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女子デフバレー2連覇へ。長谷山優美、金メダリストでも自己負担30万円の窮状だが行かない選択肢はない!

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
女子バレーボール日本代表合宿で 写真:一般社団法人日本デフバレーボール協会

 5月1日からカシアス・ド・スル(ブラジル)で開催される聴覚障害者のオリンピック・第24回デフリンピックへは77カ国から4200名以上の選手が参加する予定で、日本からは選手95人を含む計149名の選手団が11競技に出場する。29日の第3陣を最後に日本選手団全員がカシアス・ド・スルに向けて2日間の旅に出発した。

 女子バレーボールは、2011年に現役を引退したオリンピアンの川北(狩野)美雪監督のもと2013年ソフィア(ブルガリア)大会で銀メダル、5年前の2017年サムスン(トルコ)大会で金メダルを獲得した。今大会は7カ国を相手にチーム15名(選手10・スタッフ5)で連覇をめざす。

長谷山優美(UT エフサス・クリエ、21歳) 写真・PARAPHOTO/内田和稔
長谷山優美(UT エフサス・クリエ、21歳) 写真・PARAPHOTO/内田和稔

 出発前、女子バレーボール日本代表・21歳の長谷山優美(UT エフサス・クリエ)に試合への意気込みと、苦しい台所事情を聞いた。

 長谷山は前回は16歳で初出場、2大会目となる。現在は社会人4年目で、月1回の代表合宿のほか、所属する会社のバレーサークルや母校のバレー部で練習している。

ーブラジルの試合にむけて5年間を経た気持ち、意気込みをお願いします。

長谷山「トルコ(サムスン)大会後の5年間、コロナ禍で思うような練習ができなかった時期もあります。

 練習の内容も前回は、高校や大学、実業団チームと練習試合をたくさんしましたが、今回はまず試合が組めない、そこは前回と比べて変わったと思います。

そのぶん、元プロ選手の鈴木裕子さんとか、男子の大学生、コーチ、私の会社の部長など高い技術をもつ支援スタッフがきてくれ質の高い練習ができました。

 (コロナ禍の影響は)気持ちの面で下がってしまい、正直バレーから離れたいと思ったときもありました。会社や友人、バレーの友達からの応援で、一年延期でも頑張ってほしいという気持ちを受けとめ、ほかのデフ競技(卓球や陸上など)の仲間も頑張っている様子を知り、自分も頑張らなきゃと思いました。デフリンピックがいつ開催されてもできるようにジムに通ったり、他のろう学校など環境を探し練習してきました。

 合宿が少しずつ再開されたときには必ず参加してチームと顔をあわせると、モチベーションも上がり、いまは自分もチームも良いコンディション、いい状態、雰囲気ができあがっていると思います。

 (ブラジルには)行くだけで2日かかり、費用面も安心できるものではないが、まずは集中して、いい試合をしてメダルを目標にしたいと思います。メダルの色はもちろん金で!」

 スタッフ5人のうちの1人、手話通訳の岡田直樹さん(横浜ラポール聴覚障害者情報提供施設)も2大会目のサポートとなる。

ベンチにはいれるのは、登録された監督、コーチ、トレーナーで、岡田さんは通訳席に座り試合中は後ろのベンチで待機、監督が指示を出すときは前にでて聞こえない選手とのコミュニケーションをサポートをする。

(このインタビューも岡田さんの通訳サポートで実現した)

通訳として帯同する岡田直樹さん(横浜ラポール聴覚障害者情報提供施設)。4月19日、横浜市聴覚障害者協会の壮行会で 写真・PARAPHOTO/内田和稔
通訳として帯同する岡田直樹さん(横浜ラポール聴覚障害者情報提供施設)。4月19日、横浜市聴覚障害者協会の壮行会で 写真・PARAPHOTO/内田和稔

岡田「監督も少し手話を使うので一緒に協力してサポートします。先週、最後の合宿があって、みなさん一人一人練習をしている状況を見て、チームとして固まってきているのを感じます。スタッフもそれに合わせ一緒にやっていこうという気持ちでいます。出発の1週間前でも現地情報などつかめないことがいっぱいありますが、選手が行くと決めてくれた以上、スタッフも一緒に行き、頑張ってきたいと思っています。

 コロナ対策もありますが、前回大会の経験を活かして選手が不安のないように支援していきたい」

 5年の取り組みと、初戦ウクライナ戦にむけて

 前回4位のウクライナとの初戦が5月4日16時半(日本時間 5日4:30ごろ)に予定されている。

ー連覇にむけてどう取り組んできましたか?

