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ガザの3万7千人を標的化:AIマシーン「ラベンダー」の存在明らかに イスラエル独立メディアが調査報道

川上泰徳中東ジャーナリスト
イスラエル軍による6カ月間のガザ攻撃で3万3000人以上が死亡した(写真:ロイター/アフロ)

 イスラエルの独立系ネットメディア「+972マガジン」とローカル・コールは共同取材チームでイスラエル軍がガザ攻撃で使用している人工頭脳(AI)マシン「ラベンダー(Lavender)」についての長文の調査報道を公開した。ラベンダーの存在がメディアに登場するのは初めて。同取材チームはこれまでも「ハブソラ(福音)」というAI標的生成マシンについて調査報道を公開した。ハブソラが 建物を標的とするAIマシーンなのに対して、ラベンダーは人を標的とするAIマシンという。

※参考記事:イスラエル軍のガザ攻撃で市民死者の激増の背景にあるAI標的生成システム:イスラエルメディア調査報道

 調査報道は「ラベンダー(Lavender):ガザでイスラエル軍に爆撃を指示する AIマシン」 というタイトル。取材はイスラエル軍情報部門に属し、今回のガザ攻撃に参加し、ハマスやイスラム聖戦の工作員・戦闘員の暗殺作戦のために標的を生成するAIマシンの使用に直接関与していた6人の将兵にインタビューをし、情報源としているという。

イスラエルの独立系メディア+972マガジンのサイトで公開された「ラベンダー(Lavender):ガザでイスラエル軍に爆撃を指示する AI(人工頭脳)マシン」の調査報道
イスラエルの独立系メディア+972マガジンのサイトで公開された「ラベンダー(Lavender):ガザでイスラエル軍に爆撃を指示する AI(人工頭脳)マシン」の調査報道

■AIの指示を『あたかもそれが人間の決定のように』

 情報関係者への取材に基づいて、記事では「ラベンダーは、特にガザ戦争初期段階において、前例のないパレスチナ爆撃で中心的な役割を果たしてきた。実際、情報源によると、軍事作戦に対するAIマシンの影響は、彼らは本質的にAI マシンの指示を『あたかもそれが人間の決定であるかのように 』処理した」と書いている。

 ラベンダー・AIマシンは、ハマスとイスラム聖戦の軍事部門に所属している疑いのある、すべての工作員を潜在的な「人物標的」としてマークするように設計されている。調査報道に証言した4人の軍情報部兵士によると、「下位の工作員まで含む37000人を工作員リストとして標的にした」という。

 私(川上)がガザの取材を通して知る限りでは、37000人を工作員リスト というのは、想像できない数字である。ハマスの戦闘員の名簿は公開されているわけではなく、戦闘員は自分が戦闘員であることを家族や隣人にも言っていないのが普通である。つまり、ラベンダー・マシーンがマークする「暗殺リスト」は、上級の幹部など既に知られたメンバー以外は、様々な情報を重ね合わせて推定されたものでしかない。

■ラベンダーを動かす軍情報部エリート部隊「8200」

 この記事は、ラベンダーがどのように工作員の標的を生成するかについても書いている。ラベンダーを動かしている軍情報部のエリート情報部隊「8200」の司令官が、匿名で書いたAI関連の著作が紹介され、その中でラベンダーと同様の「標的生成」マシンを構築するための短いガイドが出ているという。

 このガイドには、個々の人物の危険評価を行う「数百、数千の特徴」から、既に知られている戦闘員の通信ソフト「Whatsapp」のグループに入っているとか、数か月ごとに携帯電話を変更するとか、頻繁に住所を変更するなど、 いくつかの特徴を示している。「視覚情報、携帯電話情報、ソーシャルメディア接続、戦場の情報、電話連絡先、写真」など特徴となる条件を人間が選び、AIマシンが与えられた膨大な住民データを特徴をもとに独自に分類する。

■AIで「ガザの住民を1 から 100 までの危険評価」

 +972マガジン に証言した兵士は次のように語っている。

「ラベンダー・システムはガザのほぼすべての人物に 1 から 100 までの危険評価を与え、彼らが戦闘員である可能性がどれほど高いかを示している。ラベンダーは、訓練データとして機械に情報が供給された既知のハマスとイスラム聖戦の工作員の特徴を学習する。そして、これらの同じ特徴を一般の集団の中で見つけ、いくつかの特徴を持っていると判明された個人は高い危険評価に達し、自動的に殺害の潜在的な標的になる」

