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「IT/イット〜」で四男もブレイク。スカルスガルド親子がますます凄い

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アレキサンダー(左)とビル・スカルスガルド兄弟(写真:ロイター/アフロ)

 2017年の9月を、スカルスガルド一家は決して忘れないだろう。たった2週間ほどの間に、このスウェーデンの家族には、うれしいことが立て続けに起こったのだ。

 まずは父ステラン(66)の出演作「Borg vs. McEnroe」が、トロント映画祭のオープニングを飾る。1980年の、ビョルン・ボルグとジョン・マッケンローのウィンブルドン決戦を描く伝記映画で、ステランの役は、ボルグのコーチを務めたレナート・ベルゲリン 。「あの日、スウェーデンでは学校も休みになって、みんなが試合に釘付けになったものだよ」と振り返る彼は、この映画でボルグの息子とも共演している。

 トロントでの取材で、四男ビルが出る「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」をもう見ましたかと聞かれると、彼は「いや、まだだ。まだ公開されていないよね」と答えていた。この映画が北米公開されたのは、その翌日。デビューするやいなや大ヒットした今作は、ついにはホラー映画として史上最高の興行成績を打ち立て、さらには「Saturday Night Live」のパロディや、ハロウィーン時期のバーガーキングのCMのネタに使われるなど、社会現象にもなる。

 そして、その9日後には、41歳の長男アレキサンダーが、HBOのミニシリーズ「Big Little Lies」で、キャリア初のエミー賞を受賞したのだ。授賞式には、アレキサンダーの母で、ステランの最初の妻が同席している。親子揃っての成功を、スウェーデンの人々も誇らしく思っていたのではないだろうか。

強烈な役が似合う、イケメン親子

 この親子は全員、身長192センチ前後で、脚が長く、八頭身。ぎょろっとした目が強烈な印象を与えることもあってか、イケメンでありながら、ロマンチックコメディよりも、暗く、シリアスな役を得意とする(もっとも、『マンマ・ミーア!』の明るいステランも、とてもチャーミングである)。ステランはラース・フォン・トリアー映画の常連だし、アレキサンダーがブレイクのチャンスを得たのはヴァンパイアのドラマ「トゥルーブラッド」。エミー受賞につながった「Big Little Lies」の役はDV男で、ビルが「IT/イット〜」で演じたのは、怖いピエロのペニーワイズだ。

 何度にもわたるオーディションを経て、大勢の俳優の中からビルを選んだ「IT/イット〜」のアンディ・ムスキエティ監督は、「彼は、見る角度によって子供っぽく見えたり、狂気にかわってみせたりする。予測不可能な何かがあるんだ」と語っている。スクリーンから受ける印象と違って、本人たちはとても穏やかで謙虚な人たちでもある。その不思議なバランスが、独特の魅力を放っていると言える。

ビルが演じるペニーワイズは強烈な印象を残す。写真/Warner Brothers
ビルが演じるペニーワイズは強烈な印象を残す。写真/Warner Brothers

 役のために完全な努力を惜しまないのも、血筋だ。ビルは、「IT/イット〜」の撮影前、英語版で1,200ページあるスティーブン・キングの原作を隅々まで読み、ペニーワイズが出てくるページすべてに付箋をつけて、それぞれの記述を細かく分析した。慣れない特殊メイクを施した時にどう顔が動くのか、どう見せるのが怖いのかを、鏡の前で時間をかけて研究したともいう。

 アレキサンダーは、「ターザン: REBORN」のために、厳格なダイエットを数ヶ月にわたって行った。食事は毎回、栄養士が考えたものが配達されるため、休日に出かけても外食はできず、相当に辛かったようだ。「いや、外食をしてはいけないと言われていたわけじゃないんだけどね。ズルすることも、可能だったんだ。でも僕は、この役を完璧に演じたかった。この役のせいで、しばらく家族や友達とのつきあいを犠牲にすることになったけれど、後悔したことは一度もなかったよ」と、当時の取材で、彼は述べている。

家族は良い人たちばかり。それが一番の誇り

「ターザン〜」の撮影が終わると、アレキサンダーは、たまたま同じロンドンで別の作品を撮影していた父のもとに飛んでいき、父のお手製料理を堪能した。「父は最高のシェフなんだ。その週末は、モッツァレラチーズのフライやミートソースのスパゲティなどを作ってくれたよ。スパゲティなんて、本当に長いこと食べられなかったから、夢のようだった」(アレキサンダー)。ステランとアレキサンダーは、トリアーの「メランコリア」で共演もしている。このハリウッド超大作でアレキサンダーが主役を勝ち取った時、一番喜んだのも、ステランだったそうだ。そもそもターザンは、アレキサンダーが幼い頃に父といつもビデオで見ていた、思い出のキャラクターなのである。

 最初の妻との間に生まれた子供は6人、二番目の妻との間に生まれた子はふたり。合計8人のうち、俳優になったのは4人だ。彼らに対して演技やキャリアのアドバイスは「まったくしない」と、ステランは断言。自分自身のキャリアに関しても、執着しすぎないようにしてきた。「成功は、幸せを約束しない。良い人生を与えてくれるのは、良い家族、良い友人、おいしい食べ物、ビール、そういうものだ。僕が誇りに思うのは、キャリアではなく、8人の子供たち。彼らはみんな、良い人になった。演技は楽しいけれど、僕の人生そのものじゃないよ」(ステラン)。

 彼の子供たちは、父から十分アドバイスを受けているのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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