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未来のオフィスはこう変わる!働きやすさを科学する最新トレンドをデンマークで考えた

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
揺れる床で自然音を聞きながら、イベント会場の音や光を遮断する 筆者撮影

北欧諸国では毎年スタートアップの祭典が開催されているが、デンマークのTechBBQは中でも特別だ。

「数字と競争を意識せざるを得ない、働き過ぎなスタートアップ」という特殊な業界の課題解決に必死に取り組んでいる。

働き方、Z世代との共同作業、メンタルヘルスなどについて悩みがあるのなら、TechBBQで解決の糸口が見つかるかもしれない 筆者撮影
働き方、Z世代との共同作業、メンタルヘルスなどについて悩みがあるのなら、TechBBQで解決の糸口が見つかるかもしれない 筆者撮影

ウェルビーイング、公平性、働き方、多様性などのテーマに溢れた会場には、「働き過ぎで、どこか疲れている」状態を「なんとかしたい」と思う人たちが集まっている。解決策がすぐに見つからなくても、同じ悩みを抱える仲間には出会うことができるかもしれない。

TechBBQ発:これからの職場とイベント空間

  1. 起業家やリーダーが直面する孤独、適切な休息やリラクゼーションの時間を確保せよ
  2. 多様性に溢れたプログラムを提供しないテック系イベントは、ボイコットせよ
  3. これからはニューロダイバーシティに配慮した職場作りを

「壊れるまで」休まない私たち

あるセッションでは、ウェルビーイングを優先すれば、持続可能なベンチャー企業に成長すると話し合われていた。

多くのリーダーは、大規模なチームを管理しているにもかかわらず、大きな孤独に直面しており、それが孤独感につながり、精神的な健康に影響を与える可能性がある。崩れていくメンタルヘルスの放置は経済的損失だ。

「休息は抵抗である」

そう話したのは、米国のメンタルヘルスケア専門Headspace社で働くウィズダム・パウエル博士だ。

パウエル博士は、Headspace社の社会的影響、ESG報告、多様性、公平性、インクルージョン、帰属への取り組みを監督するチーフ・ハピネス・オフィサー(CHO)だ 筆者撮影
パウエル博士は、Headspace社の社会的影響、ESG報告、多様性、公平性、インクルージョン、帰属への取り組みを監督するチーフ・ハピネス・オフィサー(CHO)だ 筆者撮影

「大人になると、私たちは遊びが人生の重要な一部であることを忘れてしまいます。その部分を育むことで、本来の脳の役割が果たされるのに。あなたが元気でいなければ、創造性は生まれません」

忙しくしがちな現代こそ、「休む」ことが必要であり、休むためにはマインドフルネスのアプリなどの科学技術やAIも役立つと訴えた。

登壇者の顔ぶれが多様性に溢れていないイベントはボイコットせよ

テクノロジー業界は男性中心になりがちだが、TechBBQは多様性に溢れたイベントであることに徹底している。2024年は、登壇者の51%が女性とノンバイナリーだった。

筆者撮影
筆者撮影

インクルージョンをテーマとしたステージでは、女性でさえも「創業者=男性」と思い込み、イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグを思い浮かべる現状が嘆かれた。

バイアスを軽減するためには、「多様性を代表する創業者の認知度を上げる」必要があり、そのような創業者を招かないテック・カンファレンスは「ボイコットすべきだ」と強い言葉で提案された。

ニューロダイバーシティに配慮した空間設計を

「誰もが安心できる空間」はジェンダーにこだわるだけでは達成されない。

TechBBQの記者会見では、脳や神経に由来する、個人レベルでのさまざまな多様性を意味する「ニューロダイバーシティ」に配慮した職場やイベント空間の必要性が訴えられた。

筆者撮影
筆者撮影

デザイン・建築・エンジニアリングの企業HOK、西スコットランド大学、科学・イノベーションクラスターの欧州ネットワークARCは、こう発表した。

欧州と英国の241人の研究室従業員の調査対象者の50%近くが自分自身を「ニューロダイバージェント」と考え、年齢層によって感覚反応に大きな違いがあるという。

つまりこれは、「研究室の従業員が一般集団よりもはるかに神経多様性に富んでいる」ことを示唆する。

報告書は研究室に焦点を当てているが、どのような職場でも同じように空間の見直しは必要だろうと筆者は感じた。ADHDなどの診断名がくだされていなくても、音や光など、様々な刺激に敏感な人たちがいる。インクルーシブ・デザインを柱として職場やイベント空間を作り直せば、社員はより生産的に働き、創造性は高まるだろう。

提案されたニューロインクルーシブな未来の職場

  • 自然採光へのアクセス
  • 専用スペースの選択肢
  • 調節可能な人間工学に基づいた家具
  • 働く場所を選べる選択肢
  • 人通りの少ない作業場所
  • 動き回ったり、そわそわしたりできるスペース
  • 静かな部屋
  • 騒音や視覚的な気晴らしを遮り、軽減するスクリーン
  • 照明レベルを調整できる空間
  • 自然の要素を取り入れた空間
  • 隠れられる場所がある空間
  • 情報共有のためのディスプレイウォール
  • アクセスしやすい収納

北欧の大規模なイベントでは、このように閉じこもったり、休んだりする空間が用意されている。筆者も取材中にこのような場所はよく利用して休憩を心掛けている 筆者撮影
北欧の大規模なイベントでは、このように閉じこもったり、休んだりする空間が用意されている。筆者も取材中にこのような場所はよく利用して休憩を心掛けている 筆者撮影

登壇者の顔ぶれや空間に居心地の悪さや違和感を感じるとき、現場にフィードバックをするのは勇気もエネルギーも必要だ。誰にだってできることではない。「面倒な人だ」と思われたくなくて、課題を感じていても声に出さないかもしれない。

違和感を感じた参加者や当事者が常に声をあげずとも、最初からできるだけ多くの人にとって時間を過ごしやすい空間づくりは、これらの職場やイベント会場でより必要とされるだろう。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在16年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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