■イスラエル軍の230 万ガザ住民の大量監視システムが基に

 このようなAI標的評価システムが機能するためには、対象となるガザ住民の包括的なデータが必要となるが、それはイスラエル軍が「230 万人のガザ住民のほとんどの情報を収集する大量監視システム」で集められた個人データが、ラベンダーシステムに入力されることになる。

 つまり、既に確認されているハマスの工作員・戦闘員についての特徴が徹底的に分析され、その人物とSNSなどで連絡をとっている人々や、その人物と似た情報の特徴を持つ人々が、危険人物評価にかけられるということだ。一見合理的に思えるかもしれないが、ハマスの工作員・戦闘員という認定は、推測でしかない。推定をいくら重ねても、ハマスの工作員・戦闘員を完全に割り出すことはできない。

■AIラベンダーの標的の精度90%、10%の誤謬も

 +972マガジンでラベンダーを実際に使用した兵士は、ラベンダーの殺人リストについて、手動でAI システムによって選択された数百の標的から無作為にサンプルを選んでその精度をチェックしたという。その結果、ラベンダーが割り出した標的の中で、実際にハマスに加担している個人の割合は90%だったという。

 その部内のチェックの後、軍はシステムの全般的な使用を承認した。つまり、ラベンダーがある個人をハマスの戦闘員だと判断した場合、情報担当者は本質的にそれを命令として扱うよう求められたとう。情報関係者は「ラベンダーマシンがその選択をした理由を個別に確認したり、マシンが基づいている生のインテリジェンスデータを調べたりする必要はないことになった」と証言している。

 ラベンダーの標的生成の正確さは90%であるということは、10%の誤りがあるということである。イスラエル軍がハマスの戦闘員を狙って空爆していると主張しても、10回に1回は関係ない人物の家が爆撃されることは避けられないことを示している。

■実際に戦闘員と誤って標的とされた例も

 実際に、+972マガジンに証言した情報関係者は、ラベンダーAIマシンが、警察や民間防衛隊員や戦闘員の親族など、既に知られたハマスやイスラム聖戦の工作員と同様のコミュニケーションパターンを持つ個人がいて、戦闘員と誤って標的としたことがあると説明した。さらにたまたま工作員と同じ名前とニックネームを持っていた住民や、かつてハマスの工作員が所有していた携帯電話を使用した人間もいた。

 レベンダーの不正確さを批判する情報関係者は「(標的になるか、ならないかの)境界は曖昧である。 ハマスから給料を受け取ってはいないが、あらゆる種類のことでハマスを支援していれば、ハマスの工作員だろうか? 過去にハマスにいたが、今日はもうそうではない者は、ハマスの工作員か? これらの特徴をAIマシンは容疑者として旗を立てるが、それは正確ではない」と語ったという。

■かつては上位の軍事工作員だけが標的だった

 人の生死にかかわる攻撃について、なぜ、そのようないい加減なシステムがとられたのだろうか。

 +972マガジンによると、イスラエル軍は今回のガザ攻撃までは「人物標的」という言葉はハマスやイスラム聖戦の「上位の軍事工作員」だけを指していたという。なぜなら、軍の国際法部門の規則によれば、「上位の軍事工作員」 を殺害するために、その自宅を空爆すれば、家族や周囲の民間人が巻き添え被害の犠牲になることは避けられない。しかし、攻撃において軍事的な利益とそれによる民間人の巻き添え犠牲には国際法で定める「均衡性の原則」が適用されるため、軍事的に重要ではない下位の工作員を殺害するのに空爆することは、この原則に照らしてできないという判断である。

■ハマスの越境攻撃後に数万人の下位の戦闘員が標的に

 ところが、昨年10月7日にハマスの軍事部門がイスラエル南部への越境攻撃で約1200人を殺害し、240人を拉致したことで、イスラエル軍は「ハマスでの階級や軍事的重要性に関係なく、軍事部門のすべての工作員を人物目標として指定することを決定した」という。標的の範囲がいきなり広がったために、以前は、一人の人物標的の殺害を許可するために、軍情報部が行っていた確認のための作業ができなくなった。

■AI使用した攻撃で、人間は「ゴム印押すだけの役割」

 取材源によると、以前の戦争では、一人の人物標的の殺害を許可するために、担当将校はその人物が確かにハマスの軍事部門の上位メンバーであったという証拠を照合し、彼がどこに住んでいたか、彼の連絡先情報を見つけ、最後には彼が家にいることをリアルタイムで確認する作業を行っていた。

