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Facebook,Google,Twitterを訴えるトランプ氏の思惑とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

フェイスブック、グーグル、ツイッターを、トランプ前大統領が「表現の自由」を侵害されたと訴える。勝算がないといわれるその提訴の思惑とは――。

ソーシャルメディアが相次いで米国の前大統領、ドナルド・トランプ氏のアカウントを停止してからちょうど半年。

そのタイミングで、トランプ氏は3社とそのCEOをぞれぞれ提訴し、アカウントの復旧などを求めている。

米国の憲法が保障する「表現の自由」は、むしろプラットフォームによるコンテンツやアカウント管理を保障し、権力の介入を排除すると専門家らは指摘する。つまり、勝ち目のない裁判だ、と。

ではなぜトランプ氏は半年もたってから、提訴に動き出したのか。

その前週には、この提訴の前哨戦とも言える攻防が、地元のフロリダで展開されていた。

「注目を集めること」。専門家やメディアの間では、この訴訟があくまで「トランプ流」の戦略だとの受け止め方が広がっている。

●アカウント復旧を求める

我々は、みなさんがよく知っているシャドウバンを終わらせ、言論封殺やブラックリスト化、追放や締め出しなどを中止させることを要求しているのだ。

トランプ氏は7月7日、米ニュージャージー州の自身のゴルフクラブで会見を行い、フェイスブックユーチューブ(グーグル)ツイッターと、それぞれのCEOを、フロリダ南部地区連邦地裁に、自らが代表となって集団訴訟として提訴したことを明らかにした。

プラットフォーム3社は、1月6日に起きた米連邦議会議事堂乱入事件に際して、トランプ氏の投稿が「暴力のリスク」があるとして、フェイスブックは7日、ツイッターは8日に、ユーチューブは12日に、相次いでアカウントの永久、および無期限停止に踏み切った。

この日の提訴は、フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏がトランプ氏のアカウントの無期限停止を表明してから、ちょうど半年が経過したタイミングということになる。

※参照:Twitter、Facebookが大統領を黙らせ、ユーザーを不安にさせる理由(01/12/2021 新聞紙学的

※参照:FacebookとTwitterが一転、トランプ氏アカウント停止の行方は?(01/08/2021 新聞紙学的

ツイッターは永久停止。ユーチューブは無期限停止。フェイスブックは当初、無期限停止としていたが、諮問機関「監督委員会」の指摘によって、停止期間を当面は2年とする見直しを行っている。

※参照:Facebookがトランプ氏に「2年ルール」を適用し、政治家の特別扱いをやめたわけ(06/06/2021 新聞紙学的

※参照:トランプ氏停止は支持、だがFacebookは無責任と「最高裁」が言う(05/06/2021 新聞紙学的

訴状では、これらのアカウント停止措置が、米国憲法修正第1条が保障する「表現の自由」を侵害しており、プラットフォームによるコンテンツ規制についての免責を規定した米通信品位法230条も違憲である、と主張。

アカウントの復旧と、米通信品位法230条の違憲の認定、さらに金額は明示していないが損害賠償も求めている。

●通信品位法230条の因縁

双方向コンピューターサービスのプロバイダーやユーザーに対し、以下の理由で責任を問うてはならない―

(A)プロバイダーやユーザーが、わいせつ、下劣、扇情的、下品、極めて暴力的、嫌がらせ、その他不適切と見なした対象物について、それらが憲法上保護されているか否かにかかわらず、自主的に誠意をもってアクセスや利用を制限するために取ったあらゆる行為。

通信品位法230条(C)(2)はそう規定して、コンテンツ規制に関するプラットフォームの免責を認めている。

そして、トランプ氏による通信品位法230条への批判には、昨年からの経緯がある。

「郵便投票は実質的な詐欺以外の何物でもない」。大統領選期間中の2020年5月26日、トランプ氏のそんな投稿に対し、それまで政治家を例外扱いしていたツイッターが、初めて警告文を表示した。

※参照:SNS対権力:プラットフォームの「免責」がなぜ問題となるのか(05/30/2020 新聞紙学的

これを「検閲」だとして反発したトランプ氏は、2日後の5月28日、通信品位法230条の改正を求める大統領令に署名をするという事態にエスカレートしていた。

この大統領令は1年後の2021年5月14日、バイデン大統領によって取り消しが行われている。ただしバイデン氏自身も、通信品位法230条の「撤廃」を主張してきた経緯があり、その見直し議論が政治的課題であり続けることに変わりはない。

※参照:ザッカーバーグ氏がフェイク対策で法規制を求めた―その理由とは?(03/26/2021 新聞紙学的

●アカウント停止をめぐる前哨戦

トランプ氏のアカウント停止をめぐる攻防は、今回の提訴の前週、6月30日にその前哨戦が展開されていた。

フロリダ北部地区連邦地裁タラハシー支部はこの日、こんな判断を示した。

本決定は、連邦法によって無効、もしくは憲法修正第1条違反となる法令の一部について、執行の仮差し止めを命じる。

ここで言う「連邦法によって無効」とは、通信品位法230条のことを指す。そして同地裁が仮差し止めを命じたのは、フロリダ州で成立した新たな州法だった。

トランプ氏の地元であり、支持者として知られる共和党のロン・デサンティス氏が州知事を務めるフロリダ州では、ソーシャルメディアが選挙候補者のアカウントを停止や削除した場合、最大で1日当たり25万ドル(約2700万円)の制裁金を科すという新たな州法が成立していた。

