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京王線独自の「準特急」が廃止へ 「特急」の停車駅増加はどんなメリットがあるのか?

小林拓矢フリーライター
京王線独自の列車種別「準特急」(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

 京王電鉄には、「準特急」という列車種別がある。ふつうの特急に比べて停車駅が多いものの、特急に追い抜かれることはなく、速達型の列車として多くの人が利用している。

 特急は新宿を出ると笹塚を通過し、明大前に停車、その後調布まで停車しない。主要駅のみに停車し、終点へと向かう。いっぽう、準特急は新宿を発車すると笹塚に停車。都営新宿線・京王新線からの乗客を待ち受ける。その後、明大前、千歳烏山、調布に停車する。また高尾線内では各駅に停車する。

 その「特急」と「準特急」が統合され、特急は現在の準特急の停車駅と同じになり、「特急」を名乗る。

 詳しく見ていこう。

来春ダイヤ改正での特急停車駅。赤枠の駅はダイヤ改正で新たに停車する駅(京王電鉄プレスリリースより)
来春ダイヤ改正での特急停車駅。赤枠の駅はダイヤ改正で新たに停車する駅(京王電鉄プレスリリースより)

特急と準特急にはかつては差がついていた

「準特急」は現在、京王電鉄にしかない列車種別である。以前は小田急や近鉄にもあったものの、いずれも短命に終わった。

 京王では、2001年3月より「準特急」が登場した。当時は新宿から京王八王子に向かう列車、同じく新宿から高尾山口に向かう列車が設定された。特急は現在よりも停車駅が少なく、特急の停車していなかった分倍河原や北野に停車していた。東日本大震災で特急がすべて運転休止となり、一時復活と休止を繰り返したのち、2013年2月のダイヤ改正で特急も分倍河原や北野に停車することになった。また、このダイヤ改正で準特急の高尾山口行きは北野~高尾山口で各駅に停車することになった。

 以前の準特急は、調布より西で特急よりも停車駅が多く、特急を補完する役割を果たしていた。しかしこの改正で、特急とほぼ同等となった。

 準特急に変化が訪れたのは、2015年9月のダイヤ改正である。この改正で、準特急は笹塚・千歳烏山に停車するようになった。笹塚に停車するのは都営新宿線の接続のためで、千歳烏山は利用者が多いからである。

 これまで千歳烏山は、急行以下の列車種別しか停車せず、時間帯によっては10分に2本程度という状況であった。都心へ急ぐ人のために、準特急の千歳烏山停車を増やし、利便性を向上させた。あわせて、区間急行は調布以東では仙川にも停車するようになった。

 この状況で、もはや特急と準特急を分けるものは、高尾線内での主要駅停車と全停車、新宿~調布間の笹塚・千歳烏山停車しかなくなった。しかも高尾線内では、列車の緩急接続をできる場所が、ないのである。いっぽうで、特急が準特急を追い抜くダイヤというのも設定されていない。

 両者の差はほぼなくなった。

2つの列車種別を設ける必要性がない

 そこで、特急と準特急を別々に設定する意味もなくなってしまったというわけだ。笹塚で乗り換える人も多くおり、その人たちは場合によっては笹塚で区間急行や各駅停車に乗り換え、さらに明大前で特急に乗り換えるという二度手間を強いていたという問題もある。千歳烏山の準特急停車も地元の人には好評なのだろう。

 筆者は京王線の都営新宿線方面に乗る際に、笹塚停車中に通過していく特急を見ると、ここで停車しないのはもったいないとさえ思うようになっている。

京王の路線網と列車種別(京王電鉄ホームページより)
京王の路線網と列車種別(京王電鉄ホームページより)

 また、高尾線方面では北野~高尾山口間の列車総本数を減らし、急行以外を各駅停車化することで、列車の総本数を減らすということも考えられる。追い抜きができない区間となっており、それならばこれまでの準特急と同じく特急を各駅に停車してもいいという考えにもなる。

 現在の利用状況だと、笹塚や千歳烏山に停車する・しない列車が複雑に分かれているのは、かえって面倒くさい状況になるだろう。その意味では、今回の統合にメリットを感じる。

 しかし速達性という点では、停車する分だけ遅くなる。

速達性は落としても

 現在、特急は平日昼間で新宿~京王八王子間で42分、新宿~高尾山口間で54分ということが多い。準特急では新宿~京王八王子間は3分ほど余計にかかる。停車するからだ。

 京王は並行する中央快速線と比較して、時間がかかることが多い。中央特快だと新宿~八王子で36分程度となる。もっとも、「京王ライナー」と中央線特急「はちおうじ」の座席指定料金有料列車対決というのも、考える余地はある。

 ただ、鉄道は二拠点間の利用を主に考えるのではなく、途中駅利用者の利便性もまた重視しなくてはならない。京王線ならば、調布や府中などの利用者は重視すべきものであり、京王八王子よりも利用者は多い。新しく特急が停車することになった笹塚や千歳烏山も、京王八王子より利用者は多い。

 コロナ禍を経て乗客の利用ニーズは変化している状況があり、特定の列車だけ速くして注目を集める(しかもその役割は京王ライナーが担うことになった)よりも、全体的に利用者にあわせてダイヤを最適化することのほうが、より求められる状況になり、準特急の廃止と特急の停車駅増ということになったのではないだろうか。

特急にも使用されることの多い7000系
特急にも使用されることの多い7000系写真:kawamura_lucy/イメージマート

 ただ、京王線の笹塚~仙川間の高架化、あわせて緩急接続駅の増加などが近い将来行われるようになる。そのころには、「京王ライナー」用5000系とは別の、加減速性能にすぐれた車両が登場し、全体的な所要時間が短縮されていることが考えられる。現在、京王線では1980年代から90年代にかけて投入された7000系が古参の車両として活躍しているものの、新型で高性能の一般向け車両が投入され、全体的な到達時間短縮に寄与することを期待したい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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