 しかし、今回のガザ攻撃の初期段階で、軍がラベンダー・システムが作成する殺害リストを採用することを承認したことで、「人間の職員はAIシステムの決定に対してゴム印を推すだけの役割を果たすことが多かった。通常、彼らは爆撃を許可する前にラベンダーのマークが付けられた標的が男性であることだけを確認して、一つの標的の確認に約 20 秒だけ使った」と情報関係者は証言した。

■標的を追跡し、帰宅を知らせる「父さんはどこ?」システム

 さらに、イスラエル軍は標的となった人物が夜、家族全員と一緒にいるに時に攻撃するのが通例だったという。情報筋によると、「(軍事拠点を爆撃するよりも)家族の家を爆撃する方がはるかに簡単だからだ 」という。さらに、標的が家に戻ったことを追跡する「父さんはどこ?(Where’s Daddy? ) 」と呼ばれるAI自動化システムが使用されたことも、今回の調査報道で初めて明らかになったという。

 「父さんはどこ?」システムでは、ラベンダーによって標的とされた人物を継続的に監視下に置き、彼らが家に足を踏み入れたらアラートを出して知らせる。それによって、空爆が指令され、家を破壊する。このシステムは、ラベンダーと組み合わせで、標的と一緒に家にいた家族全員が殺害する致命的な効果を上げたと、情報関係者は+972マガジンに語った。

■工作員一人の殺害に「10人の妻と子供」の巻き添え

 このことについて、標的作戦室の士官は取材に対して、「例えば、ハマスの工作員一人に加えて、家の中の民間人10人を計算すれば、通常、それら 10人は女性と子供になる。ばかげているが、殺した人々のほとんどは女性と子供ということになる」と語った。

 「父さんはどこ?」システムが夜、標的の人物が自宅に入ったとアラートが出ても、実際に空爆するのは未明になるなど、時間差があり、標的攻撃の直前に標的が実際にその場所にいるかどうかのリアルタイムの確認はないため、標的の人物は一時的に家に戻っただけで、その後、家を出て、空爆して死んだのは妻と子供だったり、または夜中に家族全員が別の家に移ったために、空爆して死んだのは、何も知らない周辺住民家族だけだったという例も実際にあったとしている。

■下位の戦闘員の標的は無誘導の“愚かな” 爆弾使用

 さらに悪いことに、ラベンダーがマークした下位の戦闘員とされる人物を標的にする時には、軍は無誘導ミサイルを使用することを求めたという。一般に無誘導ミサイル は衛星で誘導されピンポイントで標的を攻撃できる“賢い” 精密爆弾とは対照的に “愚かな” 爆弾として知られている。そのために、居住者が住む建物全体が破壊され、多くの死傷者が発生する可能性があった。

 +972マガジンの取材に応じた情報将校は「重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくない。それは国家にとって非常に高価であり、精密爆弾は不足している」 と述べた。別の情報関係者は、自らラベンダーがマークした若手工作員とされる数百の個人の家を爆撃することを許可したと述べた。それらの攻撃の多くは民間人と家族全員を殺害し、「巻き添え被害」となった。

■イ軍の「ハマスが人間の盾」の主張と矛盾する攻撃

 このような証言を読むと、イスラエルのガザ攻撃で多くの民間人の犠牲がでることについて、イスラエル軍が「ハマスが人間の盾をとって、市民を盾にして、住宅地に軍事拠点を置き、攻撃してくる」と主張していることと矛盾が生じる。+972マガジンの証言した複数の情報関係者は、ハマスの工作員が民間地域から軍事活動に従事することを否定しないが、一方で、「イスラエル軍は軍事活動が行われていない民間世帯内で、戦闘員の容疑者を爆撃するという選択を日常的に行っていた」と強調した、という。

 つまり、「巻き添え被害」で死んでいる民間人は、ハマスがイスラエル軍を攻撃しているために戦闘地域になったいる民間地域ではなく、戦闘を終わって家に帰って夜、家族と就寝している戦闘の起こっていない民間地域ということになる。その工作員が家もろとも爆撃されれば、標的だけでなく、その家族も死ぬ。ガザは大家族で10人家族も珍しくないため、多くの女性、子供が犠牲になった。 さらに、近くに戦闘員が住んでいることを知らない周辺の家の家族も巻き添えとなり、数十人が一度に犠牲になることもありうることになる。

