レッドソックスが澤村拓一の獲得を決めた5つのポイント
2月16日(日本時間17日)に、ボストン・レッドソックスが澤村拓一の正式入団を発表した。
昨季は巨人からロッテに移籍した途端にかつての輝きを取り戻し、ロッテのプレイオフ出場に貢献。環境を変えたことで復活した澤村は、今度は海を渡って新たな舞台でさらなる飛躍を目指す。
レッドソックスが32歳の澤村を獲得したのは、次の5つのポイントが理由だ。
1. 岡島、斎藤、田澤、上原による過去の日本人リリーフ投手の成功
これまでレッドソックスに在籍した日本人選手は、大家友和(1999~2001年)、野茂英雄(2001年)、松坂大輔(2007~12年)、岡島秀樹(2007~11年)、斎藤隆(2009年)、田澤純一(2009~16年)、上原浩治(2013~16年)の7選手で、全員が投手である。
2000年に入ってから、レッドソックスは2004、07、13、18年と4度もワールドシリーズを制覇しているが、07年の優勝は松坂と岡島、そして13年は田澤と上原が大きく貢献している。
この6投手の中でNPBからレッドソックスへ直接入団したのは、2006年オフに移籍した松坂と岡島の2投手だ。
メジャー移籍1年目からリリーフとして働いたのは、岡島、斎藤、田澤の3投手で、上原はメジャー1年目の2009年は登板全12試合が先発で、リリーフ転向は翌10年からだった。
レッドソックスでリリーフを務めた岡島、斎藤、田澤、上原の4投手は、全員が期待以上の活躍を見せて、球団内とファンの間では日本人リリーフ投手に対する印象はとても良い。
斎藤、岡島、そして澤村のメジャー移籍前年とメジャー1年目の成績を比較したのが下の表。
斎藤は2005年に21登板中先発が16試合と、この年は主に先発として起用されていて、ドジャースとはマイナー契約を結んでいる。
昨季の澤村は巨人とロッテの成績の違いが大き過ぎたので、2チーム合計の成績ではなく、ロッテでの成績だけを記した。
NBCスポーツ・ボストンは、澤村の獲得を2007年の岡島と重ね合わせている。松坂という大物獲得の陰に隠れていた岡島だが、メジャー1年目からオールスター戦に選ばれるほどの活躍を見せ、ワールドシリーズ制覇の貴重なピースとなった。
「澤村には岡島のような活躍が期待されている。(中略)ダークホース的存在の澤村が守護神争いに加われば、14年前の岡島と同じくらいのインパクトを残せる」と記事は澤村が第2の岡島になることを期待している。
岡島と澤村は日本では巨人で活躍して、海を渡る前年にパ・リーグの球団へ放出された点も共通している。
また、澤村の巨人時代の先輩で仲の良い上原は2013年シーズン前にレッドソックスへ移籍したが、前年の12年のレッドソックスは地区最下位だった。上原のレッドソックス1年目となった13年は前年の地区最下位から一挙にワールド・チャンピオンに輝いている。レッドソックスは昨季も地区最下位だったので、チームとファンは澤村に「上原の再現」を望んでいる。
レッドソックスは15年も地区最下位に沈んだが、上原のレッドソックス最終シーズンとなった16年にも地区首位に急浮上しており、過去7シーズンに2度も前年最下位から翌年地区優勝を成し遂げている。
2. NPBから「逆輸入」のリリーフ投手の活躍
ここ数年、NPBからアメリカに戻ってきた投手、とくに中継ぎ投手の活躍が目立っている。
昨オフには阪神のラファエル・ドリスとピアース・ジョンソン、そして中日のジョエリー・ロドリゲスと3投手が150万ドル以上の契約でメジャーに復帰。メジャー1年目から3人ともに防御率が2.70以下で、奪三振率も11.6以上と合格点を残した。
澤村が加入するレッドソックスは2018年の開幕前に、前年は広島でプレーしていたライアン・ブレイシアをマイナー契約で獲得。シーズン前半はマイナーリーグで投げていたが、7月にメジャーへ昇格すると34登板で10ホールドを記録。ポストシーズンでも9試合に投げて防御率1.04、5ホールドの成績で世界一に貢献した。昨季もチーム最多となる25試合に登板して、ブルペンの中心的存在を担っている。
メジャーでは日本球界で再生されたリリーフ投手の評価が高まっており、澤村の場合はアメリカ球界は初めてとなるが、日本球界での成功が高評価に繋がった。
3. 100マイルの速球と魔球フォーク
昨季にロッテへ移籍してからの澤村は速球が最速99マイル(約159キロ)で、スプリットも93マイル前後(約150キロ)を計測した。
メジャーの投手でスプリットの昨季の平均球速が90マイルを超えたリリーフ投手は、ニューヨーク・メッツのジェウリス・ファミリア(91マイル=約146キロ)一人だけで、澤村の高速スプリットは大きな武器になる。
