ホテルを襲う!?【2024新しい紙幣問題】
一般ホテルでの対応は限定的?
既に周知されている通り、2024年度上半期(4月~9月頃)に千円(北里柴三郎)、5千円(津田梅子)、1万円(渋沢栄一)の新紙幣が発行されます。こうした紙幣の刷新は、関連需要という点においては確かに景気を刺激する効果はありそうです。
一方、キャッシュレス社会の推進で、クレジットカードばかりだけではなく多様な決済手段も相当普及しており、ホテルでいえば事前決済の割合変化なども含め、宿泊料金の支払い時期や方法について、どのような進化が見られるのか注視したいところです。
ホテルのチェックイン時における現金対応については、フロントでのやりとりならば新紙幣対応について憂慮すべき点は限られ、既に導入されている精算もかねた自動チェックイン機についてどの程度対応するのかということになるのでしょう。
対応に憂慮するホテル業態
ところで、ホテル業態の中で新紙幣について目下喫緊の課題とされている業界があります。「レジャーホテル」業界です。レジャーホテルとは伝統的に“ラブホテル”といわれてきた業態ですが、近年、カップルばかりではなく一般ユースの流入も増えており、レジャーホテルという呼称が普及しています。
高級リゾートホテルを彷彿とさせるような施設など旧来のスタイルとは一線を画すケースが際立っており、そのクローズドなイメージは変化しつつあります。レジャーホテルの定義について詳述は避けますが(本稿では以後4号営業ホテルを前提として話を進めます)、その特色として直接的な人的接客がない点があげられます。
さらにウォークイン(予約せず直接訪れる)が多いゆえ、不足がないように先回り的なサービスの充実も秀でており、一般のホテルや旅館が密かに取り入れているレジャーホテル発祥というサービスも見られます。
さて、新紙幣の導入がなぜレジャーホテル業界に大きな問題となっているのかといえば、“現金で支払うことを求めるゲストが多い”点に尽きます。レジャーホテルにおいては料金の精算は基本的に客室の自動精算機ということになります。
もちろん支払いにはクレジットカードも利用できますし、明細にホテル名は表示されない(法人名など)等の対応はなされていますが、やはり支払いの記録が残ることを忌み嫌うゲストも多々あり、“現金崇拝主義”ともいうべき特有の業態そして支払い方法ということになります。
導入コストに悩む業界
多くのレジャーホテルで導入されている自動精算機ですが、今回の紙幣刷新は2004年以来ということで、現行紙幣に対応する機器導入は広がってきました。その数全国でおよそ3万5000台といわれており、これらが新紙幣対応台数としての規模となります。
一方、レジャーホテル業界の関係者に聞いたところ、1台の価格が約50万円とのことで、コロナ禍はもとより小規模かつ厳しい運営を強いられている施設もあり、おいそれと総取っ替えできる環境にないホテルも相当数あるとのこと。
また、自動精算機について現在特定のメーカー1社の供給が現状となっているところ、供給体制や部材高騰を不安視する声、さらには独占的状態に対して疑問を呈する声も聞かれます。とはいえ待ったなしの状況下において、どのような対策/憂慮すべき点が考えられるでしょうか。
・室数が少ないホテルであればスタッフによる客室集金
→スタッフとやりとりするのを嫌うゲスト
→現金保管などの管理負担
・自動精算機をロビーに設置して台数を絞る
→それでも1万5000台~2万台必要との試算
→ロビー滞留を嫌うゲスト
現在の自動精算機については、市中にある例えば券売機のように紙幣をまとめて入れたりまとめて釣りの紙幣が出てくる構造ではなく、1枚1枚入れて1枚1枚戻されるという時間のかかる動きとなっており、この動きがレジャーホテルのロビーで繰り広げられる光景はうまく想像できません。
いずれにしても一長一短、なにかいいアイディアはないものかと業界関係者は頭を悩ませています。原点に立ち返れば、そもそも現金主義という現状は、業界が伝統的に作り出してきたバイアスや思い込みの呪縛、そして現在進行形のリアルなゲストの思いと乖離しているという姿、これらも可能性としてはありえるかもしれません。
当たり前は非常識!?
レジャーホテルと自動精算機問題、のちに“あれはレジャーホテルが変わる契機だった”といわれるような革新が起こりうるのか…インバウンド活況~コロナ禍で激変するホテル業界といわれますが、レジャーホテル業界はいままさに“料金の支払い方法”で激変の時を迎えているのかもしれません。
そう考えると昔のラブホテルで多く見かけた“エアシューター”というのはスグレモノだったのかも!?
レジャーホテル発祥というサービスを一般のホテルや旅館が密かに取り入れている、と先述しましたが、密かに、というのも宿泊業界は業態(シティホテル、ビジネスホテル、カプセルホテル、旅館など)間の交流が極めて少ない“縦割り”が際立っている点もあげられます。
ゆえに、横軸という観点からの情報発信は極めて限られています。多様な宿泊業態を評論対象とする評論家としてホテルジャーナルという点からも、日頃あまり一般メディアではテーマにならない特有の問題やタブーも引き続きテーマにしていきたいと思います。