不正発覚で処刑も…北朝鮮、携帯電話の盗聴に巨額予算
北朝鮮の金正恩党委員長が最も忌み嫌っていることの一つが「情報の国外流出、国内流入」だ。
情報の流れを自分の都合のいいように制御し、自国民を「無知」な状態にしておきたいのだろう。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
それがうまく行かなかった例としては、金正恩氏の実母・高ヨンヒ氏の偶像化がある。日本から「高ヨンヒが大阪生まれ」という北朝鮮にとっては誠に都合が悪い情報が北朝鮮国内に流入し、拡散したからだった。
(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈)
最近、金正恩氏が神経をとがらせているのは、中朝国境地帯における中国キャリアの携帯電話による通話だ。北朝鮮当局はその統制のために莫大な予算を投じている。
北朝鮮事情に精通したデイリーNK内部情報筋は、国家保衛省(秘密警察)関係者の話として、北朝鮮当局は今年5月、中国から携帯電話用盗聴器と電波妨害機を購入したが、それに1500万元(約2億5400万円)を費やしたと伝えた。
輸入した機器は、中国との国境に面した両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)に順次設置され、今頃稼働を始めているはずだと情報筋は述べた。
中国から様々な品物を密輸している業者や、脱北して韓国に住む家族と連絡を取る脱北者家族、その送金を手助けする送金ブローカーなどは、装備の増強に頭を抱えている。
両江道のデイリーNK内部情報筋によると、現地に導入された新型電波盗聴器は4キロ四方の携帯通話がキャッチできるほど高性能だ。ある貿易業者は、知り合いの保衛員(秘密警察)から盗聴した通話内容を示された上で「おとなしくしておいたほうがいい」と忠告されたという。
従来の電波探知機は、中国の携帯電話基地局の周辺で通話者の位置を特定する仕組みだった。新型の電波盗聴器は位置のみならず、通話内容まで把握できるもので、携帯電話を使用する人にとってリスクが高まる。
また、当局の許可を得て中国キャリアの携帯電話を使っている外貨稼ぎ事業所の関係者にとっても、耳の痛い話だ。今までは利益の一部やキックバックを自分の懐に収めていたが、盗聴されるとあっては、思う存分できなくなるのだ。一方で「単にビビらせたいだけ」だとして、注意さえしておけば問題にはならないと見ている貿易業者もいる。
音声通話は危ないとして、セキュリティが強化されたメッセンジャーアプリを使っている人もいる。情報筋は具体名に言及しなかったが、日本でメジャーなLINEや韓国でメジャーなカカオトークではなく、セキュリティ面で評判が高いSignalやTelegramなどを使っているものと思われる。
(参考記事:LINEやカカオが「抜け穴」に…北朝鮮の情報統制に欠陥)
「今年は前とは異なり、外国との接触が増えている。南北関係の雰囲気もよくなりつつあり、住民の中にはさらに雰囲気が変わることを期待する声も聞かれる。こういうときに司法機関がやるのは外部からの情報を取り締まり、『不純分子』扱いしている住民に対する監視を強化すること」(情報筋)
また、次のような背景もあると分析した。
「年末年始はいろいろと物入りなので、取り締まりが多い。新年の行事のために違法行為を取り締まり、資金を稼ごうという意図がある」
一方、これらの機器導入に絡み不正行為が発覚した保衛省関係者が処刑されたとの情報もある。情報筋は「安物の機械を買って差額を着服したことがバレた関係者数名が処刑され、他の担当者が高性能な機械を買い直した」と述べた。
莫大な予算に目がくらみ一部を着服したが、新規導入した機器の性能が悪かったことから上部の検閲(監察)が入り、摘発、処刑に繋がったとのことだ。
統制のやりすぎが国際問題になることもある。
2015年には対岸の中国吉林省長白朝鮮族自治県で、北朝鮮当局が発する携帯電話への妨害電波のせいで携帯電話の使用ができなくなり、県当局が両江道当局に抗議し、妨害電波を中断することを要求する事態に発展している。