■若手工作員殺害に「最大15人ー20人の民間人巻き添え」容認

 +972マガジンの取材に応じた情報関係者2人は、イスラエル軍が巻き添え被害について、前例のない決定をしたと証言した。軍は戦争の最初の数週間で、ラベンダーがマークしたハマスの若手工作員全員に対して、最大15人または20人の民間人を殺害することを認めたという。これは、イスラエルの過去の戦争で「均衡性の原則」によって軍が下位の戦闘員の暗殺では「民間人の巻き添え被害」を許可していなかった原則を放棄したことになる。

 さらに取材に応じた情報関係者は、標的が大隊長または旅団長の階級を持つハマスの軍事部門の高官である場合は、「イスラエル軍は一つの標的あたり『100人』の民間人の殺害を許可した。それは、公式な政策としては、イスラエルでも、最近の米軍作戦においてさえ歴史的な前例がない」と語っている。

■大隊司令官殺害では「100人以上の民間人が犠牲」

 実際に12月2日のガザ市東のシュジャイーヤ地区の空爆では、ハマスの軍事部門の大隊の司令官が標的となり、100人以上の民間人が犠牲になった。+972マガジンの取材に応じた情報関係者は、「シュジャイーヤ大隊の司令官の爆撃では、100 人以上の民間人を殺害することが分かっていた」と語り、「私にとって、心理的に、それは普通ではなかった。100 人以上の民間人の犠牲。それは禁じられている線を越えている」と付け加えた。

 +972マガジンは「戦争の初期段階におけるこの制限の緩和は致命的だった。ガザ保健省のデータによると、イスラエルは戦争の最初の6週間で、これまでの死者数のほぼ半分である約15000人のパレスチナ人を殺害した」としている。

■異常な死者数が出た要因■
 攻撃開始直後からの異常な死者数が出た要因をまとめると、次のようになる。
①ハマス越境攻撃の後、標的がハマスの下位の戦闘員まで拡大された。
②標的を拡大するために、イスラエル軍のガザでの「大量監視システム」の情報が、AI標的システム、ラベンダーに入力され、37000人に及ぶ標的の生成が行われた。
③ラベンダーの標的の精度は90%と事前チェックで分かったが、ガザ攻撃の標的生成に利用された。
④軍は、ラベンダーが生成する標的を自動的に承認するよう決定した。
⑤攻撃前の軍情報部による詳細な確認は不要とされ、短時間で形式的な確認作業になった。
⑥多くの標的が下位の戦闘員だったが、15人から20人の巻き添え被害は承認された。高位の標的では許容される巻き添え被害は100人を超えた。
⑦標的となった人物への爆撃は、標的追跡システム「父さんはどこ?」によって、夜、自宅に戻った後に実施された。そのため、標的だけでなく、家族が巻き添えになった。
⑧標的の多くは下位の戦闘員で精度の低い無誘導ミサイルが使用され、標的の家だけでなく、周辺の家族も犠牲になった。さらに多くの民間人犠牲がでた。

■ハマス攻撃後、イ軍は「ヒステリー」状態

 なぜ、このような歯止めの効かない攻撃になったのかについて、+972マガジンの調査報道では、ハマスの越境攻撃の後、情報関係者は、「職業軍人はヒステリー(異常な興奮)状態だった」と語っている。「彼ら(職業軍人)はどのように反応すればよいかまったく知らなかった。彼らが知っていた唯一のことは、狂人のように爆撃を開始して、ハマスを解体しようとすることだった」と当時の状況を語っている。

 イスラエルは中東では最強と言われる軍事大国であり、ハマスの軍事部門による越境攻撃によって大きな打撃を受けたことで、イスラエルの軍人たちが衝撃を受けたことが分かる。

■取材を受けた軍情報関係者の攻撃への疑問

 別の情報関係者は「ハマスに関連するすべての標的が(軍から)合法とされ、 そして、ほとんどあらゆる巻き添え被害が承認されて、何千人もの人々が殺されることは明白になった」と語った。さらに別の情報関係者は10 月 7 日以降の軍隊内の雰囲気を説明するために「復讐」という言葉を使った。「私たちは『今はどんな犠牲を払ってもハマスを潰さねばならない。何でもいいから、爆撃しろ 』と言われました」と語っている。