澤村とは入れ違いに日本球界へ復帰した平野佳寿がアリゾナ・ダイヤモンドバックスに所属していたメジャー1年目(2018年)に大成功を収めたのも、投球全体の45.4%を占めたスプリットで打者を制圧できたから。この年の平野のスプリットは平均83マイル(約133キロ)で、平野よりも15キロ近く速い澤村のスプリットはメジャーの打者を戸惑わせそうだ。
平野だけでなく、野茂を筆頭に多くの日本人投手がスプリットを武器にメジャーで活躍してきた。メジャーではスプリットを投げる投手が減ってきており、それだけ打者にとっては不慣れで厄介な球となってきている。150キロを超えるスプリットはメジャーの打者にとっては見たことのない魔球なので、ピンチの場面も三振で切り抜けられそうだ。
また、球速に関しても30代を超えてメジャーに来てから速くなる日本人投手は過去にも何人かいた。
代表的な例が斎藤で、37歳だった2007年に自己最速の99マイル(約159キロ)を計測。日本での最速は153キロだったので、メジャーに来てから6キロのスピードアップに成功。長谷川滋利もメジャー移籍後に球速を8キロアップしている。
澤村自身も昨季に出した自己最速の159キロは、大学時代の157キロを10年ぶりに塗り替えたもので、30歳を超えてもスピードが上がることを自身の力で証明してみせた。「筋トレ」好きな澤村がメジャーの最新の筋トレに取り組めば、160キロ超えも不可能ではない。
4. ポスティングではなく完全FAでの挑戦
今オフに澤村がメジャーへ移籍できた最大の理由は、ポスティングシステムを利用しての海外移籍ではなく、フリーエージェント(FA)として時間の制限に縛られなかったことだ。
今オフのポスティング申請期間は11月8日から12月12日までで、交渉期限の30日間内に契約に合意しなければならない。申請期間最終日の12月12日に申請したとしても、1月11日までに契約する必要がある。FA市場の動きが遅い今オフは1月半ばを過ぎても大物FAの去就が決まらずに、その影響で他の選手たちの動きも少なかった。
NPBからポスティングでメジャー挑戦を表明した菅野智之と西川遥輝だけでなく、韓国球界で昨季に打率.324、34本塁打、112打点を記録した羅成範も不成立に終わった。
もしも、澤村もポスティングでのメジャー移籍であれば、不成立に終わっていた可能性は非常に高い。
1月11日までの複数年契約を結んだリリーフのFA投手は3人しかおらず(その中の2人は所属チームとの再契約)、市場が動き始めたのはFAリリーフ投手の中で最も高い評価を受けていたリアム・ヘンドリクスがシカゴ・ホワイトソックスとの3年契約に合意した1月15日(日本時間16日)以降のこと。
澤村はFAマーケットが動き始めるまで辛抱強く待ったことが、レッドソックスとの契約に繋がった。
5. 手薄なブルペン陣の強化
昨季のレッドソックス・ブルペン陣の防御率は5.79で、これはアメリカン・リーグ15チーム中14位。昨季は地区最下位に沈んだレッドソックスにとって、ブルペンの補強は大きな課題である。
ライバルチームのヤンキースからメジャー通算127ホールドを誇るアダム・オッタビーノをトレードで獲得して補強したが、もう一人、格安なベテラン・リリーバーを探していた。そこにぴったりと当てはまったのが澤村で、年俸もレッドソックスの予算内に収まる「使い勝手」の良い投手だった。
また、ロサンゼルス・エンゼルスからFAとなったマット・アンドリーズも獲得しているが、アンドリーズとの契約には投球回数が120イニングを超えると、10イニングごとに12万5000ドルのボーナスが付くオプション契約が付いており、アンドリーズは4年ぶりとなる先発として起用する意向のようだ。
このメンツであれば、澤村が開幕からブルペンで大切な役割を任せられるのは、ほぼ間違いない。
現時点での予測では、マット・バーンズをクローザーとして起用して、勝ち試合の7回を澤村、8回をオッタビーノに任せるのではという声が多い。
しかし、昨季からクローザーとなったバーンズは13セーブ機会で4度も失敗と結果を残せておらず、経験不足も否めない。
クローザーに必要な要素は、「経験」、「球速」、「三振を奪える決め球」の3つだが、澤村はその3つ全てを備えているだけに、シーズン序盤にバーンズが不調なようだと、澤村がクローザーに起用されても不思議ではない。
また、バーンズはシーズン後半になると力を落とす傾向があるので、シーズン半ばを過ぎてからの守護神変更も十分にあり得る。
今年の秋には、尊敬する先輩の上原同様に、レッドソックス移籍1年目の澤村がワールドシリーズ優勝を決める試合を締めくくるシーンを見られるかもしれない。