"パントマイムの神様"ホロコースト実話に基づく映画「沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~」
マイケル・ジャクソンの「ムーンウォーク」にも影響
"パントマイムの神様"と称されるマルセル・マルソーの体験に基づく映画「沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~」が2021年8月27日(金)からTOHOシネマシャンテなど全国で公開される。原題は「RESISTANCE」。監督で脚本も担当したジョナタン・ヤクボウィッツ氏もポーランド系ユダヤ人。
1938年にナチスドイツに両親を殺害されたユダヤ人孤児ら123人をフランスのストラースブールで迎えたマルセル。マルセル自身もポーランド系ユダヤ人で「戦時中だからこそ子供たちを笑わせたい」という思いで、ナチスドイツの迫害が激化していくなかで、緊張したユダヤ人孤児たちをパントマイムで和ませる。マルセルの実体験に基づいた映画だ。
マルセルは2007年に84歳で亡くなったが、戦後も世界中の有名俳優やダンサー、ミュージシャンに影響を与えていた。マイケル・ジャクソンの「ムーンウォーク」もマルセルのパフォーマンスからヒントを得たことも有名。日本版の予告編動画も公開された。
▼「沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~」予告編動画
毎年制作されるホロコースト映画
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。ホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。
ホロコースト映画は史実を基にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を基に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を基に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。実話を基にしている『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』もこちらだ。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
ホロコースト教育でも人気高い実在人物の感動ストーリー
戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れてる人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。
史実を基にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴することも多い。現在でも欧米では反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人は差別されやすい。また黒人やヒスパニック、新型コロナウィルス以降はアジア人も差別や迫害の対象にされやすい。そのためホロコースト教育ではユダヤ人が差別されて迫害された当時の歴史を伝えることによって、現在の民族憎悪やヘイトスピーチをやめさせることも狙いの1つにある。
そして実在人物の実話に元づいた感動するような映画はホロコースト教育でもよく視聴される。『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』のような人の心に訴えてきて、インパクトに残りやすいヒューマンドラマや感動する内容の映画は特にホロコースト教育でも扱われやすい。視聴した後に学生らも感想文やレポートを書きやすいし、ディスカッションも盛り上がる。また学生らの記憶にも残りやすく、ホロコースト教育の効果も高いのだろう。
現在の世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。
▼原題「RESISTANCE」オフィシャルトレイラー