「女子中学生を身ぐるみ剥がし…」北朝鮮の強盗が“山の中”で狙うもの
先月31日のこと、北朝鮮北部・両江道(リャンガンド)の初級中学校(中学校)に通う女子生徒2人が、山の中で強盗に遭う事件が起きた。
2人は衣服と持物を奪われたものの、幸いにしてケガはなかったようだ。北朝鮮では食糧難が深刻化するたびに、こうした犯罪が増える。
それにしても、2人は山の中で何をしていたのか。実は、採集した「トゥルチュク」を持って買い取り場に向かう途中だったのだ。強盗らの主たる狙いも、トゥルチュクにあったようだ。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
トゥルチュクとは、日本でクロマメノキと呼ばれるブルーベリーに近い木で、寒冷地で育つ。その実は甘く、生食したり、ジャムや酒などに加工されたりする。信州ではアサマブドウ、アサマベリーなどと呼ばれている。
両江道の白頭山の山麓はトゥルチュクの名産地とされており、今年も収穫期を迎えた。
高値で買い取ってもらえるため、地域住民が一斉に山に入り、トゥルチュク争奪戦が繰り広げられるが、食糧難が続く今、トゥルチュク目当ての強盗が出現するなど戦々恐々とした空気が漂っていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
白頭山の麓にある三池淵(サムジヨン)では、トゥルチュクの収穫期を迎え、家族総出でトゥルチュク取りに出かける人が多い。深刻な食糧難の中、生き残るためなら、仕事や学業は二の次三の次だ。
三池淵から白頭山までの70キロほどの区間にトゥルチュクが多く生えており、実を取って販売したり、機関や企業所に買い取ってもらう。国から求められた計画(ノルマ)を埋めるために、地域住民から買い取るのだ。
ところが、そんな人々を狙った強盗が相次いでいる。山中には、行政機関や企業所が設置したトゥルチュクを買い取るテントが多く存在するが、それも強盗のターゲットになっている。先月末、手に刃物を持った複数の男性がテントを襲撃し、200キロものトゥルチュクを奪って逃走する事件が起きた。
抵抗すれば何をされるかわからず、言われたとおりに大人しくトゥルチュクを差し出すしかない。また、被害を安全部(警察署)に訴えたところで相手にしてもらえず、泣き寝入りするしかない。唯一の防衛策は単独行動を避けることだ。情報筋は「生き馬の目を抜く世の中」だと嘆いている。
トゥルチュクの収穫量は、丸一日頑張って一人当たり4キロが限界で、買取価格は30元(約600円)だ。これでコメなら10キロ近く、トウモロコシならその倍ほど購入できる。数日頑張れば4人家族が1カ月食べるだけの穀物が手に入る。トゥルチュクの旬は2カ月ほど続くことから、要領よく作業をこなせば、春まで食いつなぐための穀物とそれなりの現金が手に入るのだ。
三池淵には近隣の恵山(ヘサン)、普天(ポチョン)などから収入を求めて相当数の人が押し寄せてきている。行き来する時間と費用を節約するために、現地にテントを張って寝泊まりしている。夕方になると、山のあちこちからコメを炊く煙が立ち上がる。
現地住民は、こんな状況が数十年前から続いていると嘆いた。
(参考記事:北朝鮮企業が少女たちの「やわらかい皮膚」に目をつけた理由)
「親の世代は生きるためにトゥルチュク取りをしていたが、子どもの代になっても依然としてトゥルチュク取りをしなければならない。貧乏は受け継がれるというが、いくらそこから抜け出そうと頑張っても、暮らしは一向に楽にならない」
故金日成主席が抗日パルチザン活動を行い、故金正日総書記の生まれ故郷とされている三池淵は、北朝鮮の革命の聖地だ。金正恩総書記は、この三池淵を地方都市のモデルとして、大々的な再開発を行った。見違えるようにきれいになった三池淵は、国営メディアのプロパガンダの定番となっているが、ハコモノは増えても、人々の暮らしに何ら発展がない。
コロナ禍以降の統制強化で密輸もできなくなり、市場での商売も制限が厳しくなったことから儲からなくなった。現金収入が中々得られなくなった人々は、トゥルチュクの木にすがりつくしか生きるすべがないのだ。