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キャメロン・ディアス、51歳に。大人気女優が第一線を去った理由

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「Hart to Heart」に出演したキャメロン・ディアス(Peacock)

 キャメロン・ディアスが、西海岸時間30日に51歳の誕生日を迎える。女優業からはすっかり遠のいているが、充実した毎日を送っているようだ。

 ディアスが最後にスクリーンに登場したのは、2014年12月に公開されたミュージカル映画「ANNIE/アニー」。その翌月、ミュージシャンのベンジー・マッデンと結婚すると、ディアスはエージェントに「もう仕事の話は持ってこないで」と言い、事実上の引退生活に入った。2019年には代理母を雇って長女を授かり、一児の母に。2020年夏には、友人キャサリン・パワーとオーガニックワインのブランド、アヴァリンをデビューさせた。

 完全な引退宣言はしておらず、また演技をやることはあるのかと聞かれると「絶対やらないとは言わない」と言ってきたディアスは、「ANNIE/アニー」で共演したジェイミー・フォックスに説得され、昨年、Netflixのアクションコメディ映画「Back in Action」に出演を承諾。撮影は昨年末から今年4月にかけて行われた。

(アヴァリンのインスタグラムより)
(アヴァリンのインスタグラムより)

 もうすぐまた彼女の姿を見られるのは楽しみだが、そもそも、大人気女優だった彼女はなぜハリウッドを去ったのか。2021年にPeacockで配信されたケビン・ハートのインタビュー番組「Hart to Heart」で、ディアスはそのことについて語っている。

 コメディアンとして大活躍するハートに、「あなたは理解してくれると思うけれど」と言った上で、ディアスは、長い間ハイレベルのタレントとして成果を出してくると、そこに集中することだけが自分の役割となり、家のこと、お金のこと、その他の細々したことは他の人に任せるしかなくなるのだと述べた。自分には人間としてもっといろいろな側面があるのに、周囲から期待されるのは、映画女優として立派に機能し続けることだけなのだ。

「私は演技が大好き。いつまでもやっていたいと思っていた。情熱はたっぷりあった。だけど、自分の周囲を見回してみて、自分の人生なのに自分で触れていない部分がすごくたくさんあると気づいたの。自分で管理できていない部分が。すべてが巨大だから」。

 そう思っていたところへ、現在の夫と出会い、結婚したことが後押しをした。だが、20年以上一緒に仕事をしてきたマネージャーや彼女の親しい友人は、ディアスがいつかこの決断をするだろうとわかっていたという。にもかかわらず、ディアスが事実上の引退をしてからも、マネージャーは時々映画の話を持ってきた。

「その都度、やるべきかしらと考えたけれど、もしやるとなったら、今私が言った、やっと取り戻したものを失うことになる。受けるかどうかを考えることで、自分は今、望んでいた生活を送っているのだという事実を思い出すのよ」。

 母、妻として生きる毎日を、今のディアスは満喫している。

「かつての私は1日にすごくたくさんのことをやっていた。15分ごとに何かをこなしていた感じ。今はすべてが娘中心。私は娘の食事を全部手作りする。朝娘を起こすのは私で、夜寝かしつけるのは夫。私たちはチームで子育てをしているけれど、ヘルプ(ベビーシッター)も使っている。それがないママたちはどうやってこなしているのか、想像もつかない。彼女たちこそスーパーヒーローだわ」。

女優になることは決して夢ではなかった

 このインタビューで、ディアスは、「マスク」(1994)で初めて女優の仕事を得た時のことも語っている。コマーシャルやカタログの仕事をこなす20歳のモデルだったディアスに、女優になりたいという願望はまるでなかったが、コマーシャルのエージェントからオーディションに行くように言われて、その通りにした。それが始まりだ。

 映画を作る体験はとても楽しく、これを仕事にしていこうと決めたディアスは、演技のレッスンを受けて実力の向上に努めつつも、ルックスだけが求められる役を拒否し、あえてインディーズの興味深い役を選んでいった。そんな彼女にメジャー映画でのブレイクをもたらしたのは、ジュリア・ロバーツ主演の「ベスト・フレンズ・ウエディング」(1997)。その翌年には「メリーに首ったけ」、そのまた翌年には「エニイ・ギブン・サンデー」、「マルコヴィッチの穴」が続いた。「マルコヴィッチの穴」では、英国アカデミー賞の助演女優部門に候補入りをしている。

「メリーに首ったけ」のプレミアに出席したディアス
「メリーに首ったけ」のプレミアに出席したディアス写真:REX/アフロ

 その後も幅広い役に挑戦し、観客に愛されてきたディアスは、ハリウッドで最も高いギャラを得る女優のひとりとなった。しかし、彼女は「映画を作ることで私は多くのお金を得てきたけれども、お金を理由に役を選んだことはない」と断言する。

「お金をどれだけもらえるか、どれだけ有名になれるかを基準に判断する人はたくさんいる。リッチなセレブになりたい人たちが。それは良いことじゃないわ。それがゴールなのだとしたら、そこにたどりついた段階で終わってしまう。私は、世界に向けて情熱を送りたい。人々に影響を与えたい。レッドカーペットを歩いて注目されたいだけの人もいる。そういう人は長く続かない」。

 そんな確固たる信念を持つディアスを引退から引っ張り出してきた「Back in Action」は、それだけの価値がある作品だったということだろう。Netflixはこの映画の配信開始日をまだ発表していないが、きっとディアスはこれまでのように世界中のファンを魅了するに違いない。その日が来ることを、みんなが待ち侘びている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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