デサンティス氏は5月24日にこの州法に署名。7月1日が施行予定だった。

言わばこの州法、トランプ氏のアカウント停止に対する、プラットフォームへの反撃だ。

これに対し、フェイスブック、グーグル、ツイッターなどが加盟する業界団体「ネットチョイス」と「コンピューター&コミュニケーション産業協会(CCIA)」は5月27日、フロリダ州を相手取り、この州法の差し止めを求めていた

つまりこの前哨戦では、通信品位法230条、憲法修正第1条をめぐってプラットフォーム側が勝訴した。それも、州法の施行日前日というタイミングで。

トランプ氏の今回の提訴は、その連邦地裁決定からちょうど1週間後に当たる。

●「勝ち目のない」訴訟

専門家は、トランプ氏の訴訟に勝ち目はない、と口をそろえている。

米サンタクララ大学法科大学院教授のエリック・ゴールドマン氏は、アカウント停止、コンテンツ削除に対して、ユーザーが起こした訴訟61件の結果を分析した。いずれの訴訟もユーザーが敗れており、約9割は実質審理に入らず却下されているという。

ゴールドマン氏は、AP通信のインタビューにこう述べている。

修正憲法第1条を含めて、ありとあらゆる議論が尽くされ、そして手も足も出ず終わっている。トランプ氏には、それら何十もの先例を凌ぐような秘策があるということか。そんなものはないと思うが。

ニューヨーク大学スターン・ビジネス大学院ビジネス人権センター副所長、ポール・バレット氏は、やはりAPなどのインタビューに「トランプ氏の提訴はDOA(到着時死亡)だ」と言い切る。そして、「トランプ氏は憲法修正第1条の議論を完全に間違えている」という。

憲法修正第1条は、「連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない」として、「表現の自由」を保障する。

バレット氏はこう述べる。

実際には、フェイスブックとツイッターこそ、憲法修正第1条による表現の自由の権利を有している。プラットフォーム上にどんな言論を表示したり、拡散させたりするかを決めることも、暴力の扇動者、すなわち1月6日の連邦議会議事堂乱入事件におけるトランプ氏のようなスピーカーを排除したりすることも、その権利によって認められているのだ。

コロンビア大学ナイト修正第1条研究所の事務局長、ジャミール・ジャファー氏も、「この訴訟は宣伝であり、法廷で支持を得られることはないだろう」と指摘する。

ジャファー氏は、トランプ氏とは因縁がある。2017年、トランプ氏が批判的な投稿をしたツイッターユーザーをブロックしたことに対して、同研究所が他のユーザーとともに提訴した。

2018年にニューヨーク南部地区連邦地裁は、大統領のアカウントが「公共のフォーラム」だとし、ユーザーをブロックすることは憲法修正第1条に違反する、と認定した。さらに2019年、ニューヨークの第2巡回控訴裁判所も地裁の判断を支持し、違憲判決を出した。

ただ2021年4月、連邦最高裁は、トランプ氏がすでに現職大統領ではなく、ツイッターによってアカウントも永久停止されていることを理由として、訴訟を「無効」としている。

今回の提訴でトランプ氏は、フェイスブック、ユーチューブ(グーグル)、ツイッターのコンテンツ管理やアカウント管理は(バイデン)政権などと連携したもので、3社は「国家組織」と見なすことができ、憲法修正第1条の規制対象となる、と主張している。

この主張に対してジャファー氏は「まったく説得力がない」と断じ、こう述べている。

公共の議論に非常に大きな影響力を持つ民間組織に対して、憲法修正第1条がどのような義務を課し得るのか、そのような民間組織の行為を規制することについて議会にどのような裁量を与えるのか、といった重要な議論はある。だが、今回の訴訟がこの議論に寄与することはほとんどないだろう。

●訴訟の思惑

ではなぜ、そんな裁判を起こすのか。

コロラド大学法科大学院教授のブレイク・レイド氏は、ニューヨーク・タイムズのシェーン・ゴールドマッハー氏のインタビューに、こうコメントしている。

この訴訟は法的根拠のない宣伝活動で、法廷で勝つ見込みはまずない。ただ、多くの注目を集める可能性は極めて高いわけだ。

サンタクララ大学のゴールドマン氏も、こう見立てる。

支持基盤にメッセージを送り続けるという、いつものやり方だ。支持者たちのために、邪悪なシリコンバレーの巨大IT企業と闘っているんだ、と。

タイムズのゴールドマッハー氏は、全国共和党下院委員会(NRCC)と同上院委員会(NRSC)が、トランプ氏の提訴会見中から、訴訟への支援を求めるショートメールを支持者に送り、トランプ氏の政治活動委員会(PAC、政治資金団体)も、会見終了後に「すぐに寄付を」と呼びかけるショートメールを送っていた、と指摘。「この訴訟は宣伝活動のようだ」と述べている。

人権団体「ファイト・フォー・ザ・フューチャー」のディレクター、エヴァン・グリーア氏も、声明の中で、こう述べている。

これは訴訟とは言えない。資金集めの詐欺行為だ。

(※2021年7月9日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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