アース製薬を訴えた金鳥の特許権について
「蚊防除スプレーの特許侵害 大日本除虫菊、アース提訴」というニュースがありました。
とのことです。いずれも一般消費者になじみの深い企業かつ商品ですので気になっている方も多いかと思います。問題の特許番号ですが、調べるまでもなく、大日本除虫菊(以下、「金鳥」)のリリースに明記されていました。第7026270号です。発明の名称は「蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法」、出願日2015年2月24日の原出願の分割出願であり、2022年2月16日に登録されています。
発明のポイントは、殺虫成分を噴霧したときに、空中に残存する粒子と壁や床に付着する粒子の両方を生じさせることにあります。タイトル画像の図を見るとわかりやすいです。
図(a)が従来の考え方による噴霧方式の一つであり、殺虫成分の粒子(M)ができるだけ空中に長く留まるように工夫されています。しかし、これでは、風で殺虫成分が散逸してしまいますし、人間やペットへの影響も懸念されます。
これに対して、この発明では、図(b)に示すように壁床に付着する粒子(X)と空中に留まる粒子(Y)をバランス良く噴霧できることがポイントです。これにより、風の影響および人間やペットへの影響を軽減できます。さらに、上記記事にも書かれているように、蚊は飛んでいる時間よりも、壁に留まって吸血の機会をうかがっている時間が長いという実験結果があるので、その点でも効果的です。
権利範囲ですが、請求項1の内容は以下のとおりです。
上記の基本的なアイデア(空中浮遊粒子と床壁付着粒子を両方噴霧する)だけでは新規性・進歩性の主張が困難なので、具体的な数値で限定した数値限定発明となっています。なお、原出願の段階からこのような構成です。数値範囲や成分のバリエーションで様々な分割出願を権利化しています。
この特許には、一度異議申立が請求されていますが、無事クリアーしているので、新規性・進歩性については問題がない可能性が高まりました。なお異議申立人は個人の方ですが、異議申立は誰でもできるので競合他社(もちろん、アース製薬かもしれません)のダミーの可能性が高いです。
あとは、アース製薬の製品がこの特許の技術的範囲に属するかですが、数値限定発明なので、非専門家がぱっと見て判断できる話ではなく、実際の製品を使った実験調査が必要になります。ただ、金鳥が実際に訴訟を提起し、かつ、プレスリリースも出したということは、しかるべき実験調査結果に基づいて特許権侵害と判断したと考えてよいでしょう。