台風の停電で消えてしまう「信号機」 ドライバーはどう走ればよいのか?
巨大な台風10号が近づき、これまでに経験したことがない強風が吹き荒れると報じられています。
自然の脅威には太刀打ちできませんが、それに付随する二次的な被害については事前に想定し、心の準備をしておくことが大切です。
特に「停電で信号機が消えてしまう」という事態は、ドライバーや歩行者にとって大変恐ろしいことで、大事故につながりかねません。
■信号は裏返り、電柱は倒壊…、昨年の台風で筆者が目の当たりにした光景
千葉県在住の私は、昨年9月9日、房総半島を襲った台風15号をリアルに体験しました。
あのときの台風は、関東地方に上陸したものとしては観測史上最大の勢力だったそうで、正式には『令和元年房総半島台風』と名付けられています。
巨大な2本の送電塔が、飴細工のようにぐにゃりと折れ曲がっているあの映像を見たときには本当に驚きましたが、千葉県内ではこのほか、84本の電柱が完全に倒壊し、約2000本の電柱が何らかの損傷を受けたのことです。
当然のことながら電気の供給はストップ。千葉県内では最大93万4900戸が停電し、周辺の信号機もかなり長い間、消えたままでした。
「信号が消えてしまっても、警察官がちゃんと交通整理をしてくれるから大丈夫でしょ?」
なんて思っていたら大間違いです。
昨年の台風の後、郊外に住む私は、信号が消えた交差点で警察官の姿を見かけたことは一度もありませんでした。
あまりに大きな災害だったので手が回らない状況だったのだとは思いますが、注意を呼び掛ける看板もありませんでした。
そのため、片側2車線以上の交差点を通過するときは本当に緊張しました。実際に、出合い頭の衝突事故が起こった直後にすぐそばを通りかかったこともありました。
今回の台風10号でも、同様の停電被害が広範囲にわたって出る可能性が予測されています。
『台風10号で九州は停電リスク高まる 速やかに備えを 停電リスク予測マップ5日発表』(9/5 17:29配信/ウェザーニュース)
そこで、昨年の台風15号で、千葉県はいったいどれだけの信号が被害を受けたのか、改めて調べてみました。
■あの日、千葉県内の信号機は1634基が停電で消えた
千葉県内には約8400基の信号機が設置されています。昨年、台風15号による停電の影響で消えたのは、そのうち1634基でした(警察庁調べ)。
最近は、停電時でも信号に電力を送る「信号機電源付加装置」が常設されている信号機もあるのですが、停電した地域には190基しかなかったそうです。
しかし、たとえ信号の灯りがついていたとしても、かえって危険なケースがありました。
というのも、信号機の柱そのものが大きくゆがんで、全く関係のない方向を向いていたり、赤・青・黄色のライトの部分が完全にひっくり返って裏表になっているような信号が多数あったからです。
むしろ、夜は停電で信号が消えていることがはっきりわかるので安全です。
日中は近づかなければよくわからないため、気をつけて走っているものの、一瞬、どの信号機を見るべきなのかが判断できず、何度も怖い思いをしました。
交差点では多くのドライバーが戸惑い、中にはどう進めばいいのかわからず、立ち往生している姿も多く見受けられました。
警察は当然、交通量の多い市街地の交差点から復旧作業を進めていくため、郊外や山の中の信号機はどうしても作業が後回しになってしまいます。
『朝日新聞』(2020.1.3)によると、千葉県内で発生した人身事故は4日間で11件。
消えた信号機が完全復旧するまでに、約2週間かかったとのことです。
また、信号機を稼働させるために設置された発電機が盗まれる被害が発生するといった報道も相次ぎ、現場は混乱していました。
ちなみに、2018年9月に北海道で起こった胆振東部地震では「ブラックアウト」とよばれる大停電が発生し、道内で約1万2800基の信号機が消えました。
また、同年、近畿地方を襲った台風21号では、大阪府内で信号機約5000基が曲がるなどの被害を受け、そのうち約730基の信号が消えたそうです。
恐ろしいですね。
■台風で消えた信号、交通整理のない交差点はどちらが優先?
では、信号による交通整理が不能になった交差点で、クルマはどちらの進行が優先されるのか、どのように走るべきなのか、皆さんはご存じでしょうか?
今さらかもしれませんが、台風が来る前に道路交通法をおさらいしておきたいと思います。
キーワードは「左方優先」、つまり、交差点では基本的に左側から来るクルマが優先なので、もし、信号が消えている交差点でお見合い状態になったら必ず停止して左右を確認し、互いにアイコンタクトをしながら、左側の車を妨害せず、先に行かせましょう。
このルールを徹底し、譲り合いの精神で慎重に進めば、事故を起こすことはないはずです。
しかし、例外もあります。それは道路標識などによって「優先道路」が明確にされている道や、道路の幅が明らかに違う場合です。
相手が優先道路、また幅の広い道路を走っているときは、左方であるかどうかに関係なく、相手のクルマを妨害してはいけません。
文末に「道路交通法第36条」を掲載しましたので、免許証を持っている人は再確認してください。
また、災害直後はいつもより緊急車両の通行も多くなります。
サイレンの音が聞こえたらすぐに止まることを心がけましょう。
■横断歩道はどんな時でも歩行者優先
信号が消えているとき、最も注意しなければならないのは何といっても横断歩道でしょう。
停電のときは歩行者用信号も消えてしまいます。
横断歩道を渡ろうとする歩行者は、タイミングを掴めずなかなか渡ることができません。
特に子どもたちは、いつものように歩行者用の押しボタンを押しているのになぜ信号が青に変わらないのか、理解ができないでしょう。
保護者の方は台風の後、子供を外へ出す前に、いつもの通学路や自宅周辺の道路に消えたままの信号機がないかどうか、必ずチェックしてください。
もし、子供をひとり歩きさせなければならない場合は、信号機が復旧するまで細心の注意を払ってください。
そして、ドライバーの方々は、信号が消えているときはもちろんですが、普段から横断歩道の前では十分に速度を落とし、もし歩行者が待っていたら必ず停止するよう心がけましょう。
台風一過の空は青く澄み渡り、空だけを見ていると災害はすっかり過ぎ去ったかのように見えがちです。
しかし、実際には、街のいたるところに「消えた信号」という危険な状態が継続することを忘れないでください。
<参考条文>
道路交通法第36条(交差点における他の車両等との関係等)
車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。
一 車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車
二 路面電車である場合 交差道路を左方から進行してくる路面電車
2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
3 車両等(優先道路を通行している車両等を除く。)は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、徐行しなければならない。
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。