長谷山「トルコ(サムスン)のときはメンバーの半分以上は身長が高かった。今回の選手は平均170cmもなく160cmぐらいの小柄な選手が多いので、前回と同じ戦略では勝てない。

 そこでチームはスピードを重視したプレーを課題として取り組んでいます。速攻、早いトス回しを中心にチームが仕上がってきています。リベロ以外セッター含む5人全員が5ヶ所からアタック、スパイクを撃てます。

前回大会の時はバックアタックというのは少なかったと思いますが、今回はバックアタックも織り混ぜ、いろんな方面からの攻撃ができます。

 私たちはパワフルで、スピードがあるチームといえます」

日本代表合宿で 写真提供・一般社団法人日本デフバレーボール協会
日本代表合宿で 写真提供・一般社団法人日本デフバレーボール協会

 チームの雰囲気は、年齢が若く近い分、友達のような関係性だという。思ったことを何でも言い合え、気楽な関係でもある。試合では1つのプレーが決まると全員で喜び盛り上がる明るい雰囲気だそうだ。

ーこの5年とは?

長谷山「コロナで合宿も中止が続いた月があり全員が顔を合わせることがなかった時期もあります。みんな思っていることや、バレーの方向性を確認したくても確認できずに、方向性がずれてしまったこともある。

 それをなくすために合宿で集まって、方向性を修正していったんですが、前回トルコの時と比べると、気持ちを一つにしていくということに時間がかかった印象が今回にむけてあります

ー延期については?

長谷山「わたし個人としては、1年の延期は好機ととらえています。もし1年前の開催だったら、チームも固まっていないなかで大会に臨まなければならず、勝つことに目標が持てなかったと思う。1年のびたことで、どういう攻撃、どういう方向にしていくのか、最後1年でチームづくりができたのです」

ー初戦ウクライナは強豪チームで体格も違うのでは?

長谷山「体格は違うと思います。外国人選手は全般的にみんな背が高いですが、今回きいた情報によると、ウクライナは半分以上サムスンの時とはメンバーかわったときいています。

 日本も同じですけれども、ウクライナも若い選手が入ってきたということで、どういう攻撃を組み立ててくるのか、チームの雰囲気はどうなのか?わからない。初日なので分析もできないので、本番一発勝負です」

 ウクライナは戦争で国からの資金がストップしてしたということだが競技ごとに各国からの支援が集まるなど、国全体で選手258名が出場する。これは開催国ブラジルの325名に続く大選手団となる。

 現地では開幕の5月1日から公式練習が始まり、様子も見えてくるようだ。

ひとり49万円の自己負担、厳しいデフリンピアンの台所事情

 選手の自己負担金については当初15〜20万円とされていたが、出発を前に一人あたり49万円の自己負担がかかると全日本ろうあ連盟から知らされた。前回金メダルの女子バレーボールは競技団体の準備金もありひとり30万円ということだった。

地元横浜市の障害者スポーツセンター横浜ラポールを運営する、横浜市リハビリテーション財団からの奨励金を受け取る長谷山優美 写真・PARAPHOTO/内田和稔
地元横浜市の障害者スポーツセンター横浜ラポールを運営する、横浜市リハビリテーション財団からの奨励金を受け取る長谷山優美 写真・PARAPHOTO/内田和稔

 今回、多くのデフリンピック出場チーム、選手がクラウドファンディングを立ち上げ寄付を募っている。国際大会への資金が選手とスタッフ個人にのしかかっている現状だ。

ー自己負担が増えても出場する気持ちは揺らがなかったんですか?

長谷山「はい、お金のことで行くのをやめるという話は出ませんでした。どうにかして行こうということをみんなで決めていました。

 選手としては、少しでもこの現状や、デフリンピック、デフバレーのことを知ってもらいたいと大会本番にむけてカウントダウンや、選手一人一人の自己紹介動画をアップしたり発信しています」

ー海外との競技環境の違いを感じますか?

