Yahoo!ニュース

<ガンバ大阪・定期便78>自分の全てを注いで勝利のために。それが宇佐美貴史の『向き合う』。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
浦和レッズ戦ではFKでリーグ5得点目を決めた。写真提供/ガンバ大阪

■繰り返し考えて、たどり着いたサポーターと『向き合う』ということ。

 たとえば、アウェイでのルヴァンカップ準々決勝・浦和レッズ戦のように、敗戦した後は誰よりも早くゴール裏のサポーターの前に到着し、仲間を待つ。直近のJ1リーグ28節・浦和戦をはじめとするパナソニックスタジアム吹田でのホームゲームの際には、スタンドに向かって選手、スタッフが整列した後、自身は必ず一歩、前に出て深々と頭をさげる。

 今シーズン、悔しい結果に終わった時ほど、目の当たりにしてきたその姿に、何か理由がある気がして、宇佐美貴史に尋ねたことがある。9月上旬、ルヴァンカップ敗退が決まった直後だ。この時も宇佐美はチームの誰よりも早くガンバサポーターが待つゴール裏に到着していた。

「僕自身、子供の頃はゴール裏でガンバを応援していた側の人間だったことも踏まえて、キャプテンに就任した時から事あるごとに、自分なりに『サポーター』と向き合う、彼らの声援に応えるってどういうことかを考えてきました。その中で1つの結論に達したのは、14節・横浜F・マリノス戦の後でした。あの時期、僕らはなかなか勝てずに苦しんでいた中で、試合後にゴール裏のサポーターの皆さんと少し、対話することになったんです」

 そう切り出すと、頭の中の考えを整理しながら言葉に変えていく。

「その場で、いろんな思いを伝えてもらった中に『ちゃんと俺らと向き合って話をしてくれ』という言葉があって。実はそれにめっちゃ驚きました。ってか、正直、心外でした。なぜなら、僕はずっと彼らと向き合ってきたから。僕にとっての『向き合う』とはプロサッカー選手として、毎日勝つために全力でトレーニングして、いろんな細部まで気を配りながら日々自分のコンディションを整えて、人生を懸けて、家族や仲間を背負って目の前の試合に臨むこと。その姿をピッチでのプレーで示すこと。残念ながら、それが常にいい結果を生むわけじゃないけど、それでも僕らプロサッカー選手が、応援してくれる人たちの思いに応える方法は、その姿でしかない。最近のJリーグでは連敗が続いたらサポーターと話をする、みたいなシーンをよく映像で見ますけど、元を正せば、皆さんが望んでいるのも僕たちの勝つ姿であって、会話ではないと思うんです」

 幼少の頃にはサポーターに混じって声を張り上げた自身の経験を振り返っても、だ。

「僕は基本的に、ガンバのことを応援しようと思ってくれる人たちの気持ちは全部同じ重さとして受け止めています。実際、僕自身もゴール裏で応援したこともあるし、アカデミー時代にはメインスタンドで観戦したこともありますけど、座る場所が違うからといってガンバを応援しようという気持ちはなんら変わらなかった。でも、あのマリノス戦後に話をしたのはゴール裏にいるほんの一部の人たちだけで…。それがガンバを応援する全サポーターの総意なら話は別ですけど、間違いなくそうではなかったのに彼らとだけ対話するのは不公平やな、と。実際、あの日もスタジアムにはたくさんの人が足を運んでくれて、声を張り上げてくれたり手拍子をしてくれたり、それぞれのやり方でいろんな人が応援してくれて…なんなら、あの場にいなくても応援してくれていた人はたくさんいたのに、です。その人たちのことを想像しても、僕らプロサッカー選手にとって、サポーターと『向き合う』ということは、やっぱり日々勝つために準備をしてピッチで、プレーで表現することに他ならない。そう確信しました」

ピッチでのプレーがスタンドの熱狂を生み、スタンドの声援がチームに力を与える。写真提供/ガンバ大阪
ピッチでのプレーがスタンドの熱狂を生み、スタンドの声援がチームに力を与える。写真提供/ガンバ大阪

 その信念は今も揺らいでいない。もちろん、宇佐美の言葉にもあるように『向き合う』先に勝利があるとは限らないが、それでも自分たちは勝つために、勝てないなら勝つまで、戦い続けるしかないと語気を強める。すべてのサポーターの声援に感謝すればこそ、だ。

「いつも、サポーターの皆さんの応援には感謝という表現では足りないくらい、感謝しています。それに対して結果で応えられなかった時には自分への不甲斐なさも悔しさも、責任も感じています。サポーターのブーイングももちろん受け止め、自分に向けています。だからこそ…結果が出なかった試合後は特に、自分が試合に出たかどうかに関係なく、キャプテンとして、一番に自分が引き受けるために、僕はあそこに立っています。負けた時にはこれだけの応援に対して勝利で応えられずに申し訳ないと頭を下げます。それだけですよ」

 ルヴァンカップで、また1つ『タイトル』獲得の可能性を失った時も、彼は力のなさ、物足りなさ、悔しさを受け入れた上で、これが今の自分たちの現実だと前を向いていた。

「天皇杯で敗退し、J1リーグもタイトル争いとはほど遠い順位で戦っている今、ルヴァンに懸ける思いは強かっただけに悔しいです。その場所に、途中出場でしか立てなかった自分にも腹立たしさしかない。ただ、目の前で対峙した浦和に、巧さ以上の強さを感じたというのも正直なところで…。ボールを保持され、コンビネーションで回されたわけではなかったけど、相手の出方に応じて守備と攻撃の割合を変化させながら守備を固める時はバチッと固め、ここぞというところで確実に仕留めてくる浦和は、AFCチャンピオンズリーグで優勝したのも頷ける強さやった。そういう意味では、相手の方が強かった、僕らが弱かったと認めざるを得ない。それがまた悔しい」

