太監督)」

その方法として長谷川監督が提案し、吉道フィジカルコーチがそれを『ガンバ流』にアレンジして取り入れているのが、過去にオランダ代表をはじめ、チェルシーFC(イングランド)やFCバルセロナ(スペイン)などの躍進をサポートしてきたとされるコンディショニングコーチ、レイモンド・フェルハイエン氏が提唱するトレーニング方法だ。

レイモンド理論とは『爆発力の向上』『爆発力の持続』『アクション頻度(=回復力)の向上』『アクション頻度(=回復力)の持続』という4つの狙いを意識したトレーニングのこと。それを意識したメニューに取り組むことで、回復力を持続、向上させる機能を備えられるようになり、1試合を通して、よりハイスピードで、多くのアクションを起こせるサッカーが実現できるようになるという訳だ。

G大阪では、今季、この理論に基づいたトレーニングを導入。といっても、そのメニューをそのまま取り入れるのではなく、G大阪が目指すサッカーのスタイル、選手個々の特性等を見極めた上で、様々なアレンジを加えながら取り組んでいる。

「基本的にレイモンド氏が提唱するトレーニングとして、過去のデータをもとにトレーニング内容…つまりは、ある程度、このメニューを何本、何セットというようプログラムが決まっているのですが、外国人と日本人とはそもそもの体格や特性も違いますし、目指すサッカーによっては全く同じ理論を当てはめても、フィジカルと戦術の並行した強化には繋がらないですからね。例えば、縦に速く繋ぐサッカーなのか、横に拡げながら攻撃を構築して行くサッカーなのか、ということでも内容は当然、違ってくる。という考えから、例えばピッチの幅、時間にしてもG大阪にあった方法を探りつつ、取り組んでいます(吉道フィジカルコーチ)。」

では、その効果は? と、つい、せっついてしまいがちだが、どうやら、その効果を問うのは時期尚早のようだ。というのも、基本的にレイモンド氏の提唱する理論では、最低でも『12週間』が効果の目安と定められているため。これに対して、G大阪はと言えば、長谷川監督就任時に、すでに今季の大まかなスケジュールが決まっており、練習試合等の日程を動かせなかったため、必然的に同トレーニングを実施できない期間があったとのこと。それらを差し引くと、現時点で5週目にあたる今はまだ、効果のほどを語りきれないというということになる。

それでも選手によってはその効果を敏感に感じ取っている選手もいる。例えば、今季、ここまでのJ1リーグ5試合全てで先発出場を果たしているMF阿部浩之は言う。

「僕は理論がどうこうというより、吉道さんのメニューを信じて素直に受け入れてきただけですが、確かに昨年なら、終盤になると明らかに足が止まったり、つってしまったり、ということがあったのに、今年はそれがない。試合出場時間数ということを考えても、アクション頻度は間違いなく増えていると思うのですが、そこまで疲れは感じていないですから。もちろん、そこには自分の試合への関わり方というか…先発か途中出場かという部分での影響もあると思うのですが、少なくとも去年よりは走れる自分を実感できているのは間違いないです。(MF阿部)」

また、MF遠藤保仁も同トレーニングに絶大な信頼を寄せる一人である。

「このトレーニングによって、極端な話、無酸素になった状態でもプレーを連続して出来たり、試合終盤に身体を回復させてスプリントあげることができるようになるということですからね。実際に世界と戦うことを想定して、常にどれだけキツい状態でスプリント力をあげられるかというところを自身に課している中で、その効果は練習や試合でも実感しつつある。ガンバのスタイル、サッカーを考えても僕はすごく理にかなったいいトレーニングだと思っています。(MF遠藤)」

先にも述べたように、G大阪が同トレーニングに取り組み始めて、現在5週目。つまり、効果の目安の基準となる『12週』を迎えるのは5月の半ばあたりということになる。といっても、プレーの向上も、フィジカル強化も全ては「積み重ねた先にしか効果は見えてこないし、これで終わりということは絶対にない」と話すMF遠藤の言葉を借りれば、その効果は例え12週が過ぎても、白黒はっきりと出るものでもない。またシビアに言えば、結果で判断される世界だからこそ、それらが『勝利』に直結していかなければ否定されることもあるだろう。だが、今はただ、とにかくそうした新しい試みが、どんな結果、効果として表れるのかが、楽しみでならない。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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