長谷山「違いは確かに国によってあります。たとえばロシアでは日本でいう企業、実業団の選手としてバレーボールをやっています。結果を出すとその成績で給料が変わると聞きました。また国からのサポートがプロとして認められるので、同じナショナルチームでも日本とは差があると感じます。

 合宿も日本の場合は月に1回、土・日を使ってやることが限界なのですけれども、海外では2週間くらいは続けて集まるのが当たり前のようです。そういった集まれる頻度が違う場合もあります」

ー東京パラリンピックはデフリンピックの知名度を上げた?

長谷山「あまりそこは感じません。パラリンピックはテレビでも流れましたが、デフリンピックはテレビ放送がありませんし。そういう意味では、われわれが積極的にPRをしていくしかないと考えています」

左から、手話通訳の岡田直樹さんと長谷山優美。横浜からブラジルへ出発する直前インタビューの横浜駅のカフェで 写真・PARAPHOTO/内田和稔
左から、手話通訳の岡田直樹さんと長谷山優美。横浜からブラジルへ出発する直前インタビューの横浜駅のカフェで 写真・PARAPHOTO/内田和稔

岡田「大きな課題は、国際大会の資金が選手とスタッフにのしかかっていることだと思います。資金がなくて、出場をあきらめなくてはいけない選手もいます。

 2025年に東京にデフリンピックを招致したいという動きが主に全日本ろうあ連盟から出ていますが、この現状でうまくいくのだろうか。

(競技団体、全日本ろうあ連盟の運営の)スタッフも費用をもらわず、自分の時間を使って運営をしている部分があるので、その人たちに自己負担が発生しているのはおかしいんじゃないか?と言うのは簡単ですけれど、現実は難しいですよね」

 全日本ろうあ連盟が競技運営を統括する日本の聴覚障害者のスポーツ。国際大会であるデフリンピックへの派遣を踏まえ、資金集めの方法を今のうちから考えないと今後も同じことが起こってしまうと岡田さんはもどかしい想いを口にした。

 岡田さん自身もスタッフとして前回は仕事を休んで参加したが、今回は横浜市リハビリテーション事業団の理解が得られ業務として日本選手団への参加が認められた。今はこのような理解と改善を関係者で少しずつ促していくしかない。

ーありがとうございました。道中気をつけて!

 2025年デフリンピック東京開催への資金をどう集めるかがひとつの課題となっている。しかし自国開催となれば東京オリンピック・パラリンピックの施設を使うとしても、4年間の遠征、合宿が高いレベルで必要となる。完全な情報保障がテーマになるかもしれない。全日本ろうあ連盟を中心に国や地域が日本のスポーツの未来にむけてどう協力体制を作れるかがかぎとなる。

 デフリンピックは国際的に認められた最高峰の聴覚障害者のスポーツであり取り組みはパラリンピックよりも長い。東京パラリンピックで多様な障害のある人々のスポーツが広まった機会にスポーツの夢を広げていけていきたい。

日本代表合宿で 写真提供・一般社団法人日本デフバレーボール協会
日本代表合宿で 写真提供・一般社団法人日本デフバレーボール協会

 カシアス・ド・スルで長谷山らデフリンピック女子バレーボールチームの連覇への挑戦が始まろうとしている。

<女子バレー試合日程>

5月4日 ウクライナ 16:30(日本時間5月5日4:30)~

5月6日 メキシコ 14:00(日本時間5月6日2:00)~

5月8日 ブラジル 16:30(日本時間5月9日4:30)~

5月10日 QUARTERFINALS

5月11日 5-8 places SEMI-FINALS

5月12日 7-8 PLACES 5-6 PLACES

5月13日 3位決定戦 決勝戦

https://www.jfd.or.jp/sc/brazil2021/teamjapan/sr/volleyballf

<参考・YouTube動画>

・2017サムスン・デフリンピックバレーボール日本女子代表 金メダル!

https://www.youtube.com/watch?v=vKU3HPbwGxw

・音のないスポーツの世界 デフバレーボール(東京都立大学健康福祉学部)

https://youtu.be/qlRI4eL4G2E

(編集校正/中村和彦 写真取材/内田和稔 写真協力/一般社団法人日本デフバレーボール協会 ※この記事は4月30日にPARAPHOTOに掲載されたものと同じものです)

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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