「もう飢え死にだ」北朝鮮、水害被災地からもコメ収奪
旧ソ連型の計画経済は、中央政府が国のすべての経済計画をあらかじめ決定し、それに従って生産を行う。例えば、鉄骨を1万本生産すると決めれば、それに従って原料や燃料の供給を製鉄工場に行うように調整される。
しかし、様々な要因で変動する需要にはうまく対応できない。災害が多発してブルーシートの需要が増えたとしても、その年に生産するブルーシートの数はすでに決められており、急きょ増産しようにも、原料の供給ができない。
2024年現在、世界で唯一このような計画経済を採用しているのは北朝鮮だが、これが様々な問題を引き起こしている。
計画経済は農業にも適用されるが、国が勝手に決める収穫量(ノルマ)は日照時間、災害の有無など不確定要素を全く考慮していない。コメを10万トン生産すると計画で決めたら、たとえ田んぼが水害の被害を受けてその半分しか生産できなかったとしても、当初の計画通りの量を上納するよう求められる。それでも、以前は多少の調整が認められていたのだが、今年は認めないという。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が詳細を伝えた。
両江道農村経理委員会は今月初め、「国が決めた計画通りに収穫を行う。収穫量の調整は行わない」との指針を各市・郡の農村経営委員会を経て、各農場に通告した。
これは国の指示によるもので、農村経理委員会は農産物の買い取りを計画通りに行い、いかなる下方調整も認めないと強調した。
両江道の鴨緑江沿いの地域は7月末、洪水で大きな被害を受けた。そのため「収穫量が計画量に達しない」「計画量を下方調整してくれ」と声が上がることが予想され、それをあらかじめ防ぐために、収穫が始まる前に釘を差したのだ。
農村経理委員会は農民に分配する量や、家畜に与える餌を減らしてでも、当初の計画量を無条件で達成しなければならないと命じた。
(参考記事:飢える北朝鮮「禁断の食肉マフィア」男女9人を公開処刑)
一方で市・郡の農村経営委員会は、来年畑に蒔く種を確保しておくべきだとして、国家計画量と種を除いた分を農民に分配せよとの指示を下した。また、国に未登録の小規模な農地での収穫も計画量に含め、計画量を超過達成できるように努めよとの指示も付け加えた。
このような指示が下された背景には、各農場が意図的に収穫量を少なめに報告して、余った分を借金返済に使ったり、農場幹部が農作物を横流ししたりする行為が横行していると見てのことだ。
北朝鮮の農場は、国から肥料、ビニールシートなど営農資材の供給を受けられないため、トンジュ(金主、闇金業者)から種子や作物などを借りて、秋の収穫後に2倍にして返すのが一般的だ。今回の国の指示は「借金を返すな」と言っているのも同然だ。
ちなみに返済に回されたり横流しされたりした作物は、市場に流入する。穀物流通の独占を復活させたい国として、市場への穀物の流入は好ましからざることなのだろう。しかし、借金を返さなければ、住宅を売り飛ばされたり、来年に種子を貸してもらえないなど、様々な問題が生じうる。
家を失い、収穫物の分配が受け取れなければ、そもそも暮らしていけない。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
汗水垂らして1年間頑張っても、手元に残るのは借金だけだ。「もう飢え死にするだけだ」と農村から逃げ出す人も出てきている。ただでさえ農村の労働力不足に苦しめれているのに、無理やり計画量を達成させるのは、あまりにも近視眼的なやり方としか言いようがない。
収穫がすべて搾取されてしまう、夢も希望もない農村に農民を縛り付けておくには、市場に作物を売らせず、逃げ出すための旅費稼ぎをさせないこと、言い換えると「生かさず殺さず」が最善策だと、北朝鮮は考えているのだろうか。