【図解】なぜハンコが必要なの?電子契約の仕組みと始め方も
竹本直一IT担当大臣が、はんこがリモートワークの障害になっていることについて「しょせんは民間の話」と発言したことが波紋を呼んでいます。
これについて、GMOインターネットグループの熊谷正寿代表が即反応し、会社としてはんこをなくしていくことを進めています。
実際、会社のハンコを無くすにはどうしたらいいのでしょうか?ハンコの必要性や電子署名、電子契約の始め方についてまとめました。
どんなときにハンコが必要か?
ハンコは主に「社外との契約書」「社内の稟議書・決裁書類」に使われていると思います。
社内の稟議書・決裁書については会社内のルールで決められていることであり、意思表示の証拠を残すことが目的です。これについては、グループウェアが導入されている会社では「ワークフロー」として整備されていることが多いと思います。現場作業の多いお仕事ではなかなかワークフローが整備しにくい部分があるかもしれません。基本的には社内制度の整備で対応ができる部分です。
そして社外との関係における「契約書」ですが、実はそのほとんどを電子署名へ置き換えることが出来ます。
なぜ契約書にハンコが必要なのか?
どうしてハンコが必要なのか、EY弁護士法人の伊藤 多嘉彦弁護士に聞いてみました。
「契約の場合は、まず口約束だと証拠にならないので、文書にする。その上で、なりすましとか偽造の問題も出てきます。また証拠保全的な意味で相手方からハンコがある書面もらいたいという面と、内部の決裁で勝手にサインしたりしてないことを担保するという面もあります。」
契約は互いの意思表示があれば十分で、それは口約束でも構いません。それでも契約書を作成するのは主に「モメた時」と「適正な経理」のためにあります。
契約をするときは良好でも、その後関係が悪くなることがあります。そういった時のために契約書を作成し合意した内容を記録しておきます。
また、経理上も契約書があるほうが望ましいことがあります。たとえば、ある会社から100万円が振り込まれた時、それが借りたものなのか、売上なのか、有効な契約書があればすぐにわかります。
このように、事実を客観的に確認できるように残すために契約書を作成します。
契約書にハンコを押す理由ですが、これは民事訴訟法で「署名又は押印」があるときは真正に成立したものと推定する。という規定があり、この定めにのって、署名または押印をしている、というのが現実です。
ちなみにハンコとはいってもただのスタンプ。盗んで押したり、印影から偽造したりすることもできます。それを許すと契約社会がぐちゃぐちゃになってしまうので、印鑑の偽造や不正利用は刑罰の対象とされています。
さて、このハンコですが、他のものに置き換えることはできないのでしょうか?
ハンコじゃなきゃだめ?
ハンコである必要は全くありません。契約については、電子署名法という法律で電子署名があればいいとされています。帳簿書類ついても、システムログの記録で代替可能とされています。(ただし、届出・承認が必要な場合や、例外となる事項が存在します。)
適正な方法を使えば、契約書を電子署名ですることには全く問題が有りません。
電子署名の仕組み
そもそも「電子署名」とはどういうものでしょうか?現在、一般的に使われている方法は、公開鍵暗号方式です。署名をしたい側(当事者A)が、公開鍵と秘密鍵を生成します。書類のハッシュ値を秘密鍵で暗号化し、書類に添付します。書類を受け取った側(当事者B)は書類に添付している署名を公開鍵で復号し、書類のハッシュ値と比較します。両者が一致すれば、その署名は確かに当事者Aが署名したものと確認することが出来ます。
この時、公開鍵が本当に本人のものかどうかを確かめることも大切です。公開鍵の本人性を確認するために「認証局」という機関があり、そこに照会することで確かに本人のものであると容易に確認できるようにしています。
電子証明書を使う方法
この電子署名をする方法ですが「電子証明書を直接使う方法」と「クラウドサービスを使う方法」の2つがあります。
電子証明書を使う方法では、当事者Aが自分のパソコンで電子署名を書類に添付し、当事者Bに送ります。当事者Bはその署名で、真正性を確認します。また、その署名が正しいものか、いつ押されたものかを確認するために、電子認証局やタイムスタンプを利用します。
この書類が契約書である場合、当事者Bは同様に自分のパソコンを使って自分の電子署名を添付して当事者Aに送り、当事者Aはそれの真正性を確認することで、契約が無事に成り立ちます。
この場合、両者が自分の電子署名を持っており、なおかつそれが第三者の電子認証局で認証されたものとするのが望ましいです。電子署名をするのがICカードをかざすぐらいの手軽さであればいいのですが、今の所、それなりに手間のかかる方法となっています。
したがって、この方法は主に、当事者Aの本人性だけが確認できればよい行政手続きのオンライン申請などに利用されています。
クラウドサービスを使う方法
電子証明書を直接扱うには準備が必要ですので、現在使われている方法が「クラウドサービス」を使う方法です。これは、合意したい書類をあらかじめクラウド上に保管しておき、両者がサービスにログインして「同意」のアクションをすることで、クラウドサービスが電子署名とタイムスタンプをその書類に添付してくれる。という仕組みです。
通常、当事者の片方がクラウドサービスの利用者と契約をしていれば、相手方は費用を支払うこと無くクラウドサービスの利用者となって契約書に合意できるような仕組みになっています。コストがあまり掛からず、スピーディーに契約事務を進めることが出来ます。また、契約が終わったファイルをクラウド上で保管できるのも利点の一つです。
これから電子契約をするぞ、という方は、クラウドサービス型のものを利用するのが最も始めやすいでしょう。無料で使えるプランのあるサービスもあります。
なお、クラウド契約サービスの場合、サービス上でされる電子署名は当事者A,Bのものではなく、クラウドサービス提供会社の電子署名のことがあります。当事者の電子署名と混同しないよう、この方式による場合「電子サイン」と呼ばれることがあります。
主なクラウド契約サービス
電子署名では出来ない契約
しかし、すべての契約が電子化できるわけでは有りません。法律によって「書面」が必須と規定されている契約については、これまで通り契約書を作成し、押印する必要があります。または、電子化するために相手方の承諾や希望が必要なものもありますので、注意が必要です。
現在、eGovとして、行政上の様々な手続きがオンラインでできるようになっています。
会社の申請についても「商業登記電子証明書」を取得することで色々な手続きがオンラインでできるようになり便利になりました。ただし、この「商業登記電子証明書」の最初の取得時には印鑑が必要になっています。
契約を電子化する上での課題
多くの契約書やその他書類は電子署名で足りるようになってきています。しかし、実際に導入するにあたってはやはり課題もあります。
もっとも大きな課題は「相手が了承してくれるかどうか?」です。
私自身もクラウド契約サービスを活用していますが、使うのは「相手が了承してくれそうな場合」に限ります。IT企業の方との取引では比較的話を通しやすいですが、そうでないお取引相手の場合、スムーズな取引を優先させるために紙の書類に押印しているのが現実です。
クラウド契約書サービスを使う利点のひとつは、契約書類をクラウド上で保管・管理できることです。過去の契約の確認や期限切れになっているもの確認などがスムーズになります。その意味で、なるべく一か所にまとめているのが理想です。
新設の会社であれば最初から使えばいいのですが、歴史の長い企業の場合、保有している契約書の数が多く、保管方法についてもルールが決められている場合、そのルールを変更するところから始める必要があります。
さらに、サイバー攻撃やなりすましをどう防ぐか?という問題もあります。もちろん、紙の書類の場合も偽造やなりすまし、盗難はありますので、電子契約に限ったことでは有りません。しかし、多くの企業がしばらくは紙とデジタルの両方で進めるでしょうから、その場合、両方について対策を考える必要があります。
まとめ
以上のように、会社でハンコを押すこと、特に契約書についてまとめてみました。
最初こそちょっと「これでいいの?」という感じもありますが、実際に使っていると、契約書はデジタルで管理しているほうが圧倒的に便利です。
契約書のデジタル化が進行するかどうかは「多くの企業の共通理解」にかかっています。今回のコロナ禍の中で、新たな共通理解・行動様式が出てきている中で、電子契約についても新たな常識になってくれるといいなと思います。
- 本記事中の図はフリー素材を利用し、筆者が作成しています。