今こそ知りたいセシルマクビー商標事件
「ギャル系ファッションブランド『セシルマクビー』が、2021年2月までに全店舗を閉鎖すると発表した」というニュースがありました。
「セシルマクビー」と言えば、ある程度ジャズ系に詳しい人であれば、ギャル系ブランドではなく、1950年代から活躍しているベテラン黒人ベーシストの方(タイトル画像参照)を思い浮かべるでしょう。そして、このマクビー氏がセシルマクビーブランド商品の提供企業(現名称:株式会社ジャパンイマジネーション、旧名称:株式会社デリカ)と商標権について争っていたこともご存知の方が多いでしょう。
マクビー氏が請求した無効審判については大部昔に書いていますが、今調べるといろいろと追加情報がありましたので、本記事で再度まとめて書くことします。
問題の無効審判は、商標登録4136718号(Cecil McBeeとセシルマクビーの2段書き商標)に対するものであり、関連条文は商標法4条1項8号です。
自分の氏名を商標として勝手に使われないという人格権的な保護を趣旨とした条文です。条文適用の条件として、「氏名」の場合は著名である必要はないですが、「略称」の場合は著名性が求められていることにご注意ください。
この無効審判の審決(2004年10月1日確定)のポイントは、ベーシストのセシル・マクビー氏の氏名は(ミドルネームを含む)セシル・ルロイ・マクビーであって、セシル・マクビーはその略称であり、(4条1項8号の適用では、略称の場合は著名性が求められるところ)セシル・マクビー氏はジャズの世界ではある程度有名であるかもしれないが、それを超えて広く知られていると認めることはできないので、4条1項8号は適用されないというものです。
この無効審決には審決取消訴訟が2件提起されていますが、いずれも請求棄却となっており、審決が確定しています。
ドナルド・トランプは米国大統領の氏名ではなくその略称である(氏名はドナルド・ジョン・トランプである)というのは、ちょっと違和感のある解釈と思います。
実際、他の「セシルマクビー商標」商標登録出願(4837045、4837046)は、以下の理由によりいったん拒絶査定になっています(その後、不服審判により拒絶が覆って登録査定)。
特許庁の審査官(少なくともその一部)がこういう解釈をしてしまうくらいなので、先の無効審判における解釈は直感に反するものと言われてもしょうがないのではと思います(この査定の直前に無効審判が請求されているのでそれを参考にしたのかもしれませんが)。
なお、現在では、外国人の氏名はミドルネーム込み、姓と名だけでは略称と見なすという運用が審査基準に載っていますので、もうぶれることはありません。
また、マクビー氏は、米国においても、ランハム法(連邦商標法)に基づき、false endorsement(虚偽の推奨)等に基づきデリカ社(当時)を訴えています。2002年10月にメイン州地裁で訴訟提起し、2004年12月に控訴していますが、いずれもマクビー氏の請求は認められていません。控訴審の判決文はこちらです(第一審の判決文は非公開のようですが、控訴審の判決文を見ると全体の流れがわかります)。
大雑把な流れで言うと、第一審では日本の事件なので米国裁判所の管轄権外とされたのに対して、マクビー氏側が調査員を使ってアメリカからセシルマクビーの商品を注文して米国に配送されたことを、デリカ社が米国向けにビジネスを行なっている証拠として提出し、控訴しています。控訴審では、管轄権については認められたものの、マクビー氏の米国における損害が十分に立証されていない等の理由により、同氏の請求は退けられました(本件について米国で訴訟するのはちょっと無理筋であったと思います)。
ということで、マクビー氏は自分の名前を勝手におしゃれブランド名に使われないよう、かなりの費用と手間をかけており、相当に名誉を害されたと感じていたことがうかがえます。偶然の一致というパターンはちょっと想定し難いので当然とも言えるでしょう。記憶が定かでないですが、ジャズ雑誌のインタビューでマクビー氏本人が「マクビー家の名誉にかけて戦う」というような発言をしていたと思います。
一般的に、日本の知財制度は人格的権利の保護に厚い(著作者人格権の保護や日本人の氏名に関する商標4条1項8号適用に関する判例を見ればわかります)のですが、なぜか、外国人の人格権はあまり保護してくれないんだなあという印象です。
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