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サウジのムハンマド皇太子のジャーナリスト殺害「承認」。米情報機関報告書全文。抑えた内容は幕引き狙い?

川上泰徳中東ジャーナリスト
イスタンブールのサウジ領事館で殺害されたジャーナリスト、ジャマール・カショギ氏(写真:ロイター/アフロ)

  2018年にサウジアラビア人ジャーナリストのジャマール・カショギ氏がイスタンブールのサウジ領事館で殺害された事件で、米国の情報機関を統括する国家情報長官室(DNI)は26日、サウジの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が殺害作戦を「承認した」とする報告書を公表した。

 報告書では皇太子が具体的にどのように関与したかについては触れていない。事件直後米中央情報局(CIA)報告の内容として米国内で報道されていた皇太子と殺害作戦を指揮した最側近とのメッセージのやりとりがあったことなどの記述もない。かなり抑えた内容で、この報告書を見る限り、バイデン大統領はカショギ氏殺害問題に対応したという姿勢を示しながらも、この問題で幕引きを図っているという印象だ。

 DNIが公表した4ページの文書については、ニューヨークタイムズやロイターには、文書へのリンクを張っているが、リンクをクリックしても理由は分からないが、「見つかりません」の表示がでる。あるイスラエル系サイトにあった画像でやっと「ジャマール・カショギ殺害についてのサウジ政府の役割についての評価」と題する文書が確認できた。

国家情報長官室(DNI)が公表したカショギ氏殺害についての報告書の表紙
国家情報長官室(DNI)が公表したカショギ氏殺害についての報告書の表紙

 ◇文章の本文は以下の通りである。

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我々は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がサウジのジャーナリストジャマール・カショッギを拘束または殺害するためにトルコのイスタンブールで行われた作戦を承認したと判定した。この評価は、2017年以来、皇太子が王国における意思決定を支配してきたこと、ムハンマド皇太子の主要な顧問と身辺警備メンバーが直接的に関与していること、さらにカショッギを含む海外の反体制派を沈黙させるために暴力的な手段を行使することを皇太子が認めていたことに基づいている。2017年以来、皇太子は王国の治安・情報機関を絶対的に支配しており、サウジの当局者たちが皇太子の承認なしに、このような性質の作戦を行う可能性は非常に低い。

• カショッギ殺害の時点で、皇太子は側近たちが与えられた任務を遂行できなかった場合、逮捕されるか免職されることを恐れるような状況を醸成していたであろう。そのことは、側近たちがムハンマド皇太子の命令に疑問を呈したり、彼の同意なしに危うい行動を取ったりする可能性は低いことを示唆している。

• 2018年10月2日にイスタンブールに到着した15人のサウジのチームには、サウジ王室に属するメディア部門(CSMARC=Center for Studies and Media Affairs at Royal Court)に勤務、または関係していた職員が含まれていた。作戦当時、CSMARCはムハンマド皇太子に近いアドバイザーであるサウード・アル=カフタニが率いており、彼は2018年半ばに、皇太子の承認なしには決定を下さないと公に語っている。

• チームには、ムハンマド皇太子の個人的な身辺警護エリートチームの7人のメンバーも含まれていた。このチームはサウジ王室警備隊の一部門であり、「迅速介入部隊(RIF=Rapid Intervention Force)」として知られ、皇太子を守るために存在し、彼の指示だけを聞き、皇太子の指示を受けて、それ以前にも王国内と海外での反体制派の弾圧活動に直接参加していた。我々は、RIFのメンバーがムハンマド皇太子の承認なしにカショッギに対する作戦に参加することはなかったと判定した。

• 皇太子はカショッギを王国への脅威とみなし、彼を黙らせるために必要ならば暴力的な手段を用いることを大筋で認めていた。サウジ当局者はカショッギに対する場合を特使しない作戦を事前に計画していたが、当局者たちが事前に、どの程度まで彼に危害を加えることを決めていたかは我々には分からない。

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 この本文の後に、「ムハンマド皇太子のために、カショギ殺害作戦に参加したか、指令したか、加担したことで、その死に責任がある」人物として、サウード・アル=カフタニ顧問以下、21人の名前が並んでいる。その中にはムハンマド皇太子の名前はない。

 サウジ国営通信は同外務省の声明として「王国の指導部に関する否定的で、虚偽の受け入れられない査定を完全に拒否する」と報じ、「報告書には不正確な情報と結論を含んでいる」と付け加えている。

■皇太子と側近の11通のメッセージ

 カショギ氏殺害事件については、CIAは事件から1か月半たった2018年11月半ばには、ワシントン・ポストなど主要米国メディアが「CIAは殺害はムハンマド皇太子の指令と結論付けた」と報じたが、報告書は開示されなかった。さらに、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は12月1日付の記事で、「CIAの極秘報告書によると、ムハンマド皇太子はカショギ氏を殺害したチームを統括していた側近のアドバイザーに、カショギ氏の死の数時間前と後にわたって、少なくとも11通のメッセージを送っていた」と特報した。

 メッセージの受け手は、今回のDNI報告書でも名前が挙がっているアル=カフタニ顧問であり、「顧問は同じころ、イスタンブールにいる15人の実行チームと直接連絡をとっていた」とCIAはしたが、皇太子と顧問のメッセージの内容については「分からない」としているという。

 この時の報告書についてWSJは「ムハンマド皇太子が個人的にカショギ氏を標的にし、おそらく彼の殺害を命じたことについては、CIAは『中程度から高度の確信』があるとしているが、『皇太子が殺害命令を出したという報告はない』としている」と書いている。

 今回、講評されたDNI文書の日付は2021年2月11日となっており、皇太子と側近のメッセージのやりとりなどの記述がないことからも、事件直後の2018年11月に作成された極秘報告書そのものが開示されたわけではなく、バイデン大統領がこの問題を処理するために公表用としてDNIに作成させたものと考えるべきだろう。

 米国務省は今回の報告書公開を受けて、サウジの元秘密警察副長官のアフメド・アル・アシリ氏と、迅速介入部隊(RIF)に対する制裁を発動させた。アル・アシリ氏は2018年の事件の後、事件の責任を問われて免職されており、今回公表された報告書で事件に関与した21人には含まれておらず、なぜ、制裁の対象となったかはわからない。事件当時、名前が出た中の高官だったということであれば、この中身のない制裁措置も、この問題で幕引きを図ろうとするバイデン大統領の意図の表れと見ることもできる。

【参考】

バイデン大統領のサウジの〝ムハンマド皇太子外し〟はどこまで進むのか? <川上泰徳 | 中東ジャーナリスト>

中東ジャーナリスト

元朝日新聞記者。カイロ、エルサレム、バグダッドなどに駐在し、パレスチナ紛争、イラク戦争、「アラブの春」などを現地取材。中東報道で2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2015年からフリーランス。フリーになってベイルートのパレスチナ難民キャンプに通って取材したパレスチナ人のヒューマンストーリーを「シャティーラの記憶 パレスチナ難民キャンプの70年」(岩波書店)として刊行。他に「中東の現場を歩く」(合同出版)、「『イスラム国』はテロの元凶ではない」(集英社新書)、「戦争・革命・テロの連鎖 中東危機を読む」(彩流社)など。◇連絡先:kawakami.yasunori2016@gmail.com

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