 そして、その屈辱があったからこそ、今年4度目の対戦となった9月24日のJ1リーグ28節・浦和戦を前にしても、強い決意を口にしていた。

「今シーズン、同じ浦和に4度目の負けは絶対に許されへん。何がなんでも勝たなあかん。それだけ。前売りの時点でチケットは3万枚以上売れているらしいけど、足を運んでくれる人たちの想いに応えるのは、勝つことでしかない。マジでそれだけ。これはどの試合も同じやけど」

■今シーズン、4度目の浦和戦。イメージ通りの先制点も「チームの勝利に繋がらなかった」。

 その浦和戦。宇佐美は先発のピッチを任される。8月19日のJ1リーグ24節・湘南ベルマーレ戦以来、実に1ヶ月強ぶりの先発出場だ。ここまで、個人的にも悔しい状況が続いていたことを思えば、またチームもその湘南戦以来白星を挙げられていないとなれば当然、期する思いは強かったことだろう。その中で、宇佐美がセットプレーからゴールをこじ開けたのは劣勢で試合が進んだ17分だ。ペナルティエリア左、好位置で得たフリーキックのチャンス。キッカーに立った彼は、早いセット、短い助走から右足を振り抜く。狙い通りの弾道をたどったボールはゴールに吸い込まれた。

「今、芝の生え変わりの時期ということもあってパナスタのピッチコンディションがあまり良くないので、セットプレーはチャンスやと思っていたし、敢えて相手GKの手前でバウンドさせて変化するようなシュートを狙いました。周作くん(西川)はどちらかというとスピードへの対応は得意じゃないということも踏まえてあのキックになった感じです。ただ、それがチームの結果には繋がらなかったので。相手が10人になっていたことを考えても、勿体ないという思いはすごく強いです」

幸先よく先制点を奪ったガンバだったが追加点は奪えず、逆に3失点を奪われ敗戦した。写真提供/ガンバ大阪
幸先よく先制点を奪ったガンバだったが追加点は奪えず、逆に3失点を奪われ敗戦した。写真提供/ガンバ大阪

 その言葉にもある通り、先制点を手にしたガンバだったが、29分に浦和にゴールを許し同点に。1-1で折り返した後半も、相手選手の退場によって数的優位の状況で試合を進めながらそれを活かせず、更に2点を失って敗戦となってしまう。

「ダニ(ポヤトス監督)も試合後、ロッカーで言っていましたけど、攻守両方のペナルティエリアの差だったと思います。僕たちは1点しか取れなかったけど、浦和は数的不利になってからも要所要所で点を取ってきたし、僕たちは失点を重ねてしまったけど、浦和は失点しなかった。結果を見ての通り、サッカーの作りのところとか、ボールを動かすところ以上に、両ゴール前での差はものすごくあったと言わざるを得ない」

 特に数的優位に立った時間帯でのチームとしての攻守における連動、ギアの上げ方についての物足りなさにも言及した。

「浦和は、守備に回った時には全員で徹底して固めるとか、ここぞという時は一気にギアを上げてカウンターを狙いにくるとか、一人退場した瞬間から、ピッチでは意思統一が徹底されていたし、それを最後まで見事にやり抜かれた。一人減っても、やることは変わらないという余裕すら感じましたしね。それに対して僕らはといえば、最後まで攻守にチグハグな状況で試合が進んでいたし、浦和がしっかりブロックを作って、僕らに隙が生まれるのを待っているのは明らかやったのに、自分らでその隙を作ってしまった。あんなふうにゴール前を固めてきた組織を崩すには、ボールを動かしてコンビネーションだけでは無理やからこそ、もっと個がアイデアを持って剥がしていく、力ずくでもこじ開けていくことが必要やったと思っています」

 この敗戦を受け、好調を示した6〜7月の戦いからは一転、ガンバは9月の戦いを勝ちなしで終える。結果、わずかに残っていたACL出場圏内という可能性は消滅し、J1残留もまだ確定できていない状況だ。それを踏まえて残り6試合をどう戦うのか。宇佐美は応援してくれる人たちにいかに『向き合う』のか。

ゴール裏から届く熱い声援はJ屈指。共に戦うサポーターのために勝利を目指す。写真提供/ガンバ大阪
ゴール裏から届く熱い声援はJ屈指。共に戦うサポーターのために勝利を目指す。写真提供/ガンバ大阪

「今、チームで起きている出来事も、チームの中の個人で起きていることも、全て教訓にして次に繋げていくだけだと思っています。この世界に、意味のない負けは絶対にない。だからこそ今日のことを忘れて、ではなく、今日のことを…浦和に今シーズン4回目の敗戦を喫したという悔しさをしっかり自分に刻んで次に繋げていくだけ。勝っても負けても試合ごとに課題や反省はありますし、それは今日の試合も然りやけど、悲観する必要はないというか。応援してくれる人たちのためにも、これをまたチームの力にして、自分の成長に繋げて、次のFC東京戦を今の自分たちの最大値で戦うことを継続していくだけやと思っています」

 もちろん、この日の浦和戦後、スタンドから届けられたブーイングはしっかりと受け止めた。サポーターが何よりも望んでいるのは『向き合う』先にある勝利だということも常に胸に留めている。それは、宇佐美に限らず、他の選手も同じだろう。そして、だからこそ宇佐美も、ガンバも再び前を向き、勝利だけを目指して、次節・FC東京戦への戦いをスタートしている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事