 +972マガジンはイスラエル軍のガザ攻撃に批判的な調査報道を続けているが、今回、ガザ攻撃に従事した軍情報部の将兵が取材に協力したことは特筆すべきことである。その一人は、「ガザのパレスチナ人を殺害するというこの 不均衡な 政策はイスラエル人を危険にさらすと考えるようになった」と述べ、そのことが、取材インタビューを受けることを決めた理由の一つだったという。「短期的には、ハマスを傷つけるので、私たちはより安全かもしれないが、長期的な安全度は低い。ガザ住民のほぼ全員が、家族を失った遺族となり、10 年もすれば、人々がハマスに参加する動機が高まることになる。そして、ハマスが人々を募集するのははるかに簡単になるだろう」と付け加えた。

■AIに標的生成をゆだねることの危険性

 この調査報道で、二つの重要な問題が見えてくる。

 第1の問題は、この報道が警告するAIに標的生成をゆだねることの危険性である。

 ラベンダーを動かしている軍情報部のエリート情報部隊8200の司令官は、AIと人間の連携についての著作の中で、AIは「新しいターゲットの設定とターゲットを承認するための意思決定の両方に対するヒューマン・ボトルネック (人間の障害)」を解決するだろうと書く。情報処理や評価はAIが高速で行い、人間の役割は決定や実施の段階での倫理的な関与だとしている。しかし、実際に戦争が始まれば、AIは人間のチェックが全く追い付かないほどの速度で標的を生成していく。破壊と殺戮という戦争の効率が優先され、戦争犯罪を回避するという人間の倫理的チェックが省略されてしまうことが、今回のイスラエル軍のガザ戦の教訓となっている。

■停戦を働きかけなかった米欧日本の責任

 第2の問題は、イスラエルのガザ攻撃で、最初の6週間で15000人が死に、その7割が子供と女性であることは、ガザ保健省の集計によって公開され、世界中が知っていたことなのに、米国、英独仏など欧州主要国、さらに日本も含む「西側友好国」は、イスラエルの「自衛権」を認めると言い続け、停戦を働きかけなかったことである。

 今回の+972マガジンの調査報道を受けた軍情報関係者の証言によって、ハマスの攻撃を受けて、イスラエル軍の軍人たちが、動転し、怒りと復讐心のために、それまでの巻き添え被害のルールをとっぱらって、常軌を逸した攻撃で、ハマスではなくガザの民間人を大量殺戮した内実が明らかになった。

■NYTも一か月半後に「死者の記録的増加」を警告

 攻撃が始まった当初は、イスラエル軍の内実は分からなかったにせよ、攻撃の異常さは明らかだった。実際に11月25日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は「イスラエル軍の集中攻撃の下で、ガザの民間人の殺害は記録的な増加を示している」という記事を出し、記事の冒頭にはガザ保健省が発表した死者数をグラフとして示し、「11月22日の時点で、死者総数が1万4000人を超え、そのうちの1万人人が女性と子供」と書いている。

 その記事で軍事専門家は「ガザから報告された死傷者数を控えめに読んでも、イスラエル作戦中の死者数の増え方は今世紀に入ってからほとんど前例がない」と語っていた。さらに、民間人の死者が増える理由として、記事ではイスラエルが短期間の戦闘停止までに1万5000以上の標的を攻撃し、特に米国製の2000ポンド(1トン)爆弾 を使用していることを指摘していた。

 イスラエル軍の報復攻撃の異常さが指摘されているにもかかわらず、米欧日本 がイスラエルの「自衛権」と言い続けて、攻撃を制止しようとしなかったことが、半年で死者3300人を超える攻撃につながったわけで、〝友好国〟にも重大な責任がある。

中東ジャーナリスト

元朝日新聞記者。カイロ、エルサレム、バグダッドなどに駐在し、パレスチナ紛争、イラク戦争、「アラブの春」などを現地取材。中東報道で2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2015年からフリーランス。フリーになってベイルートのパレスチナ難民キャンプに通って取材したパレスチナ人のヒューマンストーリーを「シャティーラの記憶 パレスチナ難民キャンプの70年」(岩波書店)として刊行。他に「中東の現場を歩く」(合同出版)、「『イスラム国』はテロの元凶ではない」(集英社新書)、「戦争・革命・テロの連鎖 中東危機を読む」(彩流社)など。◇連絡先:kawakami.yasunori2016@gmail.com

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