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メルギブの息子、ジョニデの娘。続々デビューする、新世代の二世俳優たち

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
父が監督する「ハクソー・リッジ」でデビューしたミロ・ギブソン(左)(写真:Shutterstock/アフロ)

マイケル・ダグラス。ジョシュ・ブローリン。アンジェリーナ・ジョリー。ケイト・ハドソン。

ハリウッドには、昔から、二世俳優が多数存在する。親の血を受け継いで、容姿と演技力に恵まれたせいもあるだろう。幼い頃から撮影現場に連れて行かれ、素敵な衣装を着るママや、みんなの尊敬を集めるパパの様子を目の当たりにして育つと、自分も、と思うようになるのかもしれない。「E.T.」のドリュー・バリモアのように、監督とは 生まれた時から家族ぐるみのつきあいだったなどという、強力なコネの恩恵を受けられることもあったりする。

昨年末には、ミラ・ジョヴォヴィッチの長女エヴァーちゃんが、ママが主演、パパが監督する「バイオハザード:ザ・ファイナル」で映画デビューしたばかりだが、最近は、ほかにも次世代の二世俳優たちがスクリーンにお目見えし始めている。たとえば、今月日本公開されるメル・ギブソン監督作「ハクソー・リッジ」でデビューしたミロ・ギブソン(27)もそうだ。

ミロは、メルと前妻ロビンとの間に生まれた7人の子供の5番目。親と同じ仕事はやらないべきなのだろうと 、学校を出た後は、マッサージ師や電気技師の職に就いたが、ついに自分の気持ちに正直になろうと決めたのだという。今年はほかに「The Tribes of Palos Verdes」と「Breaking & Exiting」が北米公開される予定で、後者では主役を務めている。

やはり今月日本公開される「フィフティ・シェイズ・ダーカー」の主演女優ダコタ・ジョンソン(27)は、メラニー・グリフィスとドン・ジョンソンの娘だ。映画デビューは、母が主演、義理の父(グリフィスの再婚相手)アントニオ・バンデラスが監督する「Crazy in Alabama」(1999)だった。その後、小さな役でいくつかの映画に出たが、大ブレイクを与えたのは、ベストセラー官能小説三部作を映画化する「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(2015)である。このシリーズは来年2月北米公開予定の3作目まで続き、さらに今年はリメイク版「サスペリア」も北米公開される予定なので、彼女の姿をスクリーンで見かけることは、しばらく続きそうだ。

ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘リリー=ローズ・デップ(18)も、昨年、「Yoga Hosers」「ザ・ダンサー 」「Planetarium」の3本に出演した。このうち「ザ・ダンサー」は、今週末、日本公開される。一方で、日本の観客の間でもすでにおなじみになりつつあるのが、クリント・イーストウッドの息子スコット(31)。彼は現在公開中の「ワイルド・スピード ICE BREAK」や、年明けに公開された「スノーデン」、昨年の「スーサイド・スクワッド」などに出演している。デビュー作は、父が監督する「父親たちの星条旗」(2006)だった。

一時期マイリー・サイラスと噂になるなどして、先にゴシップのほうで知名度を上げたアーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック(23)も、来年1月北米公開の「Midnight Sun」で、ついに映画の主役を務める。 小泉徳宏監督の「タイヨウのうた」のアメリカ版リメイクとあって、日本でも話題を集めそうだ。またユアン・マグレガーの娘クララは、今年、低予算映画「Groove」で、ショーン・ペンとロビン・ライトの娘ディランは、2015年にホラー映画「Condemned」で映画デビューを果たしている。

成功した親を持つことのプレッシャーというお荷物も

俳優を目指す普通の人は、映画俳優組合(SAG)に入れてもらうだけでも苦労をするというのに、彼らにとって、その組合員カードは、生まれた時に手渡されたようなものだ。だが、その分、普通の人とは違う悩みもあったりする。ケイト・ハドソンは、「あの頃、ペニー・レインと」(2000)でスターの仲間入りをする前の時期を振り返り、「あの人の娘か、という偏見を持って見られる。オーディションでは、ほかの人の倍以上、上手くないと認めてもらえなかった」と語っている。

インタビューのたびに親の名前を出してこられるのも、おもしろくない部分だろう。自分も成功を収めた後には、その手の質問も余裕を持って受けられるようになるようだが、駆け出しの若い頃は「 僕は僕だ」と言いたくなるのも、理解できなくはない。

トム・ハンクスの息子コリン(39)は、20代後半のインタビューで、 一生、父のことを聞かれることになるのだろうと早くからわかっていたと語った。さらに、「(トム・ハンクスを父に持ったのが)良かったのか、悪かったのかは、わからない。良くも悪くも注目されることになったのはたしかだし、死んだ時には訃報に『トム・ハンクスの息子』と書かれるんだろう。大事なのは、僕がこの仕事を本当に好きで、この仕事で生計を立てていけることだ」と続けている。

先に挙げた二世俳優の多くと同じで、彼も、父の映画(『すべてをあなたに』)で映画デビューしている。父がプロデュースするテレビのミニシリーズ「バンド・オブ・ブラザース」にも出演し、「The Great Buck Howard(日本未公開)」は、自分から父に話を持ちかけ、父子で出演して、父にはプロデューサーも兼任してもらった。取材で父のことを聞かれるのは、税金みたいなものだ。

そんな中、ちょっと違っているのが、ブライス・ダラス・ハワードである。

彼女の父は、俳優として有名になった後に監督に転向し、オスカーも取ったロン・ハワード。ブライスは子供の頃から学校の劇などに出てきたが、「自分の力でやりなさい」が父の主義で、自分の映画にエキストラで出ることまでは許すが 、デビューする手助けはしなかった。大学の学費も一部しか出さず、残りは本人に奨学金を借りさせている。大学で演技を学んだブライスは、その後、舞台で修行を積み、ブロードウェイの劇に出ているところがM・ナイト・シャマランの目に止まって、「ヴィレッジ」(2004)の出演につながった。

娘が自分で成功をつかんでみせたことは父にとって誇りのようで、ブライスのことを聞かれると、「彼女は全部自分でやったんだよ」と、ただでさえ優しい顔を、さらにほころばせる。ところで、大学時代に出会って結婚したブライスの夫も、やはり俳優だ。ふたりの間には息子と娘がおり、この子たちが将来、演技をやりたいと言い始めても、不思議はないと思われる。その時、ブライスは、わが子にどちらの